ニャルラトホテプの懊悩
時系列としては1話の前です。
無貌の神、アザトースの代弁者、這いよる混沌、千の化身を持つ者。さまざまな呼ばれ方、扱われ方をするニャルラトホテプだが、共通して言えることが二つある。一つはとても邪悪であること。もうひとつは他の邪神全員からアザトースのパシリだと思われていることだ。ニャルラトホテプにはいついかなる時であってもアザトースのお願いを最優先で叶える義務がある。叶えられなければどんなに運が良くてもでもニャルラトホテプは死ぬだろうし、最悪の場合はこの世界そのものが消え去るだろう。そんな理不尽の極みのような場所で働いているニャルラトホテプは今現在、日本のある飲み屋の個室で管を巻いていた。もちろん下等生物の化身を使ってだ。
「なぁぁぁぁんで私だけがこんなに苦労しているんですかねぇぇぇぇぇぇ!!」
「君くらいなもんだヨ?陛下の本体と会話して発狂しない存在なんてサァ...このボクでさえそのお姿を垣間見ただけで死にかけたんだヨ?」
机に突っ伏しながら大泣きしているニャルラトホテプを見て向かいに座る男はため息を漏らす。男の顔はどことなくカエルのようだった。
「それはその通りなんだけどねぇ...でも陛下のお願いはアバウトすぎるんですよ!!なんですか「おいしいケーキが食べたい」って!!下等生物の世界でしか存在しないものをどうしてほぼ寝てるだけなのに知っているんですか!つーか陛下の味覚と下等生物の味覚が同じとは限らないじゃないですか!私が陛下に献上する時どれだけ肝を潰したか貴方にはわからないでしょうね!世界の終わる理由がケーキが口に合わなかったからだなんて私認めたくないですよ!」
「アー、それで結局どうしたんだネ?」
「昔陛下が喜んで食べていたfjhgskjfほhgをケーキっぽく偽装して渡したんですよ...ほんと今思うとよくバレなかったですよね...ツァトゥグア、貴方ならどうしましたか?」
カエル顔の男、ツァトゥグアは突然のキラーパスにモツ煮を食べる箸が止まってしまう。早く答えないと長ったらしい嫌味を言われるに決まっている。fjhgskjfほhgとは一体なんなのか聞きたかったが、とりあえずはニャルの問いかけに答えることにした。
「そうだネ...「ボクならおいしいケーキなど存在しない」と報告するかナァ...」
「ダウト。陛下がおいしいケーキを持ってこいと言った時点で、例え本当になかったとしてもあると言わなければいけないですよ。こんな初歩的なことさえわからない貴方ではこのニャルラトホテプの代わりを努めることなど永劫に不可能ですね........ハァァァ!?」
自慢を始めたかと思ったら急に席を立ち慌てふためくニャルラトホテプの姿を見てツァトゥグアは訝しむ。ニャルとはそこそこ長い付き合いだが、この神がここまで驚く姿をツァトゥグアは見たことがない。
「一体全体どうしたんだネ」
「陛下がお目覚めになられた」
「ハァ!?」
眠れる魔王アザトースが目覚めたということは世界が滅びることと同義である。久しく感じたことのない恐怖からツァトゥグアの心臓の鼓動が早くなる。冷や汗が止まらず、思考もまとまらない。急いでニャルラトホテプに我々は大丈夫なのかと質問した。ニャルラトホテプによればこの時に備えて旧神たちと身代わりになってくれる世界を創造していたため大丈夫とのことだった。ツァトゥグアは心を紛らわすために店員に店で一番アルコール度数が高い酒を用意させると、一気に飲み干す。本来の体では何の意味もないが、下等生物の化身を使っている今ならば効果はある。次第に頭がふわふわした感覚に包まれ、不安が少しずつ消えていく。ニャルの方を見るとこちらが落ち着いたのを察したのか話しかけてくる。
「私今陛下に呼ばれたからお先に失礼!」
ツァトゥグアの返事を待たずにニャルラトホテプは魔術を発動してその場から消え去る。化身を千個も持っているのだから今一緒に飲んでいる化身ではなく別のを向かわせればいいのにとツァトゥグアは思ったが、わざわざツァトゥグアと飲んでいた化身をアザトースの元に向かわせた理由はすぐにわかることとなった。
「あいつ代金踏み倒しやがったナ......」
領収書はニャルラトホテプの教団の名前で切ってやろう、そう決心したツァトゥグアは新しい酒を店員に頼んだ。
ツァトゥグアとオグハは別神です。ものすごい似ていますが...
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