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名も無き龍が眠る地に  作者: 佐野ひかる
灰色の子供と迷宮探索
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4ー5 私の竜

その日、初めて国王は竜の姿のカイアンを見た。


熱が引いて食欲も戻った国王が、じゃあそろそろ日常に戻るかと、仕事の準備を始めたところだった。


「陛下、お願いがございます。」

カイアンが控えめに要望がある事を口にした。


「何だ?確約は何一つせんが言ってみるがいい。」


今の王城は人間サイズで作られていて、カイアンはもし何かがあって竜の姿をとったとき、城が壊れる心配をしていたのだった。


「出来れば素早く外に出られる経路や、滑空するために高い場所から出られる窓が欲しいのです。」


国王の仕事は全て放置され、王城の設計者、航空力学のプロ、警備の担当者などが集められ、彼の要望を叶えるために叡智が結集されることになった。


そのため、まずはカイアンの竜の姿がどういうものか、全員が確かめることになり、騎士寮の訓練場に集まった。


訓練場が見渡せる騎士寮の窓は騎士達や教師達で一杯になった。

何が始まるか彼らには説明されていなかったが、この国の最高権力者を見ようと近くにいたもの達も見物に集まった。


国王を取り巻く賢者達の中から、茶色の髪の青年が広場に進み出て、はっきりと大きく頷くと、そこには竜の姿が現れた。


前肢と翼が一体化したワイバーンのような姿で、鱗は背中は黒く、茶色を経て、腹側は白くなっている。

首の周りはふさっとした黒い毛皮が取り巻いており、これは恐らく彼の体の体温を保つためにあると思われる。

前肢は体の割合からしてかなり長く、手のあるところには五本の指とは別に翼の支え骨が生えていて、広げた翼はかなりの面積を持っていた。


専門家達は巻き尺を取り出したり、魔導器を使うなどして彼の体のあちこちを計測し始めた。


騎士寮の見物人達は、突然現れた巨大な竜に感嘆の声をあげながら釘付けになっている。


教師達は確かにカイアンが変化するところを目撃し、王国騎士団始まって以来の優秀な見習いが人間ではなかったことに、驚きつつも納得がいった。



国王はワクワクが止まらない様子でカイアンに話しかけた。


「大きいな、背中に乗っても良いか?」

「どうぞ。」

巨大な竜から控えめなカイアンの声がする。


「どうやって上がればいい?」

すると竜は上体を低く伏せ、翼を畳んで腕を邪魔にならぬように縮めた。


「どの様にでも。」

国王はよじ登ろうと彼の腕に足をかけて止まった。


「靴は脱ぐべきか?」

「お気になさらず。」


背中に上がり、ふさふさの襟巻きより少し下に掴まる。


「そこですと翼が動くと安定しません。もう少し上か下に。」

彼がそう言って翼を広げて動かすと、肩甲骨の様な骨が押し寄せてきて掴まっていられない。


国王は竜の背中をじりじり這い上がってフサフサに掴まる。

「ここはどうか?」


「そこでも構いませんが、もう少し上に腰掛けて、足を自由にするのはいかがですか?」

「成る程、肩車だな?」

国王はフサフサの上に腰掛け、竜の首に足でつかまった。


「肩の邪魔にならぬのは良いが、掴むところが無いな。其方の首の後ろの鱗はとんがっていてとてもじゃないが掴まれないぞ。」

「それは知りませんでした。自分では見えないところなので。」


「其方に手綱や鞍を乗せるのはしたくないな。家畜扱いの様で良い気分では無い。」

「私は一向に構いませんが。」


少し考えた後、カイアンは提案した。

「滑空中は首を水平にしますから、ツノを掴むのはどうですか?」


再び上体を前に倒し、頭も前を向けると国王のすぐ目の前まで枝分かれのしたツノが伸びる。


「…下を向いてみてくれ。」


カイアンが言われた通りに下を向くと、ツノを掴んでいた国王はものすごい勢いで座っていた位置から高く持ち上げられた。


カイアンは国王をぶん投げそうになってギョッとしたが、当の本人は大笑いしている。

ツノに掴まってぶらりと吊り下げられたまま彼の笑いが止まらない。


カイアンはゆっくりと頭を戻して、国王をそっと地面に下ろした。


「其の方は自分のツノの長さをわかっていなかったのであろう?」


下で見守っていた賢者や側近達は青い顔をして、何人かは腰を抜かして座り込んでいる。

国王本人は腹を抱えて息ができないほど笑っていた。


カイアンは人の姿に戻り、ディールからマントを受け取りながら、怒った顔で国王を見た。


「陛下に怪我をさせたら私は腹を切りますよ。」


未だ笑いが収まらない国王は、カイアンの怒りに対して降参というふうに両手を挙げ、詰め寄る彼に詫びを入れた。


「…すまぬ、ちょっと思いついただけだ。二度としないと誓うからそう怒るな。」

「陛下が私などに謝ったり誓ったりする必要はございません。」


国王は、目を伏せてむすっとして顔を逸らした彼の顔を覗き込んで、イタズラっぽく言った。


「命令すれば良いのか?「今のもう一回だ!」と?」

「やめてください!」


専門家達もカイアンが人の姿に戻ったことで落ち着きを取り戻し、なにやら図面を広げながら、あーでもないこーでもないと話し合っている。


「あとは手綱代わりのものと、服の問題をクリアせねばならぬなあ。」

「…服はもう諦めます。リンドーラ王女もそうでしたし。」

「ほう、其の方王女の生まれたままの姿を見たのか。それは是非詳しく聞きたいな。」


彼は固まり、少し遅れて真っ赤になった。


「誰か、記憶を見る魔導器を持って来い。」

国王が従者達に向かって言い、カイアンが走って王城に向かった。


側近や従者達はカイアンがそれを取りに行ったのかと思って動かなかったが、国王がヒイヒイ言いながら大笑いでしゃがみ込むのを見て、また陛下が何か意地悪いことを言って彼が逃げ出したのだと合点した。


「私の竜か。」


国王は騎士寮から見物する皆に手を振ってやり、ご機嫌で王城に帰って行った。


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