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大学病院

総合病院で紹介されたN大付属病院を訪れた滝沢だが、紹介状があったおかげで受付を済ませてから10分程度で診察室に通された。これだけの大きな、しかも大学病院ともなれば、普通診療で来たら何時間待たされるか分かったものではない。

昨夜、あらかじめ片岡医師について調べていた滝沢だったが、インターネットによれば、35歳と医師にしては若いが脳外科の世界では、将来を嘱望しょくぼうされた優秀な医師である事が分かっていた。

あの頼りない総合病院の医師よりは幾分いくぶん期待出来そうだと滝沢の胸には希望の火がともっていた。ただ、いくら頼りないとは言っても、数値に異常はないだの原因不明だのと、はっきり言い切られてしまうと、やはり不安はぬぐれない。

横に車椅子の可憐を置いて、パイプ椅子に座らされた滝沢は、今までの経緯いきさつや、もう丸二日以上、眠ったままでいる事などを説明した。それを聞いている片岡医師を見て、何か思い当たるふしがあるように感じた。

滝沢の期待は大きくなり、片岡医師に可憐をたくした。

そのかん、数時間は待たされる事になるだろうと、滝沢は院外に出て、会社に電話をした。寺尾はキーワードを解除しておいた滝沢のパソコンを使い、何事もなく作業をしている事、にも関わらずキチンと尾上のサポートもしている事、キャラクターの作業も順調である事などを聞かされた。

最後に小園の「コッチの事は心配しないで奥さんに付いていてあげて下さい」の言葉を聞いて頼もしさを感じた。と同時に少し寂しさも感じた。


時刻は正午を回り、検査結果が出たと言う事で、再び滝沢は診察室に呼ばれた。

片岡医師の神妙な面持ちを見て、滝沢の脳裏にイヤなイメージが走った。

「滝沢さん、こんな事、医者の私が言うのはどうかとも思うのですが、奥様はまるでたぬき寝入りでもしてるんじゃないかと思う様な状態なんですよ」片岡の医師とも思えぬ言葉に、滝沢は自分の耳を疑った。

「ハイ?たぬき寝入り?」滝沢はこの医者は私をバカにしているのかと思った。仮にたぬき寝入りしていたとしてニ日も三日も何も食べず、トイレにも行かない人間がいるはずがない。

「イエね、何も奥様を疑っているとかそう言う事ではないんです。脳波を見たら、眠っている脳波ではないんです」片岡は今度は理論的に話し始めた。

「あの…どう言った事でしょう?」この理論的な話しに、滝沢はようやく片岡医師の話しに耳をかたむけた。

「滝沢さんもご存知かも知れませんが、人間の脳波には二種類あります」言いながら片岡は赤と青で記された線グラフを見せて来た。

「あー、あのα波とかβ波とかの?」滝沢も差し出されたグラフを覗き込んだ。

「ハイ、通常、人は起きている時や緊張状態にある程β波を出します。逆にリラックスしていたり眠っている時にα波を多く出します。しかし、可憐さんは眠っている時には出ないβ波を多く出しています」片岡はグラフの赤と青の線を指差しながら言った。

「こ…これって…機械の故障とか、検査の際、間違った接続をしてしまったとか…」失礼を承知で滝沢は聞き返した。

片岡医師は首を横に振りながら「イエ、私も脳波計を見て、直ぐに異常を感じました。それで確認した上で三回の検査を行いましたが、結果は同じでした」とさとす様に言った。

「でも…何か特別な状態の時に…そのβ波が出る事があるとか」病気になって、助かる見込みはない!と言われるよりも原因不明と言われる方が余程よほどつらい事だ。滝沢は何とか、はっきりとした答えが欲しかった。

「これは私の経験上とかの話しではないんです。人は眠っている時はβ波は出ないんです。しかも、可憐さんは23Hzヘルツと言う言わば興奮状態と言って良い高い数値が出ています。つまり、脳死状態の逆です。身体は眠っているが、脳は興奮状態にある程に活性化しているんです」

いくら言葉を並べられても、滝沢にはとても受け入れる事は出来ない内容だった。それでは、何が悪いって言うのか?だ。

「あの…他に…脳外科の権威ある先生とか、そんな人に見てもらったり出来ないですか」まさわらをもつかむとはこんな事だ。

「意味ないと思います。日本の脳外のうげの権威は私の師匠とも言える渡辺先生です。それと、昨夜、馬場から…あっ総合病院のです。馬場から連絡をもらって、私なりに世界の様々な症例を調べましたが、こう言った症例は過去にありません。何か新種のウィルスにかかってしまったとか…とにかく原因不明としか言いようがありません」

これだけハッキリ言われると、もう、身体に力も入らない。

「分かりました、もう結構です」滝沢は今、出せる精一杯の力を振り絞り、可憐の車椅子を押した。

院外に出るとそこは中庭の様になっていて、天然芝が敷き詰められている。滝沢はその芝の中程にあるベンチへ向かって車椅子を押した。

ベンチの横に車椅子を付け、ストッパーをかけた。そして力尽きる様にベンチに腰を落とした。

「一体…一体どうすりゃ良いんだ」滝沢はささやくようにつぶやいていた。

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