それぞれの想い
「な…何で?滝沢さん、死ぬ気かよ!」
「先輩…アタシらじゃ、頼りないって言うの?」
「滝沢さーん!オレの話し聞いてくれる約束は反故かよー」リューショーのマジカルにより、無理矢理に現実世界に引き戻された三人の戦士達は、それぞれに滝沢に対する想いを言葉としてぶつけた。
「構へん、構へん…滝沢さんやったら、全部解決して、ちゃーんと戻って来るで」川上は言っている言葉とは裏腹に、マトリックスが表示されたパソコンのモニターを見ながら、肩を小刻みに震わせていた。それが何よりも滝沢の危機とそれに対する川上の想いを浮き立たせていた。三人はそれを見て、ただただ滝沢を信じて祈る他になかった。
タイガーストリームの牙が、防具を失ったリューショーの剥き出しの背中に食い込んだ。
「ガルルー、貴様、死ぬつもりか?」リューショーに噛み付いたタイガーストリームはリューショーに問いかけた。
「死ぬ?フッ、そうだな。お前も可憐も救えないようなら死んだ方が良いのかもな。でもな?森野、お前が孤独なのも分かるよ。自分の考えが…頭の中のイメージが、人に伝わらないのは辛いよな。でもお前はその事に対して努力したのか?分かってもらおうと努めたのか?」
「グルルー、努力だと?それはオレがする事じゃないだろ?周りの人間がする事だろ?」タイガーストリームは牙を刺したままに答えた。
「違うんだ!オレもお前と同じだよ。可憐を失って初めてお前の気持ちが分かったよ。可憐はオレには出来過ぎた女だった。オレはその可憐の好意に、気持ちに甘えてしまってたんだ。だから可憐を苦しめてたんだって気付いたんだ。それはお前も同じだったんじゃないのか?何で周りの人の苦しみに目を向けてやれなかったのか、何で人が当たり前に自分の側に居続けてくれるって自分勝手に思い込んでたのか。普通に考えたら普通に分かる事なのにさ。バカだよな、オレ達って」リューショーは遂には膝から崩れ落ちた。タイガーストリームはゆっくりと牙を外し、森野の姿に戻って、滝沢を抱き抱えた。
「滝沢!死ぬな!お前がいない世界なんてつまらないじゃないかよ。ずっとオレの目の前に立ち塞がれよ!オレを鼓舞し続けろよ!」森野の瞳から、熱い液体が流れ、滝沢の青い顔を濡らした。しかし、滝沢の顔色は見る見る内に青さを強めていった。
「おい!滝沢!おい!」森野の叫びも虚しく響き、滝沢の命は風前の灯火だった。その時だった。
「森野さん、龍昇君よりも幸せにしてくれる方法は見つかったの?」玉座に座っていた可憐が目を覚まし、二人の元に近付いて来た。
「すまない、可憐さん。オレじゃあ君を幸せになんて出来ない。うっ…滝沢が…滝沢こそが君にとって何より必要な男だったんだ。なのにオレは、その必要な人を…」森野の瞳からは止めどもない涙を押さえる事が出来ないほどに流れ出ていた。
「えっ?龍昇君がいるの?何で?龍昇君は私の事が嫌いなんでしょ?」可憐は滝沢がこの世界にいる事を信じられない気持ちでいた。
「本当にすまない。オレは自分勝手に君を求めて、滝沢も君自身をも欺いていたんだ」
「じゃあ、龍昇君は、私の事を?」
「あぁ、滝沢以上に君を想ってる男なんて、この世にいやしないよ」悔恨の念を述べる森野の言葉に、可憐は心の奥底にしまっていた想いがこみ上げて来た。
「嫌だよ!龍昇君がいなくなるなんて絶対に嫌だよ!」可憐は顔を紅潮させて叫んだ。
「もう無理だよ。可憐さん、君だけでも元の世界に戻ってくれ。オレは滝沢と共に、この世界を一緒に彷徨う事にしよう」そう言って、森野は滝沢の骸をより一層に強く抱き締めた。その言葉を聞き、可憐はゆっくりと二人の元に歩み寄った。
「ダメだよ。龍昇君…やっぱり龍昇君がいないと、私は生きてる意味がないよ。龍昇君がいない世界なんか私にとって何の意味も持たないよ!」可憐の涙が滝沢の頬に落ちた時、目映いばかりの光が辺りを包み込み、そして世界は消え失せた。
そして現実世界の川上のパソコンモニターも、全てのマトリックスが消え、真っ黒な画面を写し出していた。




