予想外の苦戦
スポークの森は、滝沢達が作ったプログラムと違い、敵の出て来る頻度もレベルも、桁違いだった。滝沢達のプログラムでは、エスクワイヤー・レベル8からカウンターのレベル5くらいまでしか登場しない設定になっていたが、この "タイガーストリーム" の世界では、弱い敵でカウンター・レベル8、強いのになると、ナイト、バロンを飛び越えて、遂にはグラディエーター・レベル5が三体登場した。グラディエーターは火の属性が少し弱いくらいで、雷系も含めた全ての耐性を持っている。また防御力も高く、剣での直接攻撃も効果が薄い。
「ヘィ!リューショー、こんな事もあろうかと、オイラにゴールドアックスを買ってたんだな」力自慢のヘイグがルビーソードからゴールドアックスに持ち換えた。
「あぁ、本当なら、次のクラウドタウンで売っているサファイアアックスを買ってやりたかったんだがな」リューショーはそう言いつつ、自身もシルバーソードを一気に攻撃力アップ出来るサファイアソードに持ち換えた。
スターシャの攻撃力増強呪文で二人で一体のグラディエーターを攻撃したが、倒せない。
「フィリップス!アイアンウィップスをダイアモンドアローに装備し直せ!一体づつ確実に仕留めるんだ」フィリップスはクリスタル、シルバー、ルビー、ゴールド、サファイアの上を行く、ダイアモンドアローに装備し直した。
「これでトドメさ、筋肉怪物」フィリップスの右手がダイアモンドアローを放った。
「ぐわぁ!」攻撃力増強と三人の一体集中攻撃で、やっとの事で、グラディエーター、一体を倒した。
「次は我らの番じゃ」グラディエーターのグラウンド・クラッシャーが後方のスターシャを襲った。
「スターシャ!大丈夫か?イカン!もう一体来るぞ」もう一体のグラディエーターもスターシャ目掛けてグラウンド・クラッシャーを仕掛けて来た。
「ヤバい!スターシャが殺られる」リューショーの叫びも虚しく、スターシャは死んでしまった。
「クソ!とにかく先っきと同じだ!集中攻撃で一体づつ倒すぞ」こうして二体のうちの一体を倒したが、もう一体が残っていた。
「フフッ、死ねぇ!アース・クラッシャー!」グラディエーターはフィリップス目掛けて、もう一段階上の大技を仕掛けて来た。
「ヤバい!コイツに死なれたら終っちまうぜ」ヘイグはフィリップスの前に立ちはだかり、グラディエーターの大技を受けた。防御力も強く、HPも高めのヘイグは、何とか耐え忍んだ。
「良いぞ、ヘイグ!さぁ、一気に倒してしまおう」こうしてスターシャ、一人を失ったが、何とか敵を殲滅した。
「フィリップス、川上の話しだと、お前の蘇生呪文で生き返るのは五分五分らしい。頼めるか?」リューショーは心配そうに言いながらフィリップスを見つめた。その額からは汗が流れていた。
「どうだろうね?ボクが蘇生呪文を出来るのは残りのMPから考えて三回までだ。それで生き返らなかったらどうする気だい?」
フィリップスの言葉は最悪の状況を言い表していた。いくら五分五分と言っても、二回に一回などと言う都合の良い確率論ではないのだ。三回やっても生き返らない事は十分に考えられた。リューショーの瞬間移動呪文で帰ったとして、宿屋に泊まっても、MPさえも戻らない事は立証済みだ。かと言って、元の世界に戻ってしまえば、スターシャ、つまりは和倉 瞳は立証されている訳ではないが、永遠にこの世界の中を彷徨わなければならなくなる可能性もある。「とにかく頼む。駄目だった時にはその時に考える」リューショーに言われ、フィリップスは蘇生呪文をスターシャにかけた。すると上手い具合に、一度で生き返った。
「ヨシ!これで先に行けるぜ」ヘイグが張り切って言った。
「まぁ待て、ヘイグ。お前もかなりのダメージを受けてるだろう?ここは今まで通りに普通に戻る。オレなりに覚悟してこの森に入ったつもりだったが、どうやら甘い考えだったようだ。一旦態勢を立て直して、もう少しレベルアップに努めよう」リューショーの言葉を聞いたスターシャ、否、和倉が口を挟んだ。
「先輩!奥さんは…可憐さんは良いんですか?早く助けたいんじゃないんですか?」和倉の語尾には涙声とも取れるものが含まれていた。
「分かってる。しかしなぁ、これはゲームであってゲームじゃないんだ。オレ達の身体は現実世界で眠っているかも知れない。でもなぁ、オレ達は魂を賭けて戦ってるんだ。それはもはや、文字通り、命懸けの戦いなんだ。オレの為に巻き込んでしまったお前らを絶対に誰一人被害者を出したくはない。そう!フィリップスの呪文で生き返るとしてもだ」三人は初めてこのミッションの恐ろしさを知った気がした。そして改めて決意を固めた。
「ボク達は巻き込まれたなんて思ってませんって。ヘイグみたいな正義感がボクにある訳じゃないけど、その森野って男だけは許せませんから」小園も元に戻って言った。
「そうです。小園の言う通りですよ。滝沢さん、さぁ、帰りましょう」後藤も続いて言った。
「分かった。皆んなありがとう。それじゃあ帰るぞ」こうして滝沢達はBleib und zuruckを使う事なく、元の世界に戻った。




