8.無詠唱魔導
ここ数日で感じるのだが、やはりこの右目は特別だ。
左目の「二メートルくらい視界を飛ばしたり、視力がめちゃめちゃよくなって、しかも360度見える能力」も相当にやばい魔眼であるのは確かだ。
しかし、右目はもっとやばい。
「何でもできすぎるだろこれ。いったい何ができないんだ?オンオフくらいか?」
確認できてるだけでも、
・魔力視
・映像記憶
・自動翻訳
というかもしかして俺が無意識に言葉を喋れてるのは右目のおかげなのでは?
・魔法発動のサポート(されている気がするだけかも?)
・軽い未来予測。(ルミネがコケる直前に見えた気がする。よくわからん。)
・体感時間の延長(タキサイキア現象みたいなやつ。ルミネの身体を支えるまでの時間が異様に引き延ばされたように感じた。おかげで間に合ったが。)
そして極めつけが、
「サッカーボールなぁ。元の世界の俺でも作り方わかんないのにどうやったんだよ。」
きっかけは単純。ルミネとサッカーしたいなと思い、サッカーボールを思い浮かべただけ。
そしたら目の前に半透明なサッカーボールが見えるような気がしたので、そのイメージに魔力をあほほど流し込んでみた。
できちゃった。
「うむ。この体が5歳児だから異様に大きく感じるが、どこをどう取っても普通のサッカーボールだ。いい感じの硬さでいい感じに跳ねる。俺のこの世界初めての無詠唱はサッカーボールを生み出したらしい。」
いや待て、本当に魔法か?
果たして俺の生み出したサッカーボールは、この世界の法則に則っているのか?
俺の眼には、いったい何が映っていて、どうやってこれに魔力を流したんだ?
結果は手元にある。
ただ過程はよくわからない。
パソコンだって電球だって一緒だ。みんなわからないまま使っている。
俺はそれをつまらないと思った。
だから、勉強した。
「ぐあああああああああああ。右目が割れるように痛い!なんも見えねぇ!なんでも見える!目をつぶってるのに入ってくる光が止まない!あああああああああああああ!」
庭先の草原で転げまわる。視神経でもない。目の内側で棘のついたゴム毬が跳ねる。
野球ボールとバットとグローブを作った後、ふと思ってしまった。
そうだ。自分の右目ってもう一個作れないんだろうかと。
結果がこのざま。一瞬行けそうな気配を感じた次の時にはもうこれだ。今気づいたが頭もめちゃくちゃ痛い。が、目が痛すぎて気にならない。体感一時間。実際には三分ほど悶えていると、突然目の痛みが消える。依然として頭痛が激しいが、地獄がちょっと優しい地獄に代わるのは大きい。
ドロリ。
右目から血涙とともに、どす黒い膿のような何かが流れ出た。
それは地面に触れて少しすると、半径五センチほどの空間を削り取って消えてしまった。
今の現象が自分の頭の中で起きなかったことを感謝しつつ、作り出したものを家の中へ持って入る。
さすがに玄関に置くと不味い気がするのでいったん自室に入れるが、そのうちばれるだろう。
気合でもっていた体をベッドに倒すと、疲労感と頭痛ですでに動かす気力はない。
良い布団だ。うちの家は貴族でもないのに、不自然なくらいに高級なつくりだ。
父は狩りをしながらよく近所の畑を手伝っているし、母も基本は家にいる。今はたまたま買い物に出かけているが、俺も妹もまだかなり小さい。
いったい収入源はどこからきているのだろう。などと頭を回しているうちに、何とか入眠できた。
「おにぃ。暇!遊んで!」
「ごめんな。お兄ちゃん今頭痛くてさ。明日じゃダメかい?」
「駄目!頭痛いの、痛いの痛いのとんでけしたら治る?」
「うーん。治るかどうかはわかんないけど、してくれたらとっても嬉しいかな。」
「それじゃしてあげる。痛いの痛いの飛んでけ~!」
右目がルミネの魔法の行使をとらえた次の主運管、頭痛が消えた。
体が軽い。頭がすっきりする。そして何より、体の中をルミネの暖かい魔力が巡って心地いい。
これは果たして魔法なのだろうか?
「どう?治った?」
「ばっちし。それじゃ、サッカーしようか。」
「さっかー?」
「まあ見てろって。」
自分が生み出したサッカーボールの耐久試験も兼ね、母が帰ってくるまで一刻半ほどサッカーをした。
ただお互いにボールをけりあうだけの時間ではあったが、とてもとても楽しい時間を過ごした。
うっかりで死んでしまえば、それはルミネを、家族をとても悲しませてしまう。それだけは避けねば。
そう思いながら、母の夕飯を口に運んだ。
俺はこの先どう生きていくべきなのだろうか?




