【第8話:頑張れ】
結局、ヴィーヴルのお父さんは、今度はジルの精神安定化魔法で冷静にさせられ、何とか話を聞いてもらう事が出来た。
巻き込んでしまって本当にすみません……。
とりあえず、オレが無理やりに従えているわけではない事、命令は何一つしていないという事だけは理解してもらえたようで、何とかその場はおさまった。
いろいろ大変だったが、無事に竜人族への移住に関する説明も終え、今はゼクトたちと話をしていた。
「前にも話したけど、竜人は戦闘民族だって事だから、全員騎士団として採用するって事で問題ない?」
前にヴィーヴルとゼクトの二人を交えて竜人の今後について話し合ったのだが、本人たちの希望で竜人全員で騎士団を結成するという事で決まっていた。
「あぁ、問題ないと思うよ。俺たちは集落でも魔物や魔獣を倒して生活の糧にしていたからな。そこには女も子供もない。それが正式に戦いを本職とした職業につけると言う話だ。皆んな願ったり叶ったりのはずだ」
ゼクトが言うには、竜人の集落は『深き森』の奥深くにあったので、基本的にみんな狩猟して生活していたそうだ。
そして魔物や魔獣が跋扈する場所で狩猟をするために、全員が戦える必要に迫られ、戦いを自然に覚えていったという事だった。
「一応、竜人の中でも肉弾戦が得意な者と竜言語魔法が得意な者に別れるから、その点だけ留意してあげて」
ヴィーヴルやゼクトたちは竜人の中でもトップレベルの戦士であり魔法使いらしく、両方使いこなすようだが、普通の竜人は竜化しての肉弾戦に特化するか、肉弾戦はそこそこで竜言語魔法を中心に戦うかに別れるらしい。
「あぁ、それは前に聞いたからわかっている。それで、ゼクトは団長を引き受けてくれるんだな」
前に話し合った時に打診しておいたのだが、ゼクト個人としては新しく結成した冒険者パーティー『輝く竜の爪』の活動の方に興味を持っているようで、少し渋られてしまったのだ。
「あぁ。まぁ元々竜人の中で戦士長のような立場だったからな。仕方ないだろう。でも、空いている時間で冒険者活動をして良いっていうのは忘れないでくれよ?」
オレ自身も何が何でも『恒久の転生竜』としての活動は継続するつもりだから、それは妥協して既に了承してある。
ただ……空き時間が出来るかどうかはゼクトたちの頑張り次第なんだけど、今ここで話す事でもないだろう。
ちなみにオレは領主となったわけだが、S級冒険者として、そして『月下の騎士』としても国からはその役割を求められてもいる。
オレだけの我が儘で冒険者を続けたいと言っているわけではない。
王族にだけだが、転移でいつでもどこにでも駆けつけられる事は伝えてあるので、何か手に負えない依頼があれば、回してもらえる事にもなっていた。
「もちろんだ。一応、この間『恒久の転生竜』と『輝く竜の爪』でユニオンの申請も出してあるし、問題無いよ」
「それは楽しみだな。それじゃぁオレももう行くとしよう。大した荷物はないが荷解きもしないといけないしな」
そう言ってゼクトは、竜化して飛び立っていったのだった。
~
小さくなるゼクトを見送り振り返ると、ヴィーヴルがジト目でこちらを見ている事に気づく。
「コウガさん……セリカさんの事……武術教練の事は伝えなくて良かったの?」
「はははは……まぁ……明日になればわかる事だし?」
竜人たちは強い。
強いのだが、それは竜化した時の強靭な肉体や、強力な竜言語魔法に支えられた強さだ。
それが封じられた時の脆さは、ゼクトたちは前の戦いで思い知らされているはずだ。
割合的には肉弾戦をメインに戦う者が多いが、その戦い方は非常に野生的で、爪で切り裂く、殴る、蹴るが基本だ。
もちろんそれでも相当な強さを誇っているのだが、武術を極めた相手には通用しない可能性が高い。
そこで、翼を使った立体機動を駆使し、槍で戦う洗練された戦い方を覚えてもらう事にしたのだ。
ヴィーヴルには先立って既にその訓練を受けてもらっている。
もちろんオレの鬼教官にだ。
「逃げ出す者が現れないことを祈っているわ……」
何度か逃走を企てたヴィーヴルだったが、母さんが何気にジルを軽く餌付けしているので、千里眼で全て阻止され、さらに重い練習が課されていた……。
ヴィーヴルが遠い目をしていたのだが、その気持ちが痛いほどわかるオレは、何も言葉をかけることが出来なかった。
「頑張れ……竜人……」