第一王子の訪問
「うん、良かった、良かった。お二人の結婚式をソレイで行うと決まりましたので、これで安心して明日の第一王子の訪問を見守れますね」
「はいぃ?」
私とマイア様の結婚式の話から、何故か第一王子の訪問話しに移ってしまい私は驚く。
ブレイデン様の言い間違えか? それとも毒の効いた冗談なのか?
驚きの中そんな希望を浮かべている私の横、第一王子と面識があるマイア様は「ふーん、ラッセルが来るんだー」と気軽な様子だ。
「マイア様とソフィアさんの話を聞いて、陛下が王都の大聖堂で是非結婚式を行いたいと駄々をこねましてね。マイア様をお祝いするのは我々ソレイの民の悲願であり、役目です! 相手が陛下であっても譲る訳には参りません! とちょっと陛下ともめたのですが、これで安心ですよ。フッフッフッ、ラッセル殿下の訪問は無駄脚になりますよ。フフフフ、陛下め、ざまーみろですよ、フフフフ」
ブレイデン様があくどい顔で毒を吐く。
エルフ公爵邸内でなければ不敬罪で捕まるところだが、本人が気にする様子はない。
それだけマイア様のことに関しては譲れない部分があったのだろう。
国王陛下相手に喧嘩を売るブレイデン様にちょっと無鉄砲さを感じてしまう。
そう言えば以前第一王子も第二王子もマイア様に懐いているのだと言っていた気がする。
そう考えれば殿下方の父親である国王陛下もマイア様に懐いている可能性が高いわけで、マイア様の結婚式を自分の手で執り行いたいと思われても仕方がないのかもしれない。
けれど王都の大聖堂と言えば王族が結婚式を挙げる場所だ、なんちゃって令嬢である私でも知っている場所だけにハードルが高すぎる。
この国の全貴族が私とマイア様の結婚式に集まる。
そんな想像を浮かべてみれば、自分の血の気が引いて行くのが分かりゾッとする。
マイア様が「それもありかも……」と小さく呟く横、私は盛大に首を横に振った。
「マイア様! 私ソレイの海がマイア様の瞳のようで大好きなんです! だから絶対にソレイで結婚式を挙げたいです! ソレイじゃなきゃ結婚式を挙げたくありません!」
マイア様の手を握り熱く熱くお願いをする。
ソレイの大聖堂と王都の大聖堂。
天秤に掛ければどちらに傾くかは分かりきっていて、熱望する私の想いをマイア様も頷いて受け入れてくれた。
「そ、そうか……ソフィアさんは私の瞳の色が好きなのか……ふーん、じゃあ、ソレイで結婚式を挙げるしかないよねー、ふーん」
ムフフと笑うマイア様を見てホッとする。
第一王子が来る前にしっかり言質を取っておかなければ何があるか分からない。
確信犯のようにニヤニヤするブレイデン様には、してやられた感が強いけれど、マイア様と結婚式を挙げることに関しては別に嫌ではない。
ただできるだけ密やかに……と願っていただけで……
有名人であるマイア様との結婚ではそれは叶わないようだ。
多くの人から慕われているマイア様の結婚をお祝いしたいと思う人が多いのは当然で、盛大な結婚式を挙げる事には諦めは付いたけれど、流石に王族と同列は無理だった。
王都の大聖堂はこの国一の建物と言っても過言ではない。
ソレイの大聖堂が小規模に感じるほどだ、あそこで結婚式を挙げるなど想像しただけでも震えが起きる。ブレイデン様の策略にハマったと思われても、それは構わない。お願いだからソレイで結婚式を! 気がつけばブレイデン様と同じ意見になっていた。
「では我々はこれで帰ります。マイア様、ソフィアさん、この送られて来た釣書への返事は我々がしておきますからね、安心してください」
ブレイデン様は良い笑顔で立ち上がる。
俺いい仕事したなー。
そんな笑顔だ。
レンさんはブレイデン様のその後ろ、釣書を抱えペコリと私に頭を下げる。
ソフィア様、頑張ってくださいね。
ハンさんとよく似た漆黒の瞳は、同情をし応援もしているようで、泣きたくなるほど嬉しくて悲しかった。
「マイア様、ご無沙汰しております。第一王子のラッセルです。覚えていらっしゃいますか?」
「勿論だよラッセル、久しぶりだね。君もすっかり立派な青年だ、大人になったね」
次の日の早朝、第一王子であるラッセル・ヴェランデオ様がエルフ公爵邸にやって来た。
ニコニコの笑顔でマイア様がラッセル様を抱きしめると、ラッセル様は嬉しそうに微笑んだ。
「ずっとお会いしたかったんですよ、マイア様ってば全然王都に来て下さらないので、私が来てしまいましたよ」
ラッセル様は幼い頃肖像画で見た国王陛下によく似ていて、髪色や瞳の色は弟であるジャクソン様とも似ているけれど、髪はもっと濃い金色で、クルンとカールが掛かっている。
幼い頃はさぞかし可愛かっただろうと思うけれど、ジャクソン様よりも背が高くガッチリとしていてその面影は少ない。エリオットもいつかそうなってしまうのかなと思いながらマイア様との挨拶を見守っていると、ラッセル様の視線が私に向いた。
「君がソフィアさんだね、話はアンドリューからよく聞いているよ」
今回も兄はこのソレイに来ていて、ラッセル様から名を呼ばれペコリとお辞儀をして返事をしてくれる。
「第一王子殿下にお目文字叶いましたことーー」
「ああ、ソフィアさん、今日はお忍びなんだ、堅苦しい挨拶は抜きにしよう」
気軽な様子でそう言って下さるラッセル様。
お忍びとあってご本人もくつろぎたいのだろう、堅苦しいのは嫌だとその顔には書いてある。
なので私はそのお言葉に甘え「はい」と頷く。
ラッセル様は満足したように「良かった」と頷くと、馬車の方へと声を掛けた。
「さあ、君ももう降りてきてもいいよ。ここなら誰の目も無い、大丈夫だ」
ラッセル様が声を掛けると、フードを被った女性らしき人物が現れた。
第一王子であるラッセル様の手を当然の様に取り、優雅に馬車のタラップを降りてくる。
「ソフィア、久しぶりね」
被っていたフードを取り私に声を掛けて来た人物を見て私は驚く。
「お姉様?!」
驚く私を見て姉がウフフと可愛く笑う。
「そうよ、カレンよ。ソフィア、会いたかったわ」
母に似た美貌を一段と磨き上げた姉が、私に抱き着いた。
おはようございます、今日も読んで下さりありがとうございます。
ブクマ、評価、ありがとうございます。
ヤル気頂いております。
姉カレン登場。
今日はちょっと短いです。
夢子
完結作品
パン屋麦の家
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