カレンとラッセル
スチュアート家で姉だけが持っている金色の髪をサッと後ろに送り、母似の薄紫色の瞳をマイア様に向けると、姉が美しいカーテシーを披露する。
「お初にお目にかかります、エルフ公爵様。ソフィアが姉、カレン・スチュアートと申します。弟妹達が大変お世話になっているようで、姉として心から感謝し、深く御礼申し上げます」
姉がマイア様に挨拶を終えると、マイア様がニコリと笑う。
私よりもずっと美人で魅力的な姉を見てマイア様がどう思うか少しだけ心配だったけれど、マイア様のその笑顔はいつものもので、その姿に少しだけホッとしてしまう。
たとえ姉でもマイア様を取られてしまうのは嫌だったからだ。
自分にこんな醜い部分があるだなんて、マイア様に会うまで気付かなかった。
「カレンさん、だったね、ソフィアさんから話しは聞いているよ。自慢の姉だってソフィアさんが言う通り、思った通りの人だ。カレンさんはソフィアさんとよく似ているね」
「まあ、有難うございます。妹に似ているだなんて光栄ですわ。本当に嬉しいです」
嬉しそうにニッコリと笑うお姉様。
いやいやいや、どう考えても姉と私に似た部分はなく、超美人と言える姉と平凡な私を同列に語るには無理がある。
こんな私が姉のように美しく見えるだなんて……
マイア様も恋愛マジックに掛かっているようだ。
ちょっと嬉しくってニヤケそうになる頬を引き締めるため、口内を噛んでいたことは私だけの秘密になった。
「お茶をどうぞ」
マイア様の屋敷にある中で一番高いお値段を誇る高級ソレイ茶と、ソレイ牛のミルクたっぷりで作ったチーズケーキを皆に振る舞う。
急な訪問だったので時間をかけてデザートを作ることは出来なかったけれど、ソレイ牛の乳は何もしなくても美味しいので問題はないはずだ。それにルナさんがチーズケーキを美味しいと言って太鼓判を押してくれた。王子様に出しても大丈夫。ルナさんのその言葉を信じることにした。
「ソフィアさんのお茶請けは一級品なんだよ」
マイア様がチーズケーキに口を付け満足そうに頷き、それを見たラッセル様も口に運び「美味しい」と顔をほころばせる姿を見てホッと息を吐く。
今日の私の仕事はこれで終わった。
そんな心境だった。
「相変わらずソフィアは料理が上手ね、これだけはどんなに頑張っても絶対に敵わないわ」
頬に手を当てほうっと息を吐く姉はとても絵になっていて、同姓である私でさえドキリとする魅力があり、横に座るラッセル様がうっとりする気持ちが分かる。
「ねえ、ソフィア、エリオットもこちらにお世話になっているのでしょう? あの子の様子はどうかしら」
姉と兄の心配げな表情を見て、安心させるように笑顔で頷く。
姉と兄もフィリップからエリオットの実家での出来事を聞いていたのだろう。
私の表情を見てホッと息を吐いた。
「エリオットはマイア様のお陰でとても元気になったのよ。毎朝剣の稽古も始めたし、勉強も始めたの」
マイア様が毎日エリオットの剣の稽古や弓や槍、それに勉強も見てくれて、エリオットはすっかりマイア様に懐いて「師匠」と呼んでは慕っている。
「夜にはフィリップも顔を出す予定だから、あの子もエリオットの変わり様に驚くと思うわ」
フィリップは休みになるとエルフ公爵邸に顔を出しエリオットの様子を見に来るが、剣の稽古を始めたエリオットとはまだ顔を合わせていない。
「ハンナの宿屋さんにキャリィちゃんっていう可愛い女の子がいるのだけど、今度一緒に遊んでくれると言っているの、エリオットもキャリィちゃんに会うのを楽しみにしているわ」
義弟であるマイケルから殴られ、キツイ言葉を浴びせられていたエリオットの事を思うと、同じぐらいの年齢の子供と遊ばせることに対し最初は少し不安だった。
ブレイデン様のところには三歳になる男の子がいるので、その子と遊ばせる話も出たが、姉の多い環境で育っているエリオットには女の子が良いだろうと、マイア様の一声でキャリィちゃんに白羽の矢が立った。
「キャリィちゃんも弟が出来るって楽しみにしてくれているの、優しい子だからきっとエリオットも懐くと思うわ」
私の言葉を聞いて姉も兄もホッと息を吐き笑顔を浮かべる。
王都に居て何もしてあげられなかった自分達がもどかしかったのだろう。
フィリップに任せきりにしてしまった私にもその気持ちは十分に分かった。
「エリオットももう少ししたら起きてくると思うから、そうしたら挨拶をさせるわね」
実家での疲れを癒すかのように、エリオットの睡眠時間は長くなった。
マイア様との稽古が始まったからかもしれないが、お昼寝もして使い魔たちとも良く遊び、ご飯もちゃんと食べられるようになり、来たときよりも少しふっくらして子供らしくなったのでホッとしている。
「やっぱりソフィアは凄いわね、こんなに早くエリオットを癒して上げれるんだもの、私とは全然違うわ……」
姉が小さくそんな事を呟くが、私は首を横に振る。
凄いのは私ではなくマイア様だから。
エリオットを癒してくれたのはマイア様と使い魔たちだったから。
「私は何も出来ていないの、マイア様が素晴らしい方だからエリオットは癒されたのよ」
そう言ってマイア様を見つめれば、マイア様も私を見つめ返してくれる。
「私だけの力じゃないよ。ソフィアさんと使い魔たち、皆の力でエリオット君を励ましたんだ。それにソフィアさんの笑顔が見れるなら、私は何だってするって言っただろう」
「マイア様……」
私の手を握り優しく微笑むマイア様。
その笑顔に胸がキュンと鳴り、益々マイア様の事が好きになる。
「うん……噂には聞いてたけれど、本当に甘々だね……」
「辺境伯がただ傍に居るだけで砂糖が吐けると仰っていましたものね……」
「ソフィアがソフィアじゃない気がするよ……」
私とマイア様に視線を向け、兄と姉、そしてラッセル様が呆れた様子でお茶を飲んでいる。
その目が笑っていないような気がするが、何故だか私達には分からない。
「ウフフ、ラッセル様、宜しいではありませんか、私達も間もなくこのお二人のような仲になるのですから」
「カ、カレン、そうだね、我々ももうすぐだね……」
姉に微笑まれ、嬉しそうな表情を浮かべたラッセル様の手が伸びる。
姉の手を掴もうとしたその時、姉はスッとその手を避けた。
「ラッセル様、まだダメですわ。私達の関係は正式な物ではございませんもの」
「カレン、そんなものは時間の問題だろう、私の意思はずっと表明して来ていたのだから今更だよ。それにこのエルフ公爵邸では誰も見ていない、君の手をとっても問題はないのだよ」
懇願するような様子を見せるラッセル様の前、姉はクスッと妖艶に笑いラッセル様を益々魅了した。
「ウフフ、あともう少し我慢してくださいませ、ラッセル様。そうすれば私は貴方様の婚約者ですわ。堂々と手を握れるしエスコートもして頂けるのですから」
「カレン……」
ウフフと笑いラッセル様を揶揄う姉に相変わらずだと苦笑いが浮かぶ。
この姉は演技でもなんでもなく、こうやって人を魅了してしまうのだ。
当然本人の意図はなにもなく、これが姉の標準なのだ。
「ソフィア、私、ラッセル様のプロポーズをお受けすることにしたの、今回の訪問はその報告もあって来たのよ。貴女には絶対に私の結婚式には出て欲しかったから……」
見つめ合う姉とラッセル様。
そこには甘い雰囲気があり、二人がお互いを想い、心が通じ合っていることが分る。
姉とラッセル様が結婚をする。
何となくそんな気がしていたけれど、やっぱりそう来たかと頷くしかない。
それはつまり、姉はいずれこの国の王妃になるという事で……
嬉しそうに笑う姉の笑顔を見て、おめでとうと心からお祝いしたかったけれど、あの父がどう動くのか……そう思うと不安が込み上げる私だった。
おはようございます、今日も読んで下さりありがとうございます。
ブクマ、評価、ありがとうございます。
ヤル気頂いております。
姉カレンはキツメな美人です。ソフィアは清楚な感じです。
作者イメージ。
夢子
完結作品
パン屋麦の家
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