エルフ公爵様のお屋敷へ
コリンさんに案内され、急遽エルフ公爵様のお屋敷へ向かうことになった。
ソレイ領に来てから何度もその名を聞くエルフ公爵様。
それも領民皆が尊敬し、敬い、憧れているエルフ公爵様。
どう考えてもエルフ公爵様に私が仕えるなど申し訳なくなるほど素晴らしい方なのだが、コリンさんが是非にと言って下さるのだ、きっと何かしらの需要があるのだろう。気持ちを強く持つことにした。
決して図書室や新刊に釣られただけではないと、そんなことを考えていると、コリンさんが御者台に乗り私を乗せた馬車は、海が見える丘の上に建つ、尖った屋根の可愛らしい屋敷の門前に着いた。
「ソフィアさん、ここがエルフ公爵様のお屋敷だよ」
御者席から声が掛かり、私は窓を開けコリンさんに答えた。
「……可愛らしいお屋敷ですね、なんだか魔法使いのお家みたいです」
「……」
尖った屋根が魔法使いの帽子のようで、屋敷の壁が着ているローブのようだ。
余りにも子供っぽい発想だったからだろう。
コリンさんは営業スマイルを浮かべたままで返事はない。
だけど今の私はそんな些細なことは気にならなかった。
何故ならエルフ公爵様の屋敷内からは、果物の木が見えたから。
なんて素敵なの!
食べられる果実の木がいっぱい。
お菓子の家よりずっと美味しそう!
ソレイオレンジだけではなく、屋敷からは他の果物の木も見える。
もしかしてあれは、このお屋敷で働くと取り放題で食べ放題になるのだろうか?
そんな卑しい考えを浮かべていると、馬車を降りたコリンさんが「我、ジェレマイア・ジョザイア・ジョゼフィン・デ・ヨングの友なり」と何やら呪文のようなものを唱えた。
するとカシャンッと音を立てて門が一人でに開いた。
「ソフィアさん、馬車から降りて、ここから玄関までは歩いて行くから」
「あ、はい、でも馬車は?」
「馬車は大丈夫だよ」
振り向けば馬車はゆっくりと動き出し、屋敷の裏側へと勝手に走って行った。
馬の上に鴉のような黒い鳥が乗っていた気したが、まさかあの子が案内したのだろうかと疑問がわく。
これは少し本の読み過ぎかもしれない。
ソレイ図書館は魅力的過ぎたから、変な空想が湧いてしまうのだろう。
「ソフィアさん、こっちだよ」
「あ、はい」
ぼんやりとしていた私に、コリンさんが声をかけて来て、一緒に石畳の通路を歩いて行く。
その脇には花々が咲き誇り、美しさを競い合っていて見応えがある。
「あ、蛇」
「えっ?」
草の影に白っぽい蛇を見つけ声を上げる。
地元では白い蛇など見たことはなかったのでこれは珍しい。
コリンさんは蛇が苦手なのか青い顔になったが、私の実家では蛇は大事な食料だったのでただ嬉しいだけだった。
「綺麗で美味しそうな蛇ですね」
「えっ?! ソフィアさんは蛇を食べるの?!」
「はい、ウチは貧乏だったのでどんな動物だって生き物だって食料です。何でも美味しく食べますよ」
「……そ、そうなんだ……」
カサカサと音がしたと思うと、蛇の姿は消えていて、まるで私がお前を食べるぞと脅したから逃げたかのようだった。いくら何でもいきなり噛み付いたりはしないのに。
「……えっと、ソフィアさん、エルフ公爵様のお家の動物は勝手に食べないでね」
「勿論ですよ。私は家主の許可なく生き物を食べたりしませんよ」
コリンさんの中で私のイメージが悪いものになってしまっては困る。許可がなければ手を出さない、そう伝えたのに、コリンさんの笑顔は引き攣っていた。
「マイア様、こんにちは、コリンです。約束通りソフィアさんを連れて来ましたよー!」
コリンさんは公爵様の家に来たとは思えないほど強く扉を叩く。ドンドンとかなり響く音だが返事はない。
「もう、まだ寝てるのかなぁ。昨日会ったとき徹夜したとか言っていたんですよね」
徹夜した人の家に訪問するのはしのびない。宿屋はあと一泊出来るし、出直した方がいいのでは? と心配していると、ゆっくりと扉が開いた。
「コ、リン……」
エルフ公爵様だろう美しい男性が、気怠げに顔を出す。扉に寄りかかるその姿が妙に色っぽい。
「コリン……早過ぎるよ、まだ朝じゃ無いか……」
「マイア様、昨日のうちに言っといたでしょう、明日の朝ソフィアさんを連れて来ますよって」
「それにしたって……早すぎるよ」
眠気まなこでぶつぶつ文句を言うエルフ公爵様など相手にせず、コリンさんはさっさと屋敷の中へ足を踏み入れる。
「さあ、ソフィアさんも、入って入って」
家主ではなくコリンさんに勧められ、「失礼します」とエルフ公爵様に頭を下げてから屋敷に入る。
屋敷の中に詳しそうなコリンさんが先に進み、その後を私が追っていき、最後に欠伸をしながらエルフ公爵様がついてくる。
「ソフィアさん、座って、今お茶を淹れるから」
「えっ、あ、はい、ありがとうございます」
馴染んでいる様子のコリンさんに勧められ、ソファにそっと腰掛ける。
一瞬私がお茶を淹れますと言い掛けたが、流石に初顔合わせの方の家で、メイドでもない私がお茶を淹れる訳にはいかない。
大人しく腰を下ろし座り直すと、目の前ではエルフ公爵様が毛布を抱きしめソファでウトウトとしだした。
エルフ公爵は想像よりもずっと若くて美しい。白いシャツに茶のパンツスタイルなラフな服装だけど、とてもおしゃれに見える。
年齢はコリンさんよりちょっと上? いや、私よりちょっと上に見える程度だ。
薄金色の長い髪は整えていなくても美しく、少し顔に掛かる髪が色気まで出している気がした。
エルフ公爵様を一言で表すならば 『美』 しか無いだろう。
なにより先程見た瞳はソレイの海の色のように澄んでいてとても綺麗だった。
けれど体は細いながらも筋肉がきちんと付いていて、彫刻で作られた像のようにバランスがとれた体つきだ。きっと鍛えているのだろうと私でも分かる。
でもあれだけの偉業を残してきた方だ。
私の想像よりもずっと長く生きているはずだ。
見た目の若さとは違い碩学な方なのだろうと思った。
「マイア様、コーヒーを淹れましたよ。起きて下さい」
「んあ? ああ、コリン、ありがとう」
「ソフィアさんもどうぞ、ここのコーヒーは美味しいですからね」
「あ、ありがとうございます」
お礼を言いエルフ公爵様が口を付けたのを見て、私もコーヒーを口へ運ぶ。コリンさんの言う通りコーヒーは飲みやすく、とても美味しいものだった。
「さてと、ソフィアさん、こちらがエルフ公爵様ことマイア様です」
「はい、ソフィアと申します。宜しくお願い致します」
「マイア様、こちらが昨日お話したソフィアさんですよ」
「ああ、そうだね。ソフィア嬢、初めまして、私がジェレマイア・ジョザイア・ジョゼフィン・デ・ヨング名誉公爵です。どうぞよろしく」
気さくにニコリと笑った公爵様に笑い返す。
残念ながら名前は覚えきれなかった。
呪文では?
そう感じるほどエルフ公爵様の名は長いものだった。
ご訪問ありがとうございます。
ブクマ、評価、感謝しております。
やっと二人が出会いました。長かった。
夢子




