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詐欺られアリスと不思議のビニールハウス  作者: 鈴埜


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95/97

95.開け

 ロイたちが次の区画に入ったところを確認し、アリスはまた扉を閉めて場所を変える。

 人数を減らした兵士たちは不意を突かれて倒れた。


「ロイ! 私が中見てくる。ちょっと待ってね」


 立ち上がると、アリスが通れるほどの出入り口を作り、向こうへ行く。

「アリス! 危ないから……」

「あのね、扉を少しだけ開いて、天井が見えたらすぐ閉じて。それで私があっちからまた中の様子を見るから。天井見ている人ってホント、全然いないのよ。安全に行こう」

 そう言ったそばからまた大きな音と振動が鳴り響く。


「中の人たちを逃がさないとでしょう? 安全に、とにかく安全に行こう」


「ここは一階だ。なんなら城の外壁をぶち抜いて逃げることだってできる。アリスちゃん、頼む」


 メルクに言われて、アリスは頷いて扉に手を掛ける。

 ほんの少しの隙間から、天井が見えればいいのだ。

 だが、その手をフォンが止める。

「こういったことは斥候の仕事ですよ。アリスさんは隙間に注視していてください。よければすぐ肩を叩いて」


 食堂の扉は両開きの重い物だ。使用人たちが利用する場所なので、普段は開け放たれている。

 ぎぃと少し音がした。

 だがそれだけで、天井を見る隙間には十分だった。肩を叩くと、アリスはすぐ移動した。

 ロイたちも、中に見張りがいた場合は異変を感じて現れるかもしれないと、扉から少し離れ壁に張り付いた。


 少しだけ見た天井に、小さな小さな扉を作る。扉は内開き。そうすれば、この高い天井、影になって悟られにくい。


 中にはお仕着せを着たメイドや、料理人がギチギチに詰め込まれていた。誰も彼も、表情が暗い。振動と音にすすり泣いている女性もいた。

 だが、先ほどまで外で見張っていたような騎士はいなかった。

 皆不安にうつむいたり、そばの同僚を励ましたり、振るえている。


 再び扉を開けてあちらへと向かう。

「中に騎士はいなかった。どうやって逃がすの? またその道筋を見てくるよ」

「来た道を行きたかったが、どうも城が持ちそうにない」

「こちらが庭だろ? 穴開けてしまおう」


「破壊は得意よ」


 マリアがウィンクする。


「炎は二次的被害がでかいだろ。ロイ、土でどうにかできないか?」

「むりやりやれないことはないが……」


「あ、そういえば見取り図で、食堂の隣の厨房の奥に出入り口なかった?」

 キャルが言うと、メルクが見取り図を取り出す。確かにここの廊下を進むよりそちらの方が早そうだ。


「ならばそれで。彼らがここに閉じ込められているということは、そちらの道が封じられているのだろうが、それこそ魔法で無理矢理こじ開けよう」


 そこで、これまでにないほどの振動に皆が慌てて体勢を保つ。アリスがふらついたところをロイが抱き留める。

「いよいよ、危ないな。急ごう」

「先を見るのに私も行く」

「もうこの先はいいだろう。こちらにいる方が危ない」

「私ばかり安全なところにはいられないよ」


 止めるロイの手を振り払い、食堂の扉を引く。

 フォンは軽々隙間を作っていたが、それはとても重かった。

 アリスの手にロイのものが重なる。

「絶対離れないでくれ」


 ぐっと込められた力に、扉が開いた。中の人たちの視線が一身に集まる。


「立ってくれ。厨房への道を開けて」

 メルクの有無を言わさぬ言葉に、何がと怯えながら彼らは従った。


 また、城が揺れる。


 メルクの先に、料理人がいた。

「厨房の先に出入り口があるだろう? 厨房の中に騎士はいるのか?」

「いや、誰もいないはずだ。厨房には基本外からか、ここからしか入れない」

「なら……もうこのまま行こう。扉は……鍵が壊されてるのか。ロイ!」


 ロイが進み出て、扉に触れる。すると、扉が突然崩れ落ちた。さらに腕を振るうと風ががれきを奥に吹き飛ばす。

「そのまま厨房の外への扉も壊してしまおう」

 メルクが促し、ロイはアリスの手を掴んで進んだ。

 後ろの人々は進みたがったが、外を確認するとメルクが言うとなんとか留まった。

 そして同じように扉を壊す。部屋の物より、外に通じるだけあって、かなり頑丈だったが、ロイは難なくやってのけた。

 あたりはすっかり日が昇っており、騒がしい。


「走らず移動してくれ。城からなるべく離れて。門はもう開いてそうだが、あちらに行けば巻き込まれるかもしれない。気をつけて。城の敷地から出るのが難しそうなら、せめて城が崩れたときに危険が少ない場所へ」

「ならこっちだ。食材搬入などの使用人用の通用口がある」

 料理人の中でも身体の大きな男が言うと、食堂から解放された使用人たちは次々に飛び出し、逃げて行く。


「ロイ、私、王様の方を見てくる」

「ダメだ。もう一緒にいよう。城を壊し出しているなら危ないだろう」

「でも……」

「アリス、頼むから」

 でも、と言おうとして、ふと、ロイの後ろの顔に目が止まる。

 何か手に握って、金髪の短い髪、青い目。


 お互いを認識しあう。


「イライザ!」

 握られていたのは、短剣。

 アリスを抱きしめた、ロイが動くが、間に合う気がしない。いつの間にか距離を詰めて、突き出されたそれは、ロイの背中に吸い込まれていく。



「扉を」



 ロイの、背中に扉を開く。

 開けと思えば、開く。


 アリスがノブを握らねばならないなんて、それはあくまで思い込み。



「開けえええ!」



 ロイの背中にイライザの伸ばした短剣がすっと吸い込まれて行った。そして、手がその空間に触れたところで弾き飛ばされる。

 勢いがあるから、衝撃は腕を曲げるほどになった。


「はあああ!?」


 生き物は絶対に通さない。

 物だけ。

 短剣だけが、トシとスミレのビニールハウスの、二人が怪我をしないような片隅に届く。


 腰をぐっと掴まれ場所が入れ替わる。はじかれた痛みに顔をしかめるイライザの腹に、ロイの剣がすっと収まった。

 腰の手が頭の後ろに移動し、ロイの肩に、顔を押しつけられた。

「見るな」


 イライザの叫び声が響く。


「ふざけるなぁああ!! アリス! またあんただ! あと少しだったのに! 何が、なにが! お前らっっ全員、バンゴールのどれいになれば――」

 ざっと音がして、久しぶりに聞いたイライザの声が途切れた。


 すっかり慣れてしまった血の匂いがした。

ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。


ここまでありがとうございました。

明日2話upしておしまいとなります。

昼の12時と12時10分更新予定です。

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