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詐欺られアリスと不思議のビニールハウス  作者: 鈴埜


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94/97

94.最終手段。そう決めたろ?

「私に出来ることは!?」

 思わず叫んでいた。

 だが、学院長は厳しい顔のまま首を振る。


「レークスたちを信じましょう」


 あの恐ろしい音は、城を破壊するために、魔法使いたちがなりふり構わず力を振るっている音か。

 待っていろと言われて、待っていられるはずがない。


「どうしたら、どうしたら止まるの?」


 学院長のこの部屋に残っているのは、教授と、ジェフリーだった。何もわからない子どもだとは言え、ジェフリーも大人たちの様子のおかしさに、すっかり黙りこくっている。この、事態の異常性に怯えているのだ。


「頭を押さえれば、止まるでしょうが、メルヴィンも優秀な魔法使いであり、剣士。あの文官然とした男は、憎らしいほど優秀なんだ。一刻も早く城の門を突破させなければ。私も門へ向かう」

 クラリッサがそう言って立ち上がると、青のローブの教授もやれやれと言って立ち上がった。

「魔法を人に振るうなど野蛮の極み……だが、我が家門はその野蛮な行為で成り上がっていてね。血がうずくな」

「おやおや、対人魔法と言えば私の家門だよ。なあに、すぐ城の門など開けさせる。ミアからの連絡は? 城の前はどうなっている?」


 かなり年を重ねているはずの教授たちは、すっかりやる気のようだ。


「うちの騎士とともに向かおう。先ほどヴォンアイグ家を制圧して帰ってきた。たいしたことなかったと、残念がっていたよ。冒険者も多数いたらしいからね。まだまだ暴れ足りないようだし、頑張ってもらおう。アリスは、あちらへ行くの?」

「……はい、ロイたちはトランシーバーを持っていないから、現状を伝えないと」

「じゃあ、ジェフリーはターニャかメイドに頼んで行こう。甘いおやつでも食べて、お昼寝している間に終わるよ」

 ターニャの姿が見えなかったが、屋敷にいる。

 彼女は回復薬や魔道具の製造には才能があった。しかし、対人魔法は苦手だそうだ。


「たびたびこちらに戻ってこようと思います。門が開けにくいときは、門の上からあのロケット花火を落として内側を混乱させることもできますし」

「なんなら熱湯をかけてやればいいんだ。……まあ、アリスさんにそういったことはやらせたくないから、最終手段かな」


 そう、アリスの能力を使えば、もっと酷いことができる。

 その事実には随分前に気付いていた。

 だが、誰もそうしろとは言わないのだ。


「ロイくんに恨まれそうだ」

「あの彼は怖いね。貴族なんぞ関係ないって顔をしてる」

「シルバーランクと聞いたが、アレはそんなもんじゃないだろう。ゴールドだよゴールド。迷宮で名を残すタイプだ。多属性使いの凄腕の剣士だとか、随分恵まれてる」


「まあ、最終手段。そう決めたろ?」

「え? 決めた?」


 学院長はふふふと笑う。


「アリスさんがあちらに行ってる間にね、ロイくんにはっきり言われたよ。アリスさんに危険なことをさせないでくれと、そして、人を殺すようなことはさせるなと」

 いつの間にそんな話を。


「貴方の能力を知った瞬間ね、私たちは様々な方法を思いついてしまった。それをすぐ、彼に、封じられた。アリスさんは単なる薬師だ。冒険者じゃない。命のやりとりをするような人種じゃない。命を救うために今まで生きてきたんだから、そこを奪うなとね。……もし戦況がよろしくないときは、あちらにお世話になりなさい。限られたスペースしか動けないんだっけ? 本当に? だって、この短期間でどれだけ能力の幅が広がった? だめだと思い込んでいるんじゃないか? もちろん試せなんて言えないし、人は通れないというのは本当だろうけど……能力の限界というのは己が決めることだよ」


 クラリッサ、と他の教授が彼女を呼ぶ。


「とはいえ、危険なことはしないでくれ。私も、ロイくんに殺されたくはない」

「そうそう、あの彼に睨まれたらそのままラミス様のお膝元に召されてしまう」

「首元に剣を突きつけられるね。むしろ止まらずそのままざっくりだ」


 そう言って笑いながら彼らは去って行った。

 ロイの気遣いは嬉しいが、アリスは、やはり扉を開く。

 自分にも何か出来ることをしたい。


「ごめんね、ジェフリーくん。また行ってくるね」

 すっかり黙り込んでしまった彼の頭を撫でて、アリスは移動した。



「どうだったアリス」

 トシとスミレも心配そうな表情で、ああ、まったく違う世界の彼らにも迷惑を掛けているんだなと気持ちが落ち込む。


「相手が、最後の手段と、城ごと破壊しようとしているみたいで……、これから別行動をしているロイに、それを伝えようと」

 そうか、と言って肩を叩かれた。

「力同士のぶつかり合いになったら、どうしたってな、アリスには難しい話になるってもんだよ」

「トランシーバーもっとあればよかったけどねぇ」

「田舎のホームセンターの限界だったな。むしろあれだけ商品が揃っている方が珍しい」


「ほら、テーブルに座って、扉を開けてロイ君たちを探しましょう」

 そのテーブルにはごちゃごちゃと色々な物が置かれている。

 二人が、何か役立てるものはとホームセンターという大きな店に行って買ってきたのだ。


 食堂近辺で、アリスの把握している場所はと、見取り図を見る。

 あのあとも何箇所か通れる場所を増やした。不思議と、そこがどんな風景だったか、悩むことなく思い描ける。

 ロイたちは、なんならこちらが本体だと思わせると、わざわざ騎士の格好に着替えて行った。

 自ら危険を呼び寄せるようなことはしてほしくなかったが、口を出すことは出来ずにいた。


 ロイはアリスに危険なことをしないでというが、ロイも、危ないことはしないで欲しい。


 小さな扉を、たくさんの人が詰め込まれている部屋の前の天井に作った。

 天井を見ろというのも、トシさんの助言だ。

 急いでいるやつが、天井など、まじまじ見ることはないと。

 人がたくさん捕らえられているだけあって、この廊下にはたくさんの人がいた。全員が剣を抜いて警戒している。


 だがそれでも、急な爆音に人数は減っていた。

 そして混乱している。


「いったい何が起こってる? 聞きに行ったやつらも帰ってこない」

「もう少し待て。ここは必ず見張っておかなければならない場所だ」

 

 アリスはさらに手前の区画で扉を開く。ロイだ。

 そして、何人もの兵士が倒れていた。


「ロイ!」


 呼びかけると、皆が足を止めてキョロキョロと辺りを見渡す。

「お城を壊してしまおうとしているの」

 ここだよと言う間が惜しくて、そのまま続けた。


「わかった。急ぐ」

「廊下には三人立ってた」

「助かります」

 そう言って駆け出したのはフォンだった。

 皆もあとに続く。

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