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詐欺られアリスと不思議のビニールハウス  作者: 鈴埜


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42/97

42.金二枚の価値がありそうだ

 王都へ向かうメルクとキャルは、急ぐ必要があると馬を借りた。王都とミールスの間はよく人が行き来するので、こういった商売もある。

 普段は商隊の馬車とゆっくり十日ほどかけて歩いていくが、馬を思い切り駆って進んだので、半分以下で着いた。


「取りまとめ役のところに行く?」

「いや……しばらく黙ってついてきてくれるか?」

 門近くで馬は返したので歩きだ。

 大通り脇をどんどん奥に進む。収穫祭後の王都はいつも以上に活気づいていた。

 さらに奥へ。


「メルク……このままだと……」

 この道は王城へと続いている。その手前には手続きがなければ入れない門があった。

 そこでメルクは進む方向を変える。左へと移動し始めた。少し行くと、しっかりした鎧を着た兵士と、簡易的な装備の兵士が何人も集まっている場所へ着いた。

 兵士の詰所だ。


「よお、メルクじゃないか」

 その中で簡易的な鎧の兵士が声を上げる。

「運がいいな、レークス様に会えるとは」

「様はよせよ。気持ち悪い。なんかあるな?」

 レークスは、騎士団の騎士だ。たまに魔物の数が増えている森やダンジョンに、騎士団が有志の冒険者を募ることがある。メルクたちはそういった募集に行き合い、時間があるときは積極的に参加していた。

 第一や第二の花形ではないが、第六騎士団の団長で、主に城下やその周囲の警備を担当している。

 動きがよければ目に留まり、回数を重ねれば話をする仲になる。


「少しお話を聞いていただきたいことがございまして」

「ふぅん……来い。茶でも馳走してやろう」

 招き入れられればチェックもない。信用をそれだけ得ている。

 まあ、レークスに連れて行かれるのは騎士たちがうようよしている騎士団の寮なのだろうから、何かすることもできないと思われているのかもしれない。


 寮の中のレークスの執務室。騎士が本当にお茶を運んできた。

 キャルはもうかしこまって一言も話さない彫像に成り果てていた。

 騎士は平民も多い。特に第六になれば半数以上が平民だ。レークスも貴族の中では位は低かった。確か本来跡継ぎではなく、功績による爵位だったはずだ。


「で? どうした」

 他愛ない話から始めなくていいのは助かる。

「レークス様はこの腕輪をご存知ですか?」

 メルクは尋ねるのと同時に隣に座るキャルの腕を持ち上げる。赤い小さな石のついた腕輪。

 すると、レークスは少しだけ顔をしかめる。


「知ってるも何も、昨日自宅で見たぞ」

 キャルがヒュッと息を呑む。


「どなたかが『精霊の互助会』に参加されたと」

「だなぁ、よくわからんが……妻の親がという話だ。知っての通り俺の妻は平民の、商家の出でな」

「仕組みはお聞きになりましたか?」

「なんでも、二人に紹介しないといけないとか。俺の知り合いはと言われたから、よく分からないものに迂闊には誘えないと断った。妻にもあまり変な誘い方はするなと、釘を差したところだ」


 とうとう貴族に対してまで広がっていくのかと、メルクも話に聞き入っていた。


「で?」

 さらに促されたので、どこから話そうか考えたが、これはもうアリスのあの数字を見せるのが一番だろうと紙を広げた。




「こんにちは! 先日入会したキャルです。ヨーラから紹介されて」

 王都のまとめ役は、コルンという女性だった。織物店の妻だそうで、その腕にも赤い腕輪がはまっていた。

「こんにちは、キャルさん。お困りごと?」

「いえ、実は五人ぐらい追加になりそうで、腕輪をお願いしに来ました。あ、そのうちの二人です。メルクとレーク」

「まあ、キャルさんは人望があるのね」


 そう言うとコルンは奥から腕輪を五つ持ってくる。

「おお、これはずいぶんと、綺麗な石だな。金二枚の価値がありそうだ」

「ええ、そうでしょう? 元来赤は力を表す色よ。冒険者のみなさんに、似合うと思うわ」

「付けていたら盗まれそうだな。大事にしてとかないと」

「ふふ、冒険者の皆さんですもの、大丈夫でしょう?」


 それでは支払いをと、メルクが財布を出したところで馬車が止まった。商人が使うものではなく、家門の入っている貴族の馬車だ。

「こんにちは、コルンはいる?」

 その腕には赤い石の嵌まった腕輪をしている。

 メルクたちはすっと身を引き軽く頷いた。貴族が呼んでいる。我々を相手しているような場合ではないと。受け取っていた腕輪を机の上に戻して、彼女の動きを邪魔しないよう、隅に控え、出口の方へ向かった。


「わたくしでございます」

「ああ、貴方なのね。こちらの件でお願いがあるの。実はお友だちが何人か参加したいと言うのだけど――」


 メルクたちは貴族に巻き込まれぬようその場をそっと抜け出した。




 貴族女性は、何人も参加希望の友人がいるといい、ただ、問題があって、この腕輪のデザインが気にくわないとのことだ。とはいえ、これが証であることはわかっている。これに付随するような、デザインの腕輪をさらに追加で作ってくれないか。その費用はもちろん別に出す。貴族の自分たちがしていても恥ずかしくないようなものがいい。

 さらに、この志に賛同したので、是非創始者に支援したいと。


 鍛冶職人は釣れるだろう。

 しかし、創始者はわからない。最悪話が上手すぎると逃げられる可能性もあると、レークスは言っていた。

 だが、創始者たちは、強欲だった。

 貴族の支援と聞き、喜んで鍛冶職人とともにレークスの屋敷までやってきたのだ。




「まず、コルンが我々にこの腕輪の、石の価値がないということを説明しなかったのは、お高い魔道具で記録をとっていたから即捕まった。さらに鍛冶職人も同じように逮捕。こっちはかなりの罰則だな。あとは帳簿で繋がりを探して聞き取り調査で裏付け。とにかく、レークス様の奥方がお怒りでな。商売人であるから、この仕組みも何か怪しいと思いつつ、親に勧められたから入ったのだが、破綻したときの対処補助の話が一切なかった。そこに気づけなかったと、あれは、自分自身にいらだっておられたんだな。創始者たちも腕輪の価値をわざと明言しなかったと一緒に捕らえられた。調査と返金についてはこれからだそうだが、恐ろしい数がいるからな。そのうちこっちにもこれ以上人を増やさぬようにという話は流れてくるだろうさ。支部は押さえられたわけだし」


 メルクがそう締めくくり、キャルも、はあとため息を吐いた。


「アリス、ありがとう。とんでもないことに巻き込まれるところだった」

 問題は、キャルたちも次に渡すときこの腕輪に価値がないと言う話をしていないところなのだ。むしろ、価値があると思い込んでいた。どこかで訴えられたら大変なことになっていた。そして、その段階になると、創始者や支部の者たちは逃げた後、ということになりかねない。破綻はすぐそこまでやってきていたのだから。


「で、レークス様の奥方が、我々にかなり感謝してくださってね。とんでもないことの片棒を担がされるところだったと。何かお礼をと言われ、金額を提示してくださって、キャルと話し合った結果がこの魔道具だ」

 薪の心配がぐんと減った。

「よかったね」

 うまい話には裏がある。

 トシに散々言われた言葉だ。

ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。


ねずみ講話終了。

幸い昔の友人から高い鍋を勧められたことはありませんが、皆様もお気をつけください。

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