41.働かないやつは食べられない
ロイたちはもう少しでもと狩りに出掛け、アリスはスミレと一緒にジャム作りだ。
「こちらはお砂糖そんなに高くないからね、アリスちゃんのジャムはこっちで作っちゃいなさい」
との申し出をありがたく受け取った次第。
「これは春先ご近所さんからもらったイチゴ。ブルーベリーは今年は大豊作だったわね。粒の大きいタイプが特によくなったわ。あとは、この季節の柿とリンゴでも作りましょう」
冷凍庫、という、大型の貯蔵庫があるらしく、ジャムに出来るような物はそこで凍らせてたくさん保存していたという。ありがたくジャムにしていく。
瓶は薬用の洗浄道具があるので、それの方がいいだろうと、アリスの家から洗浄した瓶を大量に持ってきた。
「スミレさんの分は……」
「うちは一種類一瓶くらいで十分よ。トシさんが三日に一度朝食にパンが食べたいって言うのに使うくらいですもの」
できあがった甘い匂いに幸せを感じながら、瓶詰め作業は続いた。
「あとはどんな果実の保存食があるの?」
スミレに問われる。
「切って乾かせる物は乾かす。他にはお酢で漬けておいて、お水で割って飲んだり、あとはお酒に漬けるのもあるよ。私はお酒は飲まないから作らないけど。蜜漬けにする家庭もあるけど、お砂糖高いからジャムくらいだね、普通は」
ジャムもこんなに作らない。長い冬の間に、一瓶を楽しみに少しずつ使ったりする。
「どこも同じ感じなのね。お砂糖が高いとなかなか量は作れないようだけど」
新しい保存食を開発したとなれば、瞬く間に広がるだろう。
「アリスちゃんの冬支度はあとどれくらいなの?」
「肉類はロイたちが狩りに行って、その分から加工までした物を回してくれるし、粉類もだいぶ届いた。あとは野菜類だね」
「根菜類は?」
「そこらへんはもう少ししたら買い始めるかな。葉のようなものはオイル漬けにしていくの」
「そう……それじゃあ今度トマトソースを一緒に作らない? 不揃いで、そのまま食べるのはちょっと悩ましいものがたくさんできてきたのよ。湯むきして凍らせておいて、タマネギのみじん切りやニンニク、ハーブと一緒に煮込むのよ。それを瓶詰めしておいて、パスタに使うの」
パスタというのは麺のことだ。確かに美味しそう。
「是非お願いします」
お昼頃から三時間ほど。せっせと瓶詰めしていると、トシが黒い板を抱えてきた。
「ホイップも作ったぞ」
「じゃあ、おやつにしようかしら」
粉を牛乳と卵で溶いた物をその黒い板に流すと、丸い、親指の爪くらいの厚さの物ができあがった。
「パンケーキって言うのよ。この粉が普通の粉じゃなくて、色々まざっているんだけどね」
アリスの目の前に、その薄い物を二段に重ね、できたてのジャムと、ホイップをたっぷり乗っけて、蜂蜜を掛けた物が準備された。
「ナイフとフォークでどうぞ」
一度に二つしか焼けないからと、食べるのを促されいただく。
「美味しい!」
「生地にもお砂糖入ってるしね。たくさん瓶詰めしたし、ご褒美パンケーキよ」
トシとスミレは一つずつだ。
「この、白いふわっとした甘いの……」
「ホイップね。ミルクから作られるのよ。冷暗所に置いておくと分離するんだけど……こちらとそちらのミルクが同じかわからないからねえ。その少しとろっとしたミルクに砂糖と、空気を混ぜ込みながらかき混ぜてると、ふわふわになるの」
「人力は無理だからホイッパー頼みだけどな」
確かに、ミルクは分離する。
「あとで泡立て器を見せてあげるわ」
アリスがあまりに感動しているので、スミレは笑ってそう言った。
と、どこからか声が聞こえる。
「すみれさ~ん!」
「あらやだ、えっちゃんだわ。アリスちゃん、このパンケーキ持って、さ、帰って」
「ん、あら、このビニールハウス?」
ガチャガチャと、ビニールハウスの入り口の扉のノブが回される。
アリスは慌てて皿ごと抱える。
ジャムはもう移動し終わっていた。
「えっちゃんちょっと待って~! そこの扉のノブ、開けるのにコツがいるのよ」
そう返事をしている間もガチャガチャとノブが音をさせている。
「ごちそうさまです」
アリスが小声で言うと二人は頷いて手を振った。
パタンと扉が両側から閉まる。
たぶん、あの扉は、アリスがいる限り開かないのだろう。
ドキドキと鳴り止まない心臓をなだめつつ、最後のパンケーキとホイップを食べ終える。お行儀悪く子どものようにお皿をなめ回したい気分だ。フォークでできる限り取りはした。
しかし、おかげさまでこれでアリスの分のジャム作りは終わり。次は、ロイたちが帰ってきたらあちらの家でジャム作りをしよう。この時期ジャムに出来るのは二種類。どれくらい作るか、残りの軍資金を見て決めないといけない。
二日後。それなりの収穫を得たと、ロイが夕方知らせに来た。それなら明日はジャム作りだとなり、朝から買い物だ。ロラン商会に行ったら、それならばと仕入れ先の果物店を教えてくれた。ついてきたのは先日のカインだ。
「別に大丈夫だけど」
ロイの台詞にカインは頷く。
「ロラン商会繋がりだと言うだけで少しお安くなりますから」
ロイたちがこんなに街を出入りするのでなければ、買って届けてもらうのだが、また明後日には狩りに行くというのであまり時間はない。
「ギルドからも納品を頼まれているんだ」
「ここ一週間でかなり寒くなってきたからね」
秋も終わりが近づいてきたということだ。
本格的に支度をしていかなければ間に合わない。
「お野菜加工する時間あるかなぁ……」
狩りは大切だ。資金と肉類が確保できる。
だが、野菜もなければならない。
「根菜類はもう少ししたらきちんと納品させていただく予定です」
「問題は葉のオイル漬けや酢漬けですね」
「材料購入と加工品購入では四倍近く値段が変わりますからね」
なかなかに悩ましい問題だった。もう少し、狩りする人間と作る人間が分かれて欲しい。
そんなアリスの胸の内を、まるで聞いていたかのように、その日ジャムを作っている最中に、メルクとキャルが帰ってきた。
「たっだいまー! うわああ! いい匂い。美味しそう。今食べたい!」
「ただいま。冬支度真っ最中だな。あちこちからいい匂いがしてくる」
二人は笑顔でそう言った。
水に湯を足して、埃を落とすと、メルクとキャルもジャム作りに参加した。材料を切る係が増えると仕事がだいぶ早く進む。
「アリスちゃんには迷惑かけたね」
「マリアさん、麺作れるようになりましたよ」
ええ!? とキャルがマリアを見ると、彼女は自慢げに鼻を鳴らす。
「働かないやつは食べられないのよ」
キャルにも今度教えてあげないといけない。
「こちらは順調なようでよかった」
「あとは、来週辺りから大量の薪が搬入されるので、それを上手に積んでいかないと……」
「ああ、それは大丈夫。煮炊き分だけでよくなった」
メルクが立ち上がり荷物を持ってきて、取り出した物は、アリスが使っている部屋を暖める魔道具だ。手のひらサイズなのに部屋全体が暖まる優れものだ。
「ちょっと臨時収入も入ったから買ってきた。薪は場所も取るし、金もかかるからな。うちは魔法使いが二人もいるし、俺たちだって魔力を供給できないわけじゃない」
「かなり高かったはずだけど……」
アリスの言葉にメルクはニヤリと笑った。
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やっと二人が帰ってきました。
次は途中視点が少し変わります。




