40.肉が来たぞ
今日は先日のことを踏まえて、手が空けられる大人も含めて、皆でキノコ狩りだ。大人たちも小さい頃にキノコ狩りをしていたときはかなり覚えていたはずだが、だいぶ忘れてしまっていると参加推奨。人数が多いので、何かあってはいけないとロイたちがついてきてくれたが、熱心にキノコを探しているのはマリアやフォンの方だった。
「これはさっき言ってたキノコでしょう!」
フォンが自信ありげに持ってきた物を見て、アリスは周囲に声を掛けた。
「みんなー! ちょっと集まって。これ、このキノコが、絶対ダメなやつ。はい、お手本に並べて」
隣の少女に渡すと、毒キノコの一覧に、並んだ。
今のところ十個。そのうち八個はフォンが持ってきたものだ。
「フォンが採ったキノコは食べたらダメだってことね」
くっくっく、とマリアが笑う。
アリスとしてはお手本を持ってきてくれるのでかなり助かっているのだが、フォンは無表情ながら、口元が少し歪んでいた。
午前中で終わり。そのままロイたちの家に行き、とったキノコを干す作業だ。
二人ともナイフの扱いは上手い。材料を切るのはまったく問題なかった。
薄く切ったキノコは、スープに入れると美味しい。冬に向けて必要な保存食だ。
「乾燥はロイにさせたらいいのよ~」
「何もしてないんだからマリアがやれよ」
魔法使い二人が押しつけ合っている。
普通は、カビないように気をつけながらキノコを干さないといけないのに、贅沢な喧嘩だ。
結局、今後も料理で役に立たなそうという理由でマリアが受け持つことになった。
ぶーぶー文句を言いながらも、指先で軽く円を描きながら、ザルの上に並んだキノコたちから少しずつ水分を抜いていっていた。
ちなみに、アリスは普段なら魔道具を使う。アリスの分も一緒にするというので、貸そうかと思ったら、そうそうに喧嘩が始まったのだ。
「今日は乾燥キノコとベーコンの麺作りを教えるね」
麺の作り方は、これもロイかフォンに教えるのがよさそうだ。手先の器用さを考えるならフォンな気がする。
だが、不平等になるのは、共同生活という面でいけないと思うので、マリアにもしっかりやってもらうつもりだ。
とにかくここのテーブルは広い。まな板とナイフを三つ。アリスの家からも持ってきて、それぞれやってもらうことにした。
「自分の麺を自分で作ってね」
アリスが言うと、マリアが驚き、ロイとフォンがマリアをチラ見した。が、結局、麺作りはマリアの方が上手にできていた。二人はちょっと力が強すぎる。いくらこねてといってもやり過ぎなのだ。
とはいえ、器用ではある二人なので結局ある程度の物は作れていた。
ベーコンや野菜を切るのはロイとフォンの圧勝なので、マリアは麺を作ればいいと思う。
「麺はマリアのが一番美味しいと思うよ」
もちもち感が一番ある。
「忘れないようにしばらくは夕飯は麺で」
ロイの言葉に、マリアが顔をしかめた。
「私は、食べるの担当が良かったのに」
「協力しないなら、マリアの分はない」
フォンが冷たく言い放つので、マリアは渋々といった様子だ。
「そうだ、アリス。この後ベーコンの受け取りがある」
「わ、もうできたの?」
色々と話し合った結果、ロイたちは肉を取りに行き、ロラン商会に渡す。ロラン商会の方で燻製肉にしたりと加工をお願いして、二分の一が帰ってくる。その中から、アリスへの謝礼と称してアリスの冬支度用の肉が回される。
「第一弾だな。冬の食料に直結するとなったらマリアが途端にやる気を出した」
「燻製肉好きなの」
「一緒に行くか? 受け取ってきた物を届けようかとも思ってたが」
「せっかくだから行くよ」
マリアはもう今日は動かないというので、ロイとフォン三人で向かうことにした。ロラン商会でなく、街の城壁を出て少し行ったところに仮設で出来ている燻製小屋だ。匂いに釣られてくる魔物をまた倒して燻製にするという恐ろしい場所である。
中では男たちがあちこち走り回って作業をしていた。捌くのもここでやるという。
冒険者たちが雇われていることが多かった。
「よお、ロイ! 注文の品出来てるぞ」
受け取りは冒険者ではないらしく、線の細い男性が注文書をめくりながらロイたちの分の品物を揃えていた。
「半数受け取りだったね。ここにサインを」
ペンを手に取ったところで、外が騒がしくなる。
「肉が来たぞ」
魔物のようだ。
「係りは?」
「今夕飯取りに行ってる!」
注文書をめくる男がチラリとロイとフォンを見た。
「肉は俺たちの物。加工したら半分。肉にならない魔物なら、討伐費をもらう」
「肉だぞ!」
「それで行こう」
フォンは矢を持っていなかったが、短剣を抜く。
「アリスは中で待ってて」
「俺を戦力と思わず一人で全部倒す気でやれ」
戦闘になるとロイの口数が増える。
中にいろと言われても、燻製小屋は体当たりを受ければ吹き飛ぶような作りだ。中にいるのも少し不安で、アリスは入り口から顔を出して外を見る。他の作業員たちも同じようだ。
四つ足で、丸々と太った魔物。うん、あれはベーコン。
それが二体もいた。ロイは全部の属性が使える、珍しいタイプの魔法使いだ。その中でも風が得意なので、こんなときは剣で一体を牽制し、もう一体を風で始末するという。
ただ、魔物もそう簡単には倒れてくれない。野生の勘とでもいおうか、ロイの風の刃をかわして近づこうとしてきた。
四つ足なのに、動きが速い。
だが突然、一匹が消えた。
「さすがシルバーランクですね」
魔物の一体は深い穴に沈んでいた。一体ずつならロイ一人でも余裕らしい。風を操りながら、その間に精霊で穴を掘っていたそうだ。
「風はわざと避けさせた」
「そういった嘘はいらないです」
フォンからの突っ込みにロイは少し不満そうな顔をしたが、燻製小屋の皆はとても満足そうに頷いていた。
「獲物を運ぶ手間が省けて良かったね」
この場での狩りは利しかなかった。
袋に山盛りのベーコンとソーセージを入れて、三人で帰路につく。
今日得た肉はまた後日加工後連絡をくれるという。
「あと二、三回狩りしたら冬の分は足りるかな?」
「そんなわけないでしょう……あなたたちの食べる量とっても多いのよ」
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