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双子は笑ってその場に立っていた。仲良く手を繋いで。その手には互いのなわとびの
取っ手を掴んでいた。
「遊ぼう?」
問いかけに応えてくれなかった為なのか、再度同じ問いかけをしてくる双子。しかし突然現れた双子に巡士考太を含めて不気味だと感じていた。誰も口を開かない状況に嫌気がさしたのか、双子の片割れがポツリと口にする。
「愛男お兄ちゃんは遊んでくれたのに……」
その言葉に姉である桃袋愛海がいち早く反応する。
「あの子の事を知ってるの!? あの子はどこ!!?」
「「知らなーい」」
クスクス、小馬鹿に笑う双子。まるで先ほどの意趣返しのように思えた。
「遊んでくれない人に教えることなんて一つもなーいよ」
「よー」
「……分かったわ。遊んであげる」
「本当! 嬉しい!!」
「嬉しい!!」
心の底から嬉しそうな声を上げる双子。しかしすぐにクスクスと嘲笑うような笑みへと切り替える。
「じゃあ、ルールを説明するね」
そう言って双子はルールの提示をし始める。指を立てながら順々に説明していく。
①なわとびは二本使用、大なわでの場合は一本を輪のように使う。
②鬼は必ず二人必要。
③不可能な『なわ』の張り方は禁止。
④なわとびを潜り抜けなかったらゲームは終了。
⑤鬼が歌を唄っている場合はプレイヤーは後ろを向いている。
⑥また鬼が歌い終わったら、プレイヤーは上中下と三択を選ぶまで後ろを向いている。
⑦三択に応えたら前を向くことが出来る。
⑧どんなに無理でも、プレイヤー自身が指定したことは実行しないといけない。
⑨鬼にはプレイヤーを三ゲームさせる権利がある。
⑩ルールはゲーム進行時ごとに追加される。
……すると説明中に桃袋愛海が「あぁ、あのゲームね」と懐かしんだような声を口にする。それに賛同したのは巡士考太である。彼もまたこのゲームを知っていた。けれど夕日姉弟は知らないのか首を傾げている。
「負けたら罰ゲームだからね」
「勝ったら愛男の事を教えてもらうわよ!!」
彼女の言葉に双子はクスクスと笑うだけだ。それにムッとする桃袋愛海であったが、苛立つ自分を抑え、これから始まるゲームに思考を切り替える。
桃袋愛海が鬼に対して後ろを向き、目を閉じる。鬼である双子はそれを見届けると、向かい合って歌を口ずさむ。
「いーろーはーに、ほーへーと」
いろは歌が口から出される。その歌と連動するように手に持っている『なわ』をヒュンヒュンと音を出しながら弄りだす。
歌は続く。
「うーえか、しーたか、まーんなか?」
歌が終わる。しかしまだ彼女は後ろを向いたままだ。双子はヒュンヒュンと弄っていた『縄』を交差させたりと遊びながら、やがて満足したように頷き合い、声を上げた。
「「どれ?」」
その二文字に何故だか異様な緊張が走る。思わずプレイヤーでもない巡士考太が生唾を呑んだ。ピリピリとした肌を突き刺すような緊張感の中で、桃袋愛海は口を開く。
「上」
そう口にして彼女は鬼の方へと向き直る。そして目の前の光景にグッ、と息を呑んだ。目の前に広がるのは鬼がつま先立ちをしながら『なわ』を交差し『×』を作っていた。背の低い双子でも手を上げ、つま先立ちをすればそれなりの高さとなる。どうするのか、彼女の行動に真剣な眼差しで見つめる巡士考太。すると彼女は不敵な笑みを浮かべ始め、「フンッ」と小馬鹿にしたような笑いを放った。
「どうってことないわ! 見てなさい!!」
そう言って彼女は数歩離れる。一瞬、逃亡するのかと神経を疑ったが違う。彼女は助走するためにわざと距離を取ったのだ。
そして桃袋愛海は走り出す。
「はっ!」
掛け声とともに彼女は走り幅跳びのように『なわ』の上を軽やかに飛ぶ。そして猫のように身体を捻って両足を地面に着かせる。思わずその場は巡士考太と夕日姉弟の拍手喝采場となった。
双子は感心したような声を上げる物の、すぐに「じゃあ次だね」と口にした。喜びに浸る暇を与えない淡白さであった。思わず桃袋愛海が文句を口にしようとするも、すぐに押し黙りクルッと背を向ける。
歌が始まる。




