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道中で巡士考太は自分たちの目的(嘘だが)を伝えると、桃袋愛海はうんうんと頷いて一言「なるほどね~」と答えた。そして自分たちの言い訳を口にすると、今度は彼女が言い訳を口にする。
「私は愛男を見つけに来たのよ」
「え、愛男の行方知ってるんですか?!」
桃袋愛海の言葉に仰天する巡士考太。しかしすぐに「いいえ、知らないわ」と言われてしまい訳が分からなくなる。目を白黒する巡士考太を尻目に、真剣な顔で彼女は言った。
「彼奴はきっと此処にいるわ。……まあ、なんとなくなんだけどね!」
「どうしてそう思うんですか?」
夕日シホが尋ねる。弟の一は夜の学校の雰囲気に興味津々なのか辺りをキョロキョロ見ていた。
「弟の思うお姉ちゃんの勘……て、やつかな? 私は彼奴が何処かに連れ去られたんじゃない、て思ってる。きっと学校のどこかにいるはずよ」
「へー、ふっしぎー!」
漸く一が口を開く。調子のいい声を上げて言葉通りに不思議がる彼に、桃袋愛海は苦笑した。きっと精一杯の返しなのであろう。そうでなくては自分を保てないのだ。巡士考太は弟想いの姉だな……と感心していた。
そして四人は最後に愛男が目撃されたであろう校庭へ足を延ばす。閑散とした校庭が四人を出迎える。木々の騒めきと遊具の軋む音が不気味さを感じさせる。烏が飛び去る音に「きゃあ!」と夕日シホが驚きの声を上げる。ビクビクと震え、咄嗟に巡士考太の服を掴む。
「ねーちゃん、おっくびょうだな~」
夕日シホの弟が揶揄う。しかしそれに威勢よく返すことも出来ず、彼女は巡士考太に進言した。
「ね、ねえ……、やっぱり帰ろうよぉ」
口すぼんだ声が彼の耳に入る。彼女の言葉に呆れながら彼は「嫌だ」と口にする。
「帰らない、嫌なら帰れ」
「うぅ~!!!」
泣きそうな唸り声を上げる夕日シホ。彼女は仕方なく「帰らない」とポツリ呟く。それに肩をお道化させて「なんだそりゃ」と零す。
必死に地面の砂と睨めっこし弟がいなくなった痕跡を探そうと躍起になっている桃袋愛海を三人は見つめながらいると、震えるような鐘の音が校庭内を響かせる。
キィ~ン、コォ~ン、カァ~ン、コォオ~ン。
――初めて聞いた鐘の音であった。何時もの音より一つも二つも音がズレた物だった。急に木の騒めきも遊具の軋む音が無くなる。
しかし生温い風が巡士考太の頬を撫でた。まるで何かに舐められたようなその生暖かい温度に背筋がゾクッと悪寒が走る。思わず撫で上げられた頬に手を置き、巡士考太は前を見据えた。周りは鐘の音に驚いてキョロキョロと見渡していた。
――少し離れた所に誰かがいるのが見える。それも自分たちよりもはるかに背の低い存在。巡士考太は奥歯を噛みしめて、前を睨みつけた。
クスクス。
笑い声が聞こえる。不気味な声だ。しかし巡士考太には聞き覚えがあった。相手は一歩、一歩と近づいて来る。漸く周りも気付き始めたのか巡士考太同様に前を見据え始める。
顔が見えた。
あの図書館で会った双子である。双子は、それはそれは嬉しそうな顔で巡士考太を見つめた。手にはそれぞれ片方の『なわとび』を握りしめている。巡士考太はその光景を見たことがあった。確か遊びの中にあったはずだ。しかし思い出せない。首を傾げる彼を置いて、双子は揃って喋る。
「「いらっしゃい。待ってたよ」」
歪な笑みをたたえながら、手を広げる。まるで向かい入れるように。
「「遊ぼう!!」」
現在の時刻は、七時丁度であった。




