9
予定を狂わされた――、巡士考太は思った。親鳥について来る雛鳥かの如く、自分の後をついて来る二人。夕日シホ、夕日一。どうやら家に帰って荷物を置く途中で弟に見つかったようだ。好奇心旺盛の二個下の夕日一は夜の学校という響きに魅入られたようである。
後ろを振り返れば夕日シホが申し訳なさそうに眉を下げて笑ってくる。無言の謝罪を聞きながら、三人は学校の校門までやって来た。
「……ん?」
すると、巡士考太は何かを見つけた。薄暗い校門の所に誰かいるのである。思わず巡士考太は(教師か?!)と焦ったものの、よくよく目を凝らすとそれが違うことが分かった。何故ならその人物は校門を目にして頭を悩ませ、挙句の果てに校門の柵によじ登ろうとしていたからだ。慌てて校門に駆け寄ると、校門の柵を丁度跨いでいた人物は突然現れた巡士考太にギョッとした。
「きゃ! な、なになに!!?」
慌てふためく姿になんだかデジャブを感じてしまう巡士考太。けれど近づいたお陰で、彼はその人物が女性で、しかも知り合いであることが分かった。彼は口を開く。
「愛男の……お姉さん、ですか?」
そう口にすると、相手は困惑した声を出したのちに、彼の顔を見て一つの答えを導き出す。
「え、え? そ、そうだけど……て、もしかして考太くん?」
「はい」
素直に答えて頷けば、彼女は「はあ~、良かった~~」という溜息と声を吐き出した。どうやら緊張をため込んでいたようだ。力が抜けたのかヘナヘナ~、と柵の上で項垂れる姿に、巡士考太は苦笑した。
彼女の名は桃袋愛海。先ほども言った通り、桃袋愛男の姉だ。すぐ近くにある中学校の二年生で、新体操部に所属している。ちなみにこの情報源は全てクラスメイトであり、弟の愛男からであった。桃袋愛海は安心からの安堵から一転、巡士考太をギッ、と睨みつけた。訳が分からず首を傾げる巡士考太。
「もう、脅かさないで考太くん! 吃驚しちゃったじゃない!!」
「ご、ごめんんさい……」
まくし立てるように言い放つ桃袋愛海にギョッとし、すぐに謝罪を口にした(ほとんど反射的である)。まだプリプリと怒りを見せる桃袋愛海、しかしすぐに何かに気づいたような顔をした。
「あれ、そういえば……。どうして考太くん、此処にい――たぁ!?」
不思議そうな顔と目でキョトンとする桃袋愛海であったが、体の重心がずれてしまったせいで、彼女は柵の上から転がり落ちてしまう。幸いなことに頭は打っておらず、おしりを強打したようだ。痛そうにおしりを擦りながら、痛みで目を潤ませた。
「だ、大丈夫ですか!?」
いつの間にか追い付いてきた夕日シホが慌てた声をかける。すると桃袋愛海は手を振って「大丈夫よ~」と返す。それにホッと安堵しながら、巡士考太は言った。
「愛海さん、すみませんが来客用の留め金外してもらえますか?」
「え? ……えぇ、良いわよ」
桃袋愛海の手により留め金は外れ、巡士考太を含めた三人は夜の学校へ侵入した。
現在の時刻は六時四五分、もう少しで七時となる。