7〜素直になろう〜
結局おにいちゃんは咲子が駆け付けるまで、たっぷりと男二人組を懲らしめていた。
私がどんなに言ってもやめなかったのに、咲子が来た途端やめたおにいちゃんに、二人の関係が何となく見えた……。
そして、稔くんは。
顔に痛々しい痣をいくつか作って、気を失っていた。
そんな稔くんをおにいちゃんが部屋まで運んでくれた。
叔父さんと叔母さんはそんな稔くんにビックリして、慌てて手当てをしてくれた。
ちなみに男二人組は警察に通報し、ようやく落ち着いた頃には真夜中になってしまっていた。
私は、稔くんの傍にずっとずっといた―――。
稔くんは、気絶したまま寝てしまったのかわからないけれど、なかなか目を覚まさなかった。
そんな稔くんを、私はずっと見ていた。
(稔くん……)
私を守ってくれた稔くん。
そのせいで、怪我をしてしまった稔くん。
すごく申し訳なくて悔しくて、私はぐしゃぐしゃな気持ちを持て余していた。
傍らにいた咲子が、そんな私を見て声をかける。
「美央、ちょっと休憩したら?ずっと見てるでしょ」
そんな咲子の気遣いは、今の私には悪いけれど無意味だった。
「ううん、いいの」
だって私のせいでこうなっちゃったのに……。
せめて、稔くんが目を開けるまで傍にいたい。
そんなことくらいしか……できないから。
「じゃあ私、何か飲み物持ってくるよ」
咲子はそう言った。
咲子はいつでも、優しい。
「うん、ありがとう」
そう言った私の表情は暗かったかもしれない。
そんな私を咲子は心配そうに見ながら、部屋を出て行った。
部屋には私と稔くんだけになった。
おにいちゃんは海へ散らかった花火を回収しに行ったはずだ。
―――静寂が、部屋を満たす。
「……稔くん」
……お願い。
早く目を開けて……!
強くそう祈った。
と、その時。
「やっと咲子のやつ、出てったか」
……………はい?
今何か、聞こえた?
……っていやいや!
み、稔くんの声じゃない!!
「み、稔くん!?」
「よ、美央ちゃん」
そこには目を開け笑っている稔くんがいた。
見慣れた稔くんの、見慣れた悪戯な笑顔。
「起きてたの!?」
「まぁ、ね。咲子なかなか出てかねーんだもん。もう少し遅かったら寝ちゃうとこだった」
そう言って笑う稔くんは、いつものやんちゃな少年だった。
それを見た私は、どっと安堵してしまう。
「よ……よかったぁ〜……」
へなへなと力が体から抜けていく。
思わず、稔くんの寝る布団にもたれかかってしまった。
そんな私を見て、稔くんは笑い……そして申し訳なさそうな顔をした。
「美央ちゃんごめんね……守れなくて」
そう言った稔くんの声は、どこか沈んでいた。
私は慌てて身を起こして、ぶんぶんと首を横に振った。
「そんなことない!」
稔くんが謝る必要なんて、どこにもなかった。
それどころか、私が謝るべきなのに!
「でも俺、情けなかったよな……やられてたし」
稔くんらしくない沈んだ台詞。
その時私は初めて、稔くんが落ち込んでいることに気付いた。
稔くん……そんな顔しないで。
だって私。
あの時稔くんがナイトに見えたくらい、カッコいいって思ったんだよ?
「情けなくなんかないよ……っ。稔くん、私のこと守ってくれたじゃない」
そう、小さな背中で。
大きく守ってくれた。
それがどれだけ嬉しかったか……稔くんはわかってないよ。
「ごめんなんて言わないで……言うなら私だよ。ごめんね」
「美央ちゃんが謝ることないよ!美央ちゃんは何も悪くないっ」
……ありがとう、稔くん。
「なら稔くんも謝らないでね?」
「……わかった」
稔くんは頷くと、急に起き上がった。
「稔くん大丈夫?」
「ん、平気。体は何ともないからさ」
身を起こしたら、稔くんと私の視線が同じ高さになった。
顔が近くなって、少しだけ胸が弾む……。
私は思わず目をそらしてしまった。
「美央ちゃん」
「ん?」
呼ばれて私はもう一度稔くんを見た。
そしたら。
唇に何かがぶつかった。
トン、と軽く触れたそれは柔らかく。
それが稔くんの唇だったのだと理解するのに、私はしばらく時間をかけてしまった。
「………………」
……って。
えええぇ!?
「み、み、稔くん!?」
思わずどもり過ぎてしまった私。慌てて口を手で覆っても、唇に触れた感触がまだ残っていた。
―――軽く、触れられたそれは。
まぎれもなく、稔くんの唇だったんだから……!
(つまりこれって……キ、キス?)
胸が、バクバクしている。
顔がほてっていくのがわかる。
多分私は今、すごく情けない顔をしている。
そんな私を稔くんは真っ直ぐ見つめていて。
そして静かに、言ったんだ。
「好きだよ」
―――その言葉は、力強く稔くんの口から発せられた。
いつもの、可愛い稔くんじゃない。
どこかキリッとした印象の彼の瞳が、私を静かに捕らえた。
「………っ」
―――嘘……、と言いそうになった。
でも。
稔くんの目があまりにも真剣だったからそれさえも言えなくて、私は言葉を失った。
けれど―――稔くんの台詞が。
私の心臓に大きく作用するのに、そんなに時間はかからなかった。
すぐにドキドキと胸は高鳴り始めた。
「稔……くん……」
ああ、どうしよう。
何を言ったらいいのかわからない。
嬉しくて夢みたいなのに。
私はバカみたいに稔くんを見つめる他なかった。
すると、おもむろに稔くんがまた口を開いた。
……何故か、拗ねたような口調で。
「俺……みっつも年下で中学生だし、美央ちゃんより背も低いし今日だって美央ちゃんを守りきれなかった」
そう言う稔くんは何故か切なそうに見えた。
稔くん……苦しいの?
心配になりかけた私だったが、稔くんがバッと顔を向けてビックリした。
だって……あまりにも真剣な瞳だったから。
「ホントは……!こんな早く告白するつもりなんてなかったんだ!!」
「え……」
「身長越してからにしようって考えてたのに……美央ちゃんが悪いんだからな!」
バツの悪そうな顔をして、稔くんはぷいっとそっぽを向いてしまった。
私はポカンとして、そしてハッと我に返って反撃した。
「な、何で私のせいなのよ!?」
告白してくれてすごく嬉しかったのに、何で怒られるの!?
不満げな私に、稔くんはちらりと目を向けてこう言った。
「……美央ちゃん俺のこと好きってわかりやす過ぎ。好きな子からそんな態度取られたら告白したくなるっしょ」
「なっ……」
かぁ、と顔が赤くなったのがわかった。
わ、私ってそんなバレバレだった!?
「なのに素直じゃないから俺に気のないフリするし。まったくあまのじゃくなんだから」
「な……な……」
さながら今の私は金魚のよう。口をぱくぱくさせるしかない。
何……何なの。
てことは私の気持ちは全部、稔くんにもろバレだったってこと!?
(う……嘘でしょ〜!)何か私すごいマヌケじゃない?
けれどそんな私に告白してくれた稔くんが、ちらりと私を見た。
その瞳に、いつもの悪戯っ子っぽい光を宿して……。
「美央ちゃん」
「は、はい!?」
何故か敬語になる私。
そして稔くんは天使のような笑顔になると、こう言ったんだ。
「いい加減素直になって、俺に好きって言ったら?」
………前言撤回。
こんな俺様な天使、いるもんかぁ〜!!




