4〜二人きり〜
二泊三日の海旅行。
けれど一日目はほとんど旅館のお手伝いで台なしになった。
まぁ一日目をお手伝いで潰すかわりに、二日目は一日中遊んでいい、てことになったんだけどね。
咲子の言ったとおり、私たちはタダで泊まらせてもらってるんだから仕方ないかな。
とほほ。
「あれ、咲子ー?」
一人だけ長くお手伝いをしていた私が部屋に戻ると、先に部屋に戻ったはずの咲子がいなかった。
二人でおにいちゃんたちの部屋に行こうって言ったのに……もしかして、先に行ったのかなぁ。
私は再び扉を閉めると、向かいの部屋の扉に目をやった。
おにいちゃんと稔くんの部屋。
コンコン、とノックをすると「は〜い」という稔くんの声が聞こえた。
少しだけドキッとしたが、慌てないように深呼吸してから扉を開けた。
「お邪魔しま〜す。………あれ?」
中に入ると、そこには稔くんが一人いただけだった。
「よ、美央ちゃん」
テレビをどうやら観ていたらしく、就寝用に準備された布団にごろんと寝転がっている。
……親父くさいよ、稔くん。
「おにいちゃんと咲子は?知らない?」
稔くん一人だとわかったら、なぜか部屋に入ることができなくなった。
顔だけ覗かせて、稔くんにそう聞いた。
すると。
「ああ、咲子と信也さんなら二人で海行ったよ」
「ええ!?」
私にとっては衝撃的な事実を突き付けられた。
ふ、二人で海〜!?
だって今、夜の八時だよ?外ももう暗いのに!
それに後で四人で花火しよう、て言ったのに……。
「美央ちゃんそんな顔すんなって、二人きりにしてやろうよ」
「だってぇ〜」
何か納得いかない。
なんてことを考えていると、稔くんが私を手招きした。
――え、入っていいの?
ドキッとする。
だってこの部屋、稔くんしかいないのに……。
部屋に入りたいような、入りたくないような複雑な緊張をしてしまった私に、稔くんは苦笑してこう言う。
「俺寂しいから一緒にいてよ」
――稔くんって、やっぱり女たらしかも。
こんな台詞をさらっと言えるんだから。
でも……。
「う、うん……」
不覚にもかなり赤面してしまった私は、部屋に入るしかない。
半端に開いた扉を開けて、中に入る。
「お邪魔しま〜す……」
部屋に入ると稔くんがポンポンと自分が転がっている横を叩いた。
そこに座れってこと?
でもそこ、布団の上なんだけど……!
(でもまぁ、あんまり緊張してもいけないか)
私のが年上なのに緊張しているのが何だか悔しくて、私はそう思い直して稔くんの横に座った。
ちょこん、と何故か体育座りになる私……。
「ぷっ……何で美央ちゃん体育座りなわけ?」
「い、いいでしょー別に!これが安心するの!」
まだゴロンと布団に寝転がる稔くんは猫みたい。
腹ばいになって肘をついて、上目遣いに私を見つめてくる。
(ううっ……何話そう)
咲子とおにいちゃんの馬鹿!
二人だけで海行くなんてずるいよ!
ていうか……羨ましい!
「……羨ましいよな」
「え!?」
一瞬、私の心の声が聞こえたのかと思って思わず稔くんを見た。
(も、もしかして私知らない内に口に出してた!?)
……と思ったけど、稔くんはあさっての方向を見てぼんやりとしている。
私が稔くんを驚いた目で見つめていることに気付いているのかはわからないけど、こんなことを言う。
「羨ましいよね、咲子と信也さん」
――それは、今まさに私が考えていたことだった。だから。
「う、うん……」
私にはそう言うことしかできなかった。
すると稔くんはまた布団の上で転がり、今度は仰向けになる。
「美央ちゃんはさあ、今彼氏いるの?」
「え!?」
仰向けになった稔くんは、私を見つめながらそんなことを聞く。
「……いない……けど」
――なんで、そんなこと聞くの……?
徐々に心臓が激しく鳴り始めたのがわかった。
「そっか、いないんだ」
そう言う稔くんの意図がわからなくて、私は困惑する。
どういうつもりで聞いたの……?
「稔くんは?」
焦る心とは裏腹に、私は平常心を装ってニコリと聞いた。
「俺?ガールフレンドならたくさんいるけど、彼女はいないな」
「へ〜いないんだぁ」
「俺はみんなの稔くんなの!」
「あはは、何それ」
(そっか、いないんだ……)
ついついホッとしてしまう。
「てゆーか俺、付き合ったことないよ」
「え、そうなの?」
「だって俺まだ中一よ?」
「ま、まぁそうだけど」
へぇ……付き合ったことないんだぁ。
稔くんませてるから、絶対過去に彼女とかいると思ってた。
なんか、意外。
「実は俺シャイなんだよ」
「シャイな子に取り巻きなんている〜?」
「あ!ひっでー!」
稔くんはバッと身を起こす。
「そういう美央ちゃんこそどうなんだよ!?」
「え?」
ずい、と稔くんの顔が近づいた。
「咲子が言ってた。美央ちゃん学校でモテモテなんだろ?」
モ、モテモテって……。
そんなことよりも、稔くんの顔が近すぎて私は平常心を保つのに精一杯だった。
うわぁ……稔くんって、やっぱりカッコイイのかも。
今はまだ幼いから可愛い感じだけど、もう少し成長したら、きっと男らしくなってカッコよくなる。
……って、そんなこと考えてる場合じゃなくて!
「み、稔くんには関係ないでしょ!」
慌てていた私は顔を逸らしながら、ついそう言ってしまった。
あ……何か、ヤな言い方したかも。
しまった、と思い稔くんを見た。
すると気のせいか、少しだけ不機嫌そうな稔くんの表情がそこにあった。
「ふーん……」
目を細めて私を見る稔くん。
――お、怒ってる?
稔くんは近づけていた身体を離すと、またゴロンと布団に転がり私に背を向けた。
やだ……これって、絶対怒ってるよね!?
「み、稔くん?」
「俺には関係ないんでしょ。ほっといてよ」
初めて聞く冷たい声。
そんな……。
ちょっとした一言でこんなに態度を変えた稔くんに私は混乱した。
何でそんな態度をとるの?
やだ……。
背中を向けないでよ……。
どうしたらいいのかわからない。
声をかけるべきなのか、かけちゃいけないのかわからなくて、泣きそうになってしまう。
稔くんに、嫌われたくないよ……!
ぎゅっと目を閉じた――その時。
「………ごめん」
稔くんの小さな声が、聞こえた。
背中を向けたまま、稔くんが呟く。
「別に何でもないから、気にしなくていーよ」
……何でもない?
嘘。
なら何で、こっち向いてくれないの?
本当は、稔くんにそう言いたい。
でも素直になれない私は……稔くんが見ているわけでもないのに、愛想笑いを浮かべてこう言う。
「う……うん!気にしてないからいーよ」
嘘だよ。
本当はすごく、気になるよ。
「えっと、私そろそろ部屋……戻るね」
何だかいたたまれなくなった私は、立ち上がってそう言った。
稔くんはまだ背中を向けたままだ。
「じゃあ、おやすみなさい!また明日ね」
せめて、元気よく。
傷ついてるのを悟られないように。
私は稔くんの背中に寂しさを感じながらも、笑顔で部屋を出て行った。
何で突然こんな流れになったのか……混乱した頭ではまだ考えられなくて。
部屋を出た途端泣きそうになって、私は慌てて自分の部屋に戻った。
だからその後の、稔くんの呟きは私に届かなかった。
「俺って………カッコわりぃ……」
部屋に戻った私。
へなへな、と布団に力なくダイブした。
「……何でこうなるのぉ……」
突然不機嫌になってしまった稔くん。
原因は多分、私の「稔くんには関係ないでしょ」発言のせいなんだろうけど……でもあんな態度取られるなんて。
(でもあれで不機嫌になるってことは、私のこともしかして……)
いやでも、稔くんってAB型の気分屋さんだし。
何だかもんもんとする。
考えても答えは出ない。
頭がショートしそうになっていると、部屋の扉が開いた。
咲子が、帰ってきた。
「あ、咲子!」
私は布団から身を起こした。
「美央、お手伝い終わったんだね。お疲れ様〜」
そう言って部屋に入る咲子。
あれ?
何か顔が赤い……?
「……咲子、何かあった?」
「え!?な、何で!?」
慌てふためく咲子に、ピーンときた。
そりゃそうか。
おにいちゃんと二人きりだったわけだし、何もないわけないんだよね。
「いいなぁ〜ラブラブできる相手がいて」
「み、美央!」
真っ赤になってそう咲子はすごく可愛い。
いいなぁ、咲子。
好きな人と両思いで、ラブラブできて。
私なんて片思いのうえ、何故か変な展開になっちゃってるし……。
「咲子」
「な、何?」
私はよーし、と意気込んで言った。
「明日の海、とことん楽しむよ!!」
「う、うん!」
おー!と手を上げる私につられて咲子も手を上げる。
こうなったら明日の目標は「稔くんと仲直りして更なる親睦を深める」だ!
今日のことをバネにして、明日は明日また頑張ればいいんだし!
前向きモットーの私に凹んでる暇なんてない。
とりあえず明日は、朝一で稔くんに謝ろう。
それで、海では稔くんといっぱい遊んで仲良くなるんだ!
そう決めたら頭の中がすっきりした。
私は起き上がると、咲子にニコッと笑った。
「咲子、それじゃあさ」
そしてニヤリと笑う。
「ラブ話聞かせていただこうか〜」
「え、えぇ!?」
私を置いてった罪は重いよ、咲子。
とりあえず私は咲子の顔が赤かった理由を追求していくことにした。
今日も夜更かし、しちゃいそうな予感……。




