運命だと決めるなら 3話 真水視点
空から声が振ってきて思わず視線を空に上げた。
先ほどの暗雲がうっすらと引き始め光がもれてきている。
「空から振ってくるなんて、まさか、天使さん・・・?」
優美の言葉に悪戯っぽい表情で答える。
「はーい、正解!僕は天界と人間界の魂を管理している、天使のルキでーっす!」
天使・・・随分とイメージが違う。天使とはもっと、神々しくて、重厚な雰囲気を携えてると思っていたからだ。
全体的に随分とラフな服装だと思った。まるで、近所のコンビニに出かける若者のよう。
なんともつかみ所のない、おちゃらけた雰囲気に優美は唖然としていた。
先ほどの出来事もまだ理解が追いつかないが、天使、としか言いようのない、人間が地上に降りてくるという不可思議な現象に、今は彼を天使、と認めるしかないようだ。
「おい、ルキ、どういうことか説明してくれるな?」
温人不機嫌の面持ちでルキに詰め寄る。
ルキが優美に向かいあうと、ゆっくりと訪ねる。
「今日車にひかれそうにならなかった?」
突然のことに、少し沈黙が流れる。脳内で今日の出来事を思い出してみる。
怒濤の天界に少し前の出来事を思い出すのに時間がかかっていた。
「ああ!」数秒してやっと当該の出来事を思い出す。
ルキはそうそう、と共感したように、にこにこと笑っていた。
「実はねあのとき君は死ぬ予定だったんだけど、天界のミスで、君の魂を処理できなくなっちゃったみたいで~」
なるほど、命拾いしたようだ。ほっと胸をなで下ろしたのもつかぬ間だった。
「だから今此処で死んで天界にいこっ!」
・・・・・・随分物騒な言葉が続いたような気がした。
「え!?」
「あれ?聞こえなかった!?今から死のう?」
「い、いやですよ!!!」
間髪入れず、優美はとっさに声を大きくした。
ギャグ漫画のような会話のキャッチボールは、ルキとのおなじみの様子のようで、
別段、温人も空奈も違和感がないようだったが、無茶苦茶な言いように呆れてはいるようだった。それはそうだ、勝手に管理を間違えて、死ななかったから、死を選べなどと、相手が優美ではなくとも絶対に受け入れられるものではなかった。
随分と命を軽んじている天界にも違和感を感じる。
もしくは、このルキという青年の言い方がその違和感を助長させたといっても過言はないのだが。
しょんぼりした振りをしてルキが続ける。
「まあ、誰だって死ぬなんて嫌だよね~でも今日死ぬ運命だった人間をこのまま活かしておくこともできないんだよ~大丈夫!痛かったり苦しかったりはしないようにするから!」
そういう問題でもない。
「かといって、はいそうですか!とはなりません!絶対に嫌です!」
ルキは頭を抱えて、わざとらしく唸っていた。
そうして、ひとつの案を思い付いたようで、手を軽く胸の前でたたいた。
「生きるチャンスがひとつあったよ!」
「チャンス・・・?」
「さっき、温人から聞いたでしょ?闇の勢力を倒して生まれ変わるって。」
「はい・・・」
「クロスの持ち主は不思議な力が使える。君の持っているそのクロス。それで、闇の勢力を救ってよ。さっき温人が闇の勢力に打ち勝つことには否定的だったでしょう?」
「まあ・・・でも、これはただの両親の形見で、とても、そんな風には」
といいかけて、先ほどから変身した姿のままの自分を思い出した。
たしかにこのクロスには不思議な力があることは自明の理だったからだ。
ルキが言う。
「倒すんじゃなくて、救うなんて、とっても難しいよ。それができるかい?」
どうしよう、闇の勢力を救うなんて、できるだろうか。
ただ、自分の命がいまここで終わることには納得できない。
母と父の言葉を思い出す。運命だと諦めないでといった言葉。
今日死ぬことが運命ならば逆らわなくては。まだ、私にはやりたいこともしたいこともある。
なんのために生まれてなんのために生きるのか。あの日の事故で一緒に死んだって良かったはずなのに、今日まで生かされた。その理由をまだ見つけていない。
優美の目に決心の光が宿る。
温人が口を挟む。
「なんで一般人がクロスを持っている可能性があるんだよ、これから先、自覚がないやつらがクロスを持っていたら引き込むにしても奪うにしても結構、荷が重いぞ」
「詳しいことはわかんないけど突然変異?天界の事情でクロスは各地にばらまかれてしまってね、一般人が持ってる可能性もゼロでもないんだよね~ま、予想できない事って色々あるよね!」
「それをはやく言えよ!俺が一般人を意味なく襲ったみたいになっただろ!」
「温人が最後まで話聞かないでいっちゃったからじゃ~ん」
ケラケラと笑うルキに温人は不満そうだった。
なんだか、夢のよう。
こんな転校初日に、なにか、新しい人生が始まるような。
ルキがこちらに向かい直して改めて問う。
「ってことで、死ぬか、闘うか。君が選んでよ!」
「そりゃ、闘いますよ!」
闘う。この運命に。
ルキがその言葉を聞いて、満足したように、姿を消した。
本当に人間じゃないんだ・・・と優美は改めて思った。
振り返った時には返信が解けいつもの姿に戻っていた。
温人がバツが悪そうに、近づいてくる。
「・・・さっきは悪かった」
「いえ、そんな事情があるとは知りませんでしたから。そりゃ、仲間か分からないクロス保持者がいたら、警戒しますよね」
優美は事情をくみ取って微笑んだ。
自分が急に襲われて怖かったことは勿論そうだ、でも、相手の心情を考え、くみ取り理解をしめそうとするのは優美が当たり前に身につけた優しさだった。
いま謝罪をしてくれた言葉や雰囲気から悪い人間ではないのは明らかだった。
無愛想で不器用な温人の人柄が少し見えた気がした。
ずっと黙っていた空奈が二人の空気を和ますように話し出す。
「も~いつも温人はこうなのよ!私は火野空奈。火の能力者で温人と協力して能力者を探していたの、よろしくね」
先ほどぶつかった女生徒がまさかの能力者で、まだ転校して初日にこうやってつながりを持てたことに優美は心の底から嬉しくなり改めて挨拶をした。
いろんな事が怒濤に起きた1日だった。
空奈があ、職員室に用事があったんだわ、先に戻るわね、と声をかけた。
空奈が去った後、温人が小さく呟いた。
「空奈も・・・おれとおなじく自殺したものなんだ」
「え・・・」
あの明るい空奈さんが?信じられないような気持ちで言葉を失う。
「自らを殺しておいて、もう一度生きたいだなんて傲慢だよな」
「そんなこと・・・」
温人は笑ったが、その顔は悲しさがにじみ出ていた。
そのまま温人は屋上から去って行った。
優美はいまの言葉に呆然として立ち尽くしていた。
二人にどんな過去があるのか。踏み込んでいいのか。まだ決めかねていた。
きっといつか、本人の口から、死を選んだ理由も聞けるのだろう。
そう思いながらも、優美は自殺に至るまでの過程を思い巡らせていた。
誰にも言えなかったであろう抱えた思い。その思いの先の自らを殺した決断。
感情移入しすぎてしまっているのかもしれない。
いつの間にか優美の瞳からは涙が溢れてきた。分かってあげられない。いまはまだ。
「あらあら、泣いているの?可哀想に」
突然の見知らぬ笑い声に驚いて優美は周りを見渡す。
「だ、だれ?!」
「ふふ、弱いまま生きていたってね。空しいだけよ。強さで奪う世界こそ完璧な世界だわ」
もう一度見上げる。屋上の緑色のフェンス。
人間ならば到底上れそうにない場所に、先ほどのルキとは違う黒い羽を携えた女性が座っていた。不気味な笑みをたたえて。




