カスと寄り道
権力すごい
あれから言質をとってここから移動するということをジュリアに確認して、その前に何処か行っておきたいところややっておきたいことはあるか聞いてみる
「え?行きたい場所ですか?うーんそうですね…強いて言うなら家族の安否が知りたいです」
俺がなぜと聞くと、まずジュリアは村を出てから、今に至るまでを簡単に説明してきた。そして、自分が冤罪とはいえ貴族に不敬を働いてしまったので、その責が家族まで行っていないか気がかりだったそうだ
村の場所を聞くと、スーパーカブで走っていた街の近くにある村ということで、それならば転移ですぐに行ける
そのことをジュリアに説明すると、女神かと思うほどの笑顔でお礼を言ってくれた
「じゃ、行くか」
「はい?」
「だから今すぐ行くぞ。持っていくものはないか?他に寄っていくところは?」
「え?あ、あの特に持ち物はないです。寄るところは家族のところだけで大丈夫ですが…」
「それなら近くの街まで転移で行って、そこからスーパーカブで村まで行くか」
俺が道順を確認していると、恐る恐るジュリアが聞いてくる
「あの、そんなにすぐ行くんですか?」
「ああ、なるべく早く行きたいんだ(だって臭いんだもん)それに故郷でやること(童貞卒業)があるからな」
俺の必死さに感化されたのか、いそいそと準備を始める
ジュリアは本当に持ち物がないみたいで、ジャージ姿のまま俺の隣までやって来た
そしてジュリアの手を取ると、商人が多かった街の近くに転移する
「きゃっ!?」
急な浮遊感にジュリアは驚いた声をあげるが、俺は慣れたものでこの浮遊感もジェットコースターに似ているなくらいにしか感じない
目の前には、商人たちがしのぎを削り合っている様子が見て取れる
転移をする際に俺もジュリアも透明状態になっていたので、気づかれていないが、ジュリアは消音になっていないので声を出さないように注意しておく
どこもかしこも、商人が取り引きを行っていて、一般の人達や最初の街で見た冒険者っぽい人達が探しても見つけられなかった
その分、活気が良いというか、うるさいというか、あれくらい怒鳴らないと商人なんてやってられないのだろうか
ジュリアに聞いてみると、商人にとってこのやり方は普通であり、中には怪我人が出てしまうことが出てしまうこともあるとのこと
扱っている品も食べ物から薬、何の鉱石かわからないものなど多種多様な品を扱っている店が多く見られる
だが今の俺たちには関係ないものばかりなので、早速門から出て離れたところでスーパーカブに2人で乗る
最初ジュリアはスーパーカブに怯えていたが、これが移動方法ということと噛んでこないことを確認してから乗ってくれた
「きゃあ~!」
「どうだ!?速いだろう!スーパーカブは!」
「はい〜!馬と違ってお尻も痛くないですし、何より楽しいです〜!」
「そうかそうか!わはははっ」
乗っていると、次第に楽しくなってきたようで、走行中はテンションがずっと高いままであった
スーパーカブを褒められた俺も何だか嬉しくなってしまい、謎のテンションぶち上げ状態で村までの道中を進んでいった
そして商人たちの街からスーパーカブで20分ほどで、ジュリアが生まれた村に着いた
「ジュリア、ここからは歩いていくぞ」
「はい」
俺とジュリアは手を繋いで村まで向かう
ジュリアの意向で村の連中に自分が来たことを知られたくないとのこと
なのでいつもどおりの透明と消音の付与アイテムで潜入ミッション状態になっている
歩いて10分ほどで村の入り口にたどり着いた
「あ、門番のベルトさんにノマードさん…」
早速知り合いを見つけたのか門いる2人を見てジュリアが呟く
門にいるのは初老の男と、俺よりも少し年上に見える男の2人だった
「知り合いか?」
「はい。年配の方が昔よく遊んでくださった方で、もう一人の方がみんなのお兄さん役みたいな方でした」
そう言っているジュリアの目にはその時のことが思い出されているようで、懐かしそうに説明してくる
俺達は2人に気づかれなく悠々と門を通り抜ける
ギルドの初老の男ことカルロと違って、何かを察することは出来なかったらしい
そのままジュリアの指示に従って、家族が住んでいるという家に行く
そして家に着き、窓から中を覗いてみると、何かを食べているようだった
年配の男女と中年くらいの夫婦にその子供なのか、男の子が2人いた
「お父さん、お母さん…」
どうやら年配の2人は両親だったらしい
「お兄ちゃんとあれはもしかしてカーラかな?」
「もしかして、カーラお兄ちゃんと結婚したの!?」
「ってことはあの子たちは2人の子供よね」
ジュリアのえー!?とかあわわとかの反応がおもしろくて見ていたが、どうやら本来の彼女の性格は結構ミーハーだったらしい
「どうやら家族に心配はなさそうだな」
「はい。私のせいでもしかしたら家族に責が及んでいるかもと思っていましたが、見ている限り大丈夫そうですね」
肩の重荷が消えたらしく、あからさまに安堵している様子だった
その後、姉家族と弟家族の様子を見ていって、笑ったり泣いたり憂いたりと喜怒哀楽が激しい表情をずっとしていた
本当は家族と会って、今までのことや結婚相手のこと、甥っ子姪っ子のことなどいっぱい伝えたいことがあったはずだ
それでも、ジュリアが家族と会ってしまうと、それが噂となって家族に危険が迫るかもしれない
それを回避するために、ただ様子を見ているだけに留めているのだ
そうして、目に焼き付けるくらいに家族の様子を見終わったあと、行きましょうと言ってきた
「もういいのか?」
「はい。家族の無事を知れただけで私は大丈夫です。それに、本来会うことも出来なかったはずなのにこうして会うことが出来ました。これも小次郎様のおかげです。本当にありがとうございます」
「そうか、また見に来たいときは一言頼むぞ。あ、勝手に行くのは駄目だぞ」
「え?また来ても良いんですか?」
「うん?まあ福利厚生みたいなもんだよ。俺には転移の能力があるからな。来ること自体は簡単だろう」
「あ、そうでした。小次郎様は凄い力をたくさん持っているんでした」
ジュリアの言葉に、お前もその凄い力を持っているんだけどなとツッコむと華が咲くような笑顔でそうでしたと言うのであった
福利厚生大事