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『異世界迷宮は和食のあとで』―その男の料理、食えば無双―  作者: 二天堂 昔
第一章『迷宮攻略は和食のあとで』

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第21話『群竜の脅威──挑むべきか退くべきか』



視界の先に、赤黒い影が幾つも舞っていた。

翼の一振りで風圧が地面を裂き、空気が熱を帯びる。


「……来やがったな、群れで」


俺は歯を食いしばり、木刀の柄を強く握る。

紅蓮のヴァルドラを仕留めた直後だってのに、これじゃ休む暇もねぇ。


フィリーネが眉をひそめる。

「アンタ……どうするつもり? アレ、ざっと見ても五頭はいるわよ」


リリナは小さな手でミスリルレイピアをぎゅっと握りしめ、尻尾を不安げに揺らしていた。


クロフィードは口元を歪めて笑う。

「フッ……群れの飛竜とはな。退けば楽だが、手にできるのは空っぽの勝利だ」


――《選択を求めます。退却すれば犠牲は最小。しかし飛竜の肉と鱗、その他極上素材は失われます》

――《交戦する場合、一頭ずつ誘導して分断せよ。複数同時戦闘は推奨されません》


脳内に響く、味覚の絶対領域のアナウンス。

それはただの提案じゃなく、未来を左右する天秤だった。


「……挑むべきか、退くべきか……」

俺は深く息を吸い込む。


空腹を満たすだけじゃねえ。

仲間を強くし、未知の素材を引き出すのが、俺の“和食無双”だ。


「さて……どう料理してやるか」


この時、俺は戦うか否かの選択を迫られていた。




遠く、夕陽を背にして幾つもの影が旋回していた。

鋭い鳴き声が大地を震わせ、空気は張り詰めた刃のように重くなる。


「……なぁ、絶対領域」

俺は目を細め、脳内に問いを投げかけた。

「飛竜ってやつについて、知ってることを全部教えてくれ」


――《飛竜は絶対強者。群れをなすが、寄ってたかって戦うことは恥とされる》

――《掟は一つ。戦いは常に一対一。倒された飛竜は、誇りをもって相手の糧となる》

――《主ヴァルドラを失った今、群れは仇討ちを誓い、順番に汝らへ挑むだろう》


一対一(タイマン)、ねぇ……」

俺は思わず笑った。


和食も同じだ。

素材一つひとつと真っ向から向き合い、調理し、その良さを引き出して一皿を完成させる。

寄せ集めでごまかすんじゃねえ。素材との“真剣勝負”が料理人の矜持。


「……気に入ったぜ、飛竜の矜持―」


横でフィリーネが小声で呟く。

「アンタ……こんな状況で嬉しそうにするなんて、頭どうかしてるんじゃない?

それにタイマンって……アンタ一人で戦う気?」


俺は首を振った。

「いいや、そこは多めに見てもらうさ。俺たちは四人で一組、屋台だって一人じゃ回せねえからな」


クロフィードは口元を歪め、影の奥で笑う。

「フッ……飛竜と料理人の哲学を並べるとは。だが悪くない。群れが一頭ずつ出てくるなら、我らにも勝機はある」


空で旋回していた飛竜の一頭が、獲物を見定めたように鋭く急降下してくる。

砂煙を巻き上げ、地を抉る勢いで着地。


「さあ、一番手のお出ましだ」

俺は腰の和泉一文字を握り直し、口角を上げた。

「飛竜の矜持、こっちも受けて立つぜ!」



巨大な影が地面を揺らした。

翼を畳み、爪を突き立て、鋭い双眸がこちらを射抜く。

群れの先鋒、怒りと誇りを背負った飛竜一頭目。


俺の脳内にアナウンスが響く。


――《対象名:飛竜・群竜一番手》

――《体長:七メートル 推定体重:二トン》

――《弱点:視覚器官、翼膜、脚部腱》


「よし、分析完了。狙うは目と翼、脚の腱だ!」


「任せてっ!」

リリナが飛び出し、光を集めて放つ。

「――リリナフラッシュ改ッ!」


閃光が炸裂、飛竜の視界が真白に塗り潰される。

巨体が一瞬よろめき、その隙を逃さずクロフィードが闇を放った。


「影牢!」

黒き鎖が地面から伸び、飛竜の足元を絡めとる。

拘束時間はわずか数秒。だがそれで充分だ。


「行くわよ、矢の雨で翼を裂く!」

フィリーネが風を纏わせ、弦を引き絞る。

放たれた矢は風刃となり、飛竜の翼膜を切り裂いた。

獣の悲鳴が夜気を震わせる。


「トドメだ――和泉一文字!」

俺は一気に踏み込み、脚部の腱を狙って斬り込む。

鋼のような鱗の間隙を突き、刃は見事に腱を断ち切った。


飛竜の片脚が崩れ、大地が揺れる。

砂塵の中、巨体は片翼を引きずり、無様にのたうった。


「まだ終わってねえぞ!」

俺は剣先を突きつける。

仲間の連携と俺の刃が、一頭目の飛竜を完全に追い詰めていた。



崩れ落ちた飛竜は、なおも牙を剥き出しにして唸り声を上げた。

誇りを捨てず、最後の一撃を狙っているのが分かる。


俺は和泉一文字を構え直し、深く息を吐いた。


「勝ち方には流儀がある。相手を辱めず、きっちり斬って終わらせる。……それが俺の美学だ」


砂塵が晴れる。

閃光の残滓が消え、影牢の黒鎖がほどけ、翼から滴る血が大地に散った。

飛竜の瞳が俺を映す。

誇りを失わぬまま、その運命を受け入れる覚悟の光だった。


「任せとけ。お前の誇りは俺が引き受ける」


踏み込む。

スローモーションのように世界が伸びる。

弱点誘導モードが炸裂し、視界に赤く輝く一点が浮かび上がった。


「一刀両断――和泉一文字!」


刃が閃き、飛竜の首を薙ぎ払う。

巨体がぐらりと揺れ、轟音とともに地に沈んだ。


――《飛竜・一番手を討伐しました》

――《経験値+3500》

――《累計経験値:35,000》


刃を払って鞘に収めると、背後でフィリーネが腕を組んで鼻を鳴らした。

「……アンタ、やけにカッコつけるじゃない」


リリナはぱあっと目を輝かせ、もふもふ尻尾をぶんぶん振る。

「にすけ、すごい! リリナの光も役に立ったよね!」


クロフィードは外套の奥で、何やら含み笑いを浮かべていた。

「フッ……美学か。やはり見ていて飽きぬ」


俺は剣を掲げ、次に旋回する飛竜たちを睨んだ。

「さあ、二番手はどいつだ?」



二番手の飛竜は翼の付け根が弱点だった。

リリナの閃光が目を奪い、クロフィードの影牢で縛り、フィリーネの矢が翼を裂き、俺の刃で止めを刺す。


三番手は脚ではなく首元の鱗の隙間。

四番手は尻尾の付け根。

それぞれ違う箇所を突かれ、だが俺たちの連携の前には抗えず、倒れていった。


――四体討伐。


――《飛竜・二〜四番手を討伐しました》

――《経験値+3500+3500+3500》

――《累計経験値:45500》


血と砂塵に包まれた戦場で、残るはただ一頭。

群れの最後の一頭は、大きく翼を広げ、仲間の亡骸を睨みつけた。


その瞬間――


――《飛竜群のルール発動》

――《最後の一頭に仲間の力が収束》

――《ネームド個体:紅蓮の守護竜〈ヴァルドリス〉が誕生しました》


真紅の炎のような魔力が、死んだ仲間たちの身体から噴き出し、最後の一頭へと吸い込まれていく。

鱗が赤黒く輝き、瞳は血のように燃え盛る。

その体躯は倍近く膨張し、地鳴りのような咆哮が空を震わせた。


「……おいおい、聞いてねぇぞ」

俺は額の汗をぬぐいながら呟く。


フィリーネは弓を構え、険しい顔で吐き捨てる。

「ちょっと、これ……ただの飛竜じゃないわよ!」


リリナは怯えつつも前に出ようとする。

「でも……もう逃げられない……!」


クロフィードは低く笑った。

「フッ……やはり群れの誇りは侮れんな。これが“最後の矜持”か」


俺は和泉一文字を握り直した。

「――ならば、料理人として真っ向から向き合うだけだ。素材は最後にこそ輝くもんだろ?」


燃えるような紅蓮の飛竜ヴァルドリス、こちらを鋭い眼光で見据えている。

さあ、戦いはここからが本番だ。



紅蓮の炎が渦巻く中、俺は口を開いた。

「おい、ヴァルドリスよ!ひとつ、聞きたい事がある……お前たち飛竜は、なぜ稲穂を守る?」


ヴァルドリスの双眸が細められた。

「稲穂――人の言葉ではそう呼ぶか。あれは我らにとって“命の種”だ。飛竜の雛は生まれた時、あの白き穀物を口にすることで力を得る。……稲穂は我らの始まりであり、絶やせぬ守護の象徴」


俺は思わず息を呑んだ。

「なるほど……ただの食い物じゃなく飛竜にとっては...文化であり命の源って事か」


ヴァルドリスの喉奥で低い笑いが響いた。

「その通り。人間よ、だからこそ問う。お前はあの稲を欲している。力を得るためか、飢えを満たすためか? ……それとも、もっと別の理由があるのか?」


俺は迷わず答えた。

「食うためだけじゃねぇ。あれを米にして、人の文化を広げる。誰かの腹を満たし、涙を流させ、笑顔を作るためだ。――俺にとっちゃ、稲は“未来を炊く炎”なんだよ」


ヴァルドリスの目が大きく見開かれる。

炎が少し弱まり、何かを考え込むように視線を落とした。


「……“未来を炊く炎”、か。奇妙な人間よ。だが、その言葉……嫌いではない」


俺は和泉一文字を握り直し、真っ直ぐに向き合った。

「だからこそ、譲り合う道を探りたい。稲は奪うんじゃない、分け合うんだ。そうすりゃ、お前たち飛竜の誇りも、人の夢も守れる」


ヴァルドリスは沈黙したまま、俺を見据えていた。



ヴァルドリスはしばし沈黙したのち、燃える双眸を細めた。

「……良いだろう、人の料理人。だが、言葉だけでは誇りは揺るがぬ」


その巨体が影を落とし、稲穂の群生地を振り返る。

「試練を与える。この稲を、お前の言う“和食”とやらで昇華してみせよ。私が満足すれば、稲は人の手に委ねよう。だが……失敗すれば、この地から去れ」


炎のような声が大地を震わせる。

リリナが尻尾を膨らませて怯え、フィリーネは弓を強く握り、クロフィードはフードの奥で笑った。


俺は深呼吸し、和泉一文字を腰に戻す。

「……なるほど、料理人に相応しい試練ってわけか。面白ぇじゃねぇか」


紅蓮の飛竜ヴァルドリスは、試すように牙を覗かせた。

「ならば証明してみせよ。稲はただの穀物ではない……“命”そのものだ。その命をどう調理し、どう未来へ繋ぐのか。見せてもらおう、人間」


焚き火のような息吹が吹き荒れた。

俺は拳を握りしめ、心の中で叫ぶ。


――よし、やってやろうじゃねぇか。


この瞬間、稲穂を巡る新たな戦いが始まった。



次話へ続く――。


〜あとがき〜






【にすけ】

「まさか飛竜と哲学バトルすることになるとはな……料理人やっててよかったぜ」


【フィリーネ】

「よくないわよ! 飛竜相手に“飯は未来を炊く炎”とか言い切るとか、恥ずかしくて隣歩けなかったんだから!」


【リリナ】

「でも……かっこよかったよ! にすけの言葉、リリナのお腹にもじーんって来た!」


【クロフィード】

「フッ……やはり規格外の男。」


【ヴァルドリス】

「人の料理人よ、試練を忘れるな。稲は命、遊びではないのだぞ?」


【群れの飛竜たち】

「……でもちょっと腹減ったぞ」

「俺も和食とやらを食ってみたい……」

「味噌焼きとかいうの、気になる」

「そうだそうだ!」


【にすけ】

「おいおい、急に和食リクエストかよ。……まあ、やってやるさ」


【ヴァルドリス】

「試練の後だ。それまでは耐えよ」


【フィリーネ】

「……アンタ、だんだん飛竜まで弟子にしていってない?」


【にすけ】

「いやいや、まだだ。これからだろ」


【リリナ】

「じゃあ、次はリリナも一緒に試練ごはん作る!」


【クロフィード】

「……やはり見ていて飽きぬ――」




◆次回予告◆


【女神】

「はい、はぁーい!さあ、いよいよ“稲穂の試練”! 和食無双、ついに白米炊き上げチャレンジです!

お釜? 土鍋? はたまた変幻自在鍋!? 答えは次回、ぜーったい見逃さないでね♡」


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