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『異世界迷宮は和食のあとで』―その男の料理、食えば無双―  作者: 二天堂 昔
第一章『迷宮攻略は和食のあとで』

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第20話『紅蓮の守護竜ヴァルドラ―灼熱ブレスVS絶対防御領域』


草原は延々と広がり、風に揺れる草の音だけが耳を打つ。

だが次第に、空気が変わっていった。

風の匂いが鉄臭く、重くなり、やがて地面に巨大な爪痕が刻まれているのが見えた。


「……これは……」

クロフィードが膝を折り、爪痕をなぞる。

「竜種のものだ。しかも群れではなく、単体の王級……飛竜の主だろう」


リリナは耳と尻尾をぴんと立て、きょろきょろと辺りを見回す。

「なんか……空気、ビリビリしてる……」


フィリーネは弓を構え、吐息を整える。

「来る……」


 


次の瞬間、偽りの太陽を切り裂く影があった。

黄金の光を背負い、巨大な翼を広げた飛竜が、平原の彼方から舞い降りてきた。

全長十メートルを超える巨体。

鋭い双眸が、草原の侵入者である俺たちを真っ直ぐ射抜いた。


「……とうとうお出ましか」

俺は和泉一文字を握り直し、胸の奥で高鳴る鼓動を抑える。


――その足元には、風に揺れる黄金色の穂が群生していた。


「にすけ……!」

フィリーネが息を呑む。


「お米……! リリナ見つけたよ!」

リリナが目を輝かせる。


クロフィードは低く笑った。

「……なるほど。“稲穂の守護者”とは、よくできた話だ」


俺は稲穂を見据え、唇を引き結んだ。

「飛竜が守る稲穂……これを手に入れなきゃ、和食は完成しねぇ」


風が凪ぎ、巨竜の咆哮が草原を震わせた。

いよいよ、本番だ。



「魔力アップのバフはまだ残ってる! だから今は魔法中心で攻めろ!」

俺の声が草原に響く。




空を覆う影。

翼を広げれば十数メートル、黒鉄の鱗を纏う巨体が平原を震わせて降り立った。

その瞳は知性を宿し、ただの獣ではないことを告げていた。


その瞬間、俺の脳裏に“あの声”が響き渡る。


――《分析モード起動》

――《対象:ネームド飛竜〈紅蓮のヴァルドラ〉》

――《ランク:A+》

――《特性:鱗は高硬度、通常攻撃は無効化される可能性大》

――《弱点部位:翼膜/眼球/口腔内部》

――《特記事項:炎属性・超高熱ブレスを所持。発動直前に喉部が赤熱化》


「……ヴァルドラ、だと……?」

俺は息を呑んだ。ギルドの噂話で聞いた、迷宮の奥に伝わる名だ。

稲穂を守るのが伝説の“守護竜”だとはな。

まさかこんなところで本物と遭遇するとは。


「全員聞け! 狙いは翼と眼! 喉が光ったら全力で退避だ!」


フィリーネが弓を構え、ツンとした横顔に緊張の色を宿す。

リリナは尻尾をばふんと膨らませながら、光を宿したミスリルレイピアを握りしめた。

クロフィードは外套の奥で笑いを漏らす。

「ほう……ネームドとはな。料理人よ、これは見物だな」


「グゴォオオオオオ......!!」

紅蓮のヴァルドラが天を裂く咆哮を放ち、平原の空気を震わせた。

熱気と威圧が押し寄せる中、俺たちは覚悟を決める。


伝説の飛竜との死闘が、いま始まる――。



 


紅蓮のヴァルドラが咆哮を上げた瞬間、地面が震えた。

俺たちは即座に動く。


「リリナ、いけっ!」


「リリナフラッシュ改!」

まばゆい閃光が弾け、巨竜の双眸を射抜く。ヴァルドラが一瞬だけ首を振り、動きが鈍る。


「ここだ!――影牢!」

クロフィードの呪詛が地面から影を伸ばし、巨竜の巨体を縛り上げた。鉄のような鱗の隙間を黒い鎖が絡め取る。


「今だ!」

フィリーネの風纏い弓矢が放たれ、空気を裂いて翼膜へ突き刺さる。鋼鉄じみた肉を貫通し、紅蓮の竜翼が大きく裂けた。


「こっちもいくぜ!」

俺は和泉一文字を握りしめ、深く息を吸う。

「新技――水月一閃!」

刃に水流を纏わせ、竜の左脚へと滑るように斬り込んだ。

鱗の硬さを超え、鮮血が飛び散る。


「グォォォォォッ!」

ヴァルドラが怒り狂ったように首を仰け反らせた。喉奥が赤熱し、炎が渦を巻く。


「ブレスが来る! 退け!」

俺の声に全員がクロフィードの背後へ飛び込む。


「絶対防御領域!」

漆黒の盾を掲げ、結界が展開される。だが灼熱の奔流は結界を押し潰し、焼き焦がそうと迫った。


「クッ、熱まで防ぎきれん……ッ!」

クロフィードが苦悶の声を上げる。


「なら、これでどうだ!」

俺は両手をかざし水魔法を展開。

水の幕を結界に重ね合わせ、瞬間的に蒸気が立ち昇る。


炎と水が激突し、凄まじい轟音と白煙が広がった。

やがて熱風はかき消え、俺たちは無傷のまま立っていた。


「……よし、防げたな」

俺は肩で息をしながら仲間に頷いた。


フィリーネはわずかに赤くなった頬を隠しながら言う。

「……べ、別に! アンタの水魔法にあんな使い方もあるんだ、って関心なんかしてないわ! でも全員無事なら何よりよ!」


リリナは目を丸くして拍手する。

「にすけ、すごい! 炎まで食い止めちゃうなんて!」


クロフィードは外套の奥で低く笑った。

「……料理人よ。やはり、貴殿の刃は常識を軽々と超えていく……」


戦いはまだ続く。

だが、この瞬間確かに、俺たちは紅蓮のヴァルドラの猛威を凌いだ。凌いだのだ――。




紅蓮のヴァルドラの喉奥から吐き出された炎が掻き消え、竜は一瞬、深く息を吐く。

その巨体が揺らぎ、ほんの数秒――無防備な隙を見せた。


「今だ、リリナ!」


「リリナフラッシュ!」

再び光が弾け、竜の瞳を射抜く。眩さにヴァルドラが身をのけぞらせる。


「影牢、再び!」

クロフィードの影が走り、巨竜の四肢を絡め取った。


「逃がすかよ……!」

俺は和泉一文字を振り下ろし、水を纏わせた刃で残る右脚を切り裂く。

肉を断ち、巨体が一瞬よろめいた。


だがヴァルドラはなおも怒りに燃え、口を大きく開けた。

灼熱のブレスが再び迫ろうとしている。


その瞬間――俺は閃いた。


「フィリーネ! 喉だ、狙え!」


「えっ……!?」


「水と風を合わせる! 俺が水を流し込む、おまえの矢に風を纏わせろ!」


「……っ、わかったわよ!」


俺は両手を突き出し、水流を矢に沿わせるように展開する。

フィリーネが深く息を吸い、風の魔力を矢に重ねた。


「風水融合……撃ち抜けぇっ!」


風と水が融合し、矢は光の矢じりのように輝きながら放たれた。

凄まじい速さで空気を裂き、灼熱のブレスが噴き出す寸前の喉を、寸分違わず貫いた。


「グォォォォォォォォッ!!!」


紅蓮のヴァルドラの咆哮が悲鳴へと変わり、炎は途絶える。

喉奥から血飛沫が噴き出し、巨体が痙攣した。


フィリーネは息を荒げ、矢を放った指先を震わせながら俺を睨む。

「べ、別に! アンタの指示がなきゃ撃てなかったわけじゃないんだからっ!」


だがその瞳は、確かにわずかな誇りと喜びを湛えていた。



喉を貫かれたヴァルドラは巨体を仰け反らせ、血を吐きながらもなお炎を纏った。

その双眸には、死を前にした獣の凶暴な輝きが宿っていた。


「グォォォオオオオオ......!!!」


全身の鱗が赤熱化し、砕け散るほどの炎が喉奥から溢れ出そうとする。

仲間たちが息を呑んだその瞬間――


「……来ると思っていたぞ」


クロフィードが漆黒の盾を高々と掲げた。

「――絶対防御領域!」


漆黒の結界が、俺たちをすっぽりと覆うように展開される。

次の瞬間、紅蓮のブレスが大地を焼き裂き、天へと炎柱を吹き上げた。


轟音。

熱波。

灼熱が結界を叩きつける。


だが結界は揺らぐことなく、俺たちはその中で一滴の汗すら無駄にしない。


フィリーネが目を見開いた。

「まさか……アンタ、最初からこうなるってわかってたの!?」


外套の奥でクロフィードは小さく笑った。

「仲間のための盾なら、当然だ」


炎が収まった時、ヴァルドラはもう立ち上がる力を失っていた。

巨体が崩れ落ち、大地を震わせる。


俺は和泉一文字を静かに構え、仲間に頷いた。

「……終わらせるぞ」



炎が消えた大地に、静寂が訪れる。

紅蓮のヴァルドラはもはや動けず、血を吐きながら苦しげに息を繰り返していた。

その巨眼はまだこちらを睨んでいるが、もはや力はない。


俺は深く息を吐き、和泉一文字を静かに抜いた。

「……勝ち方は派手じゃなくていい。最後は静かに締めるのが俺の流儀だ」


ゆっくりと歩み寄り、竜の喉元に剣を当てる。

炎を纏っていた鱗はすでに剥がれ、柔らかい肉が露出していた。


仲間たちは誰一人声を出さず、ただ見守っていた。


俺は一瞬だけ瞼を閉じ、心の中で呟く。

「いい素材になってくれ。お前の命は、必ず誰かの力になる」


和泉一文字が閃き、音もなく喉を裂いた。

ヴァルドラの巨体が小さく痙攣し、そして完全に沈黙した――。


――《討伐完了》

――《経験値 +4000》

――《累計経験値 31500》


脳内に響くアナウンスを聞きながら、俺は刃を静かに拭い、鞘へ収めた。


「ふぅ、……終わったぞ」


フィリーネがふっと息を吐き、ツンとした声で言った。

「……べ、別に安心したわけじゃないけど……ちゃんと皆んなが無事で良かったわ」


リリナは涙目で大きく尻尾を膨らませながら叫ぶ。

「にすけ、かっこよかった!」


クロフィードは外套の奥で深く頷いた。

(……やはり、この男にこそ学べるものがある)


夕陽のような赤光に包まれながら、俺たちは静かに立っていた。

その胸中には――達成感と、次なる試練への覚悟が混ざり合っていた。




夕陽に似た赤光が薄れ、静寂が戻る。

俺は和泉一文字を収め、仲間たちと共に大きく息を吐いた。


だがその胸の奥で、ふと違和感がよぎる。


「……そういえば」

俺は低く呟いた。

「飛竜って、本来は群れで動く、はずだったな」


言葉にした瞬間、仲間たちの表情が固まる。

フィリーネの耳がぴくりと動き、リリナは尻尾をばふんと膨らませる。

クロフィードの双眸が鋭く光った。


遠くの空に、かすかな影がいくつも揺れていた。

風に乗って届く、竜の羽ばたきの残響――。


俺たちは顔を見合わせた。

戦いは終わったのか、それとも……。


静寂を裂くように、冷たい風が頬を撫でた。



次話へ続く――。


〜あとがき〜



にすけ

「ふぅ……ヴァルドラ、でっけぇ図体に似合わず、喉が一番の弱点ってのはなんだか皮肉だな。まぁ魚だって腹ワタに毒があるやつもいるし、見た目じゃわからんもんだ」


フィリーネ

「なによ、あんな大物相手に指示飛ばして的確に仕留めるとか……アンタ、軍師気取りも板についてきたじゃない。……べ、別に褒めてるわけじゃないけど!」


リリナ

「にすけ! 飛竜、大きくてこわかったけど……かっこよかった! リリナ、また一緒にがんばる!」(尻尾ぶんぶん)


クロフィード

「……紅蓮のブレスを絶対防御領域で受けきった俺の偉業はもっと称賛されるべきだと思うのだが。しかも、水属性付与まで重ねられて……あれは芸術だった」


アラン

「はっはっは! おまえら、第五層に入ったと思ったらもう飛竜を屠っただと!? 信じられん……普通なら討伐隊十組でも犠牲が出る相手だぞ。……だが、稲穂のことを考えれば、お前らが切り拓いた道に意味があるのかもしれん」


ヴァルドラ(霊体?)

「……まさか俺様の喉を貫くとはな。ぐぬぬ、見事であったぞ、和食職人よ。だが……俺様は群れの一頭に過ぎぬ。次は……もっと、骨が折れるぞ……」


にすけ

「おっと、まさかのあとがき乱入かよ。しかも不穏な伏線残してくじゃねぇか」


フィリーネ

「な、なんか嫌な予感しかしないわね……」


リリナ

「また大きいの来るの……? リリナ、がんばる!」


クロフィード

「フッ……貴殿が望むなら、群れだろうが軍勢だろうが退けてみせよう」


アラン

「よし、次の一歩が待っているぞ!」



次回予告


女神(乱入)

「はいはーい! 次回は稲穂を巡って新たな試練よ! 襲い来る飛竜の群れ……どうするにすけパーティー!?

次話、『群竜の脅威──挑むべきか退くべきか』お楽しみに〜!」


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