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エピローグ2 ナーロッパその後、そして語り部の正体

~ ゲルマー共和国の、ある大学の一室。乱雑に書籍や書類が積み重なった書斎のソファーに、語り部と聴き手が向かい合っている~


 やあ、ずいぶん長いお話で、幾晩もかかってしまいました。お疲れ様でした。

 エリトニー興亡記の第4章「帰ってきた双子の英雄。セシルとアロイス」 いかがでしたか?

 第3章「悲劇の王妃サラの死と、メラニー王妃の誕生」は、わずか数か月の間に城内で起きた痛ましい悲劇を描いたものでしたが、この第4章は、一転して、ウォレム王の晩年から、それに続くエリトニー公国の滅亡、そして15年後にセシルとアロイスによって引き起こされた独立戦争の顛末が記された物語でした。


 今日は最後に、小さな英雄アロイスの死後、ナーロッパがどのような変遷をたどったのか、第5章「英雄の死と、ナーロッパに吹き荒れた嵐」を、かいつまんでお話しましょう。今が1502年ですから、約50年前のお話になりますよ。


******


 アロイスの最後は、先程お話したとおりです。彼は大国相手に奮戦したものの、独立を達成することまではできず、クーデター後わずか2年で没してしまいました。

 そのため、正式には王にはなっておらず、本来は「アロイスの乱」ともいうべき出来事でしたが、その短い期間に放った光があまりにまばゆく、鮮烈であったため、ナーロッパの誰からも「アロイス王」と称され、またステラも「王妃」とされています。

 

 アロイスは、城の中にホランド兵とゲルンハルト王を閉じ込め、もろともに散華したわけですが、これはエリトニーの軍や街への被害を最小限に留め、きたるべき再起の時に備えた、戦略的な痛打であったと言えます。それは、彼の思惑通り、ゲルンハルトという柱を失ったホランドに、統制の利かない混乱をもたらすことになったのです。


 確かにゲルンハルトは横暴で独善的な人物ではありましたが、権力の頂点に立つに足る実力もまた備えていました。是非の点は措くとしても、支配と被支配という関係は、割合強固で安定しているものです。この、衰え行くホランドを繋ぎとめていたタガが外れたことにより、ホランド城内では、すぐに跡目争いが勃発しました。

 大本命は、民主化勢力をバックにしたゲルンハルトの兄でしたが、これと対立するゲルンハルトの息子2人が、王庁と政庁内で派閥を形成し、ことあるごとに衝突し、国政に混乱と停滞がもたらされます。

 そのため、ホランドは、せっかくアロイスの反乱を収めたにも関わらず、エリトニーを安定して統治することが困難になってしまい、クレマン大臣を暫定の総督に任命し、講和交渉で出た条件、すなわち「年間5000億ゴールドを送ること」を約させて、当面の自治を認めたのです。


 このような本国の混乱を嫌ったリクソンは、ホランド軍をエレーナ峠から帰国させたあと、密かにゲルマーに亡命し、クラウスによって軍事顧問に採用されました。このほか、ゲルマーにはセシルやミシェルらも亡命していましたが、ホランドはそれを知りつつ追跡する力すら残っていなかったのです。

 また、スロベニーも、約定を交わしたゲルンハルトの死によって、「ポルコと鉱山を含むエリトニーの3分の1を割譲する」という約束を反故にされてしまい、納得がいかずに、密かにゲルマーとエリトニーに詫びを入れ、「またお味方したい」と申し入れてきました。エリトニー国民は、首都防衛を放棄して、間接的にアロイス王の死を招いたスロベニーを許しがたく思っていましたが、クレマンから「真の敵はホランド。今は力を合わせるべき」と説得され、渋々ながらこれを受け入れました。


******

 

 しかし、ホランド国内の対立はいつまでも収まらず、政治と経済は停滞して国民生活も困窮し、ついにはゲルンハルトの息子2人がそれぞれ兵を連れて第二、第三の都市に立て籠もり、分離独立を宣言するに至ったのです。こうして、ついに大国ホランドは3つに分裂し、三つ巴の内戦に突入していきました。


 もちろん、エリトニーの資金援助をバックにした王の兄は有利な立場にあり、大軍を二手に分けて攻め入り、長い激戦の末、それぞれの王子を撃破して、ようやく内戦を収めます。しかしながら、費やした戦費は膨大な額に上り、また死者の補償などもあって、人的経済的損耗がとても大きく、もはや国全体がガタガタの「死に体」になってしまいました。

 


******


 これを虎視眈々と狙っていた超大国ゲルマーが、満を持して動き出します。

 時のゲルマー大統領が呼び掛け、スロベニー、エリトニー、マケドニーと連合を組み、「東ナーロッパに安寧をもたらす」との名目で、ホランドに宣戦を布告したのです。

 この、対ホランド戦争では、クラウス大将軍とリクソン軍師がスロベニーとの連合軍10万を率いてスロベニーの陸路から、セシル、イワン、ジョナタンが率いる5万のエリトニー軍が再びエレーナ峠から、ミシェルとアランが率いる3万のマケドニー軍が陸路で、三方から同時にホランドに攻め入ったのです。


 その戦闘の中でも、エリトニー軍の勇ましい戦いぶりが光りました。

 セシルは、「ブラックローズ」隊長のステファンとともに新型ライフル「セシル・スペシャル」を駆使し、対ホランド戦を通じて100人以上の将校を狙撃し、葬り去り、「黒髪の死神」と呼ばれて恐れられました。全く目が届かない遠方から、一方的に狙撃され命を奪われるのですから、死神にしか見えなかったことでしょう。

 イワンも、時にはロングボウで、時にはヘラクレス軍団を率いてホランド軍を恐怖に陥れ、ジョナタンも馬上で長槍を操り、広い戦場を颯爽と駆け抜けました。


 これに対し、国土も荒廃し、人材も払底したホランドは、殆ど組織的な抵抗はできませんでした。単発的に戦闘になっても、兵士の士気が全く上がらず、さしたる抵抗もなく投降してしまうような戦いが続きました。もはや国民も、王政には見切りをつけ、ゲルマーのような自由な民主国家を望んでいたのです。


 そして、約1年の戦いを経て、連合軍がホランドの首都に攻め入り、王の兄も「もはやこれまで」と諦め、王族の助命を条件に全軍が降伏し、ここに、250年にわたって続いてきた、大国ホランドの歴史が幕を閉じたのです。

 もともと王の兄はそれほど野心的でなかったのと(だからゲルンハルトに王位を譲ったわけです)、彼を担いでいたのが市井の民主勢力であったため、王政を廃止してホランドに政権を委譲することに、さして抵抗はありませんでした。

 それと合わせ、エリトニー以下の3国においても国民投票を実施した結果、東ナーロッパ4国がそのままゲルマー共和国の傘下に入り、「ゲルマー共和国連邦」の一州として、広範な自治権を与えられて存続することになりました。東ナーロッパ全体が、中世騎士道的な世界観を脱し、近代的なフェーズへと移行したのです。


 そして、エリトニーの初代総督にはセシル、マケドニーの総督にはミシェルが、それぞれ就任しました。

 また、東ナーロッパ統一の功績を認められ、副大統領だったクラウスは、代替わりして正式にゲルマーの大統領に、平軍師だったリクソンも大元帥に昇進しました。


 こうして、アロイス王の死から約6年を経て、ナーロッパは平和な安定期に入り、以後長く共存共栄を続けることになりました。

 アロイスが自ら犠牲となってゲルンハルトを葬り去ったことが、ナーロッパに激動の嵐をもたらし、ついには大国ホランドを沈めたのです。  

 ホランドにとっては、幼少時の「双子の英雄」を取り逃したことが、長い時間を経て、痛恨の一大事を招いたと言えるでしょう。


******


 駆け足でしたが、これが、エリトニー興亡記の第5章「英雄の死と、ナーロッパに吹き荒れた嵐」です。興亡記はこれが終章で、このあとは年表がついているだけですね。


 え? 主要人物のその後が知りたい? ああ、確かに、長いこと熱心に聞いて下さいましたから、そう思われるのも当然でしょう。


 では、まずクレマン大臣ですが、セシル総督の統治を支えた後、州内が安定したのを確認して、10年後の75歳で勇退しました。ですが、長く大臣として活躍してきた人ですから、仕事を止めたとたん調子が狂ったのか身体を壊し、その2年後に病没しています。ただ、満足そうな穏やかな最期だったと伝わっています。


 クラウス大統領は、5期20年の長期政権を築き、ゲルマー共和国連邦をさらに発展させました。彼は、軍事に関してはアロイスやリクソンには一歩及びませんでしたが、政治家としてトータルに見た場合には、バランスに優れた非常に有能な人物であったと言えるでしょう。勇退の5年後、78歳で病没しています。なお、セシルの娘であるステラ(同名にしました)が、クラウスの長男と結婚し、大統領の代替わりを経て、現在のファーストレディになっています。


 リクソン大元帥は、83歳になりましたが、まだ存命です。彼は、平和な世になってからは、軍事の研究にいそしみ、彼があらわした全5巻に渡る「ナーロッパ近代戦術論」は、現在でも軍事学校のバイブルとして愛読されています。結局、彼とアロイス王が真正面からぶつかることはなかったわけですが、仮に対戦したら果たしてどちらに軍配が上がったのか、今でも研究者の間で盛んに議論が交わされています。彼は、息子さんにも同じ「リクソン」という名をつけて、息子さんもゲルマーの軍事顧問になりましたね。


 イワン、ジョナタン、ステファンもまだ存命です。三人ともエリトニーで結婚し、家族を作り、現在は軍人年金で穏やかな余生を送っているようです。時々、エリトニーの酒場に集まって、武勇伝を肴に痛飲しているようですよ(笑)。


 カンネイとベラについては、情報がありません。クラウス大統領が、ナーロッパ統一戦でも大活躍した二人を、ホランド軍の諜報部隊長に推薦したのですが、「そんなの嫌なこった。俺たちには宮仕えなんて向かないぜ!」と軽口を叩いて、二人でまた山賊に戻った言われています。


 そして最後にセシルですが、まだ存命です。今年72歳になりました。少し白髪が混じりましたが、相変わらず黒髪色白の美人ですよ。強く、そして優しく、エリトニー中の女性が、一心に「ああなりたい」とあこがれる存在です。40年の長きにわたって総督を務めあげ、66歳の時に惜しまれつつ勇退しました。今は港近くの丘に居を構え、夫のミシェルと共に穏やかに暮らしています。孫にも恵まれ、元気ですから、まだまだ長生きすることでしょう。


*******


 え? セシルの長男の事が聞きたい? あなたもよくご存じでしょうに(笑)。

 セシルの長男アロイスが少年になった頃には、すでにナーロッパは平和になっていましたから、軍事にも政治にも関わることはありませんでした。ですが、10歳の時に、セシルの勧めで、ゲルマーのランドルフ私塾(ランドルフ先生は既に亡くなっていました)に留学し、そのままゲルマーで歴史の研究者になっています。今日までお話してきた、エリトニー興亡記の編纂にも主筆として深く関わっています。


~ 聴き手が、先程から、右手のデスクの上にあるナイフをじっと見つめている ~


 おや、気が付かれましたか(笑)。

 立派なペーパーナイフでしょう? ご覧になりますか、どうぞ。


 そう、お話の中でたびたび出てきた、柄に青いサファイアの入った、伝説の初代エタンが打ったダガー、「エタンのサファイア」です。もう、平和な時代になったので、使いどころがないんですけどね(笑)。


 だから、今はただ、時代を駆け抜けた英雄たちに思いを馳せて、この穏やかで豊かなナーロッパを謳歌しようじゃありませんか。


 ……さあ、ずいぶん遅くまで引き留めてしまいました。今日はこのくらいにしましょう。まだ話していない細かいエピソードもありますから、また機会があればお話して差し上げますよ。


~ 語り部が戸口まで案内して、ドアを開けて見送る ~


 おやすみなさい。リクソンさん。


 そして、お父様のリクソン名誉元帥にも宜しくお伝え下さい。


「我々は、あなたや、我が叔父アロイスが戦って勝ち取った平和の中で、幸せに暮らしています。道を切り拓いてくれてありがとう」と。



 

  エリトニー興亡記 ~美しき王妃の血脈と、駆け抜けた赤と青の双星~ (了)



挿絵(By みてみん)


 読者の皆様。34万字の大長編の読了ありがとうございました。

 なろうさんでは、あまり読まれなかった印象ではありますが、毎日、熱心な読者の方が5~6名くらい、読んで下さっていたようです。大変ありがとうございました。

 それにしても、本作は感想やレビューを全く頂けておらず、読者様がどうお感じになっておられるのかが分かりませんので、読み終えた後の感想など頂けると、大変に嬉しいです。

 

 最後になりましたが、皆さま、長い間、本当にありがとうございました!

 


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