夏休みの会話の続き 人形へお仕置き編
今度は向かいのビルの、より近い部屋のようだ。
思わず、人形に駆け寄るシロン、その前に慌てて立ち塞がる「男」。
「分かりました」
何か言いかけるシロン、そしてママ。
両手を大きく広げて二人を制する。
「どうすればいいんですか?」
既に暗く沈んだ夜の街に、消防車やパトカーのけたたましいサイレンが響いてくる。
それをものともせずに、人形は懐から小さく畳んだ紙を取り出し、ぽい、と前に放る。
「その地図の場所に、今夜午前零時に来るのです」
無表情なのに、にたりと笑う雰囲気の人形。
「そこで、選ばせて差し上げますわ」
「死ぬか…」
「殺されるかを!」
「おほほ…」
高笑いしかける人形。
しかしその前にぐい、と顔を突き出すシロン。
「オバはん!」
「いーかげんにしろよ!!」
「オバは…?!」
一瞬の絶句ののちの、冷たい言葉。
「ふん、貴方如きが、何もできないくせに!」
「負け『犬』の遠吠えでもお聞かせなさいな?」
怒るかと思えば、変な笑顔で返す。
「ふーん、聞きたい?」
「んじゃ、たっぷりと聞けえっ!」
シロンは人形の耳の辺りにスマホを押し当てる。
ピピピピピー!
いきなりの大音量のアラーム音!!
「―ぐおっ!」
絶叫し飛び退る人形。
「な、何をす…!」
その人形の目の前に今度は部屋備え付けの懐中電灯をかざすシロン。
―ピカァッ!
「―ま、眩し!」
更に後ずさる人形。
「きさま、殺す!、コロ…」
叫ぶ、が、しかしもう後は無かった。
テーブルから後ろ向きに転げ落ちる人形ー。
ぱきゃっ…
案外マヌケな音の後、首が折れ転がり…、沈黙する。
ちょっと肩で息をするシロン、そして「男」とママを見やる。
「あ、えへへ、やっちったぁ…」
頭をかき、ペロ、と舌を出す。
「あんま、ハラ立ってさー、つい…」
「いや、いいんですよ、私もちょっとスッ、としました」
笑顔の「男」。
「でも、アイツ、怒ってんだろうナー」 思案顔の犬神娘。
「いまさら、でしょ?」ニヤリと笑う。
「死ねとか、殺すなんて向こうが言ってるんですから、お互い様ですよ」
「そうじゃ、あやつが何を思おうが関係ない」
「かかってくるそいつを返り討ちにするまでじゃ」
ぐっ、と拳を突き上げるママ。
「わー、さすが姉御、カッコいー」
拍手のシロン。
「では、あの『オバハン』をやっつける作戦を頼むぞ」
ぽん、と「男」の肩を叩く。
「そこまで言って、丸投げしますかねえ」
「私は魔法使いか何かですか」
呆れかえる「男」。
「勿体ぶる事は無い、有るんじゃろ、策が?」
訊くママ、にあっさりと答える。
「まあ、有りますけどね」
「おほほ、やはりわらわが見込んだだけの事はある!」
派手に「男」の顔を掴み…
ぶちゅうーっ、
…堂々と口付けする。
「へー、あーやるのか」
横で感心したようにうなづくシロン。
「コホン、言っておきますがシロンさん」
さすがにうろたえつつ言う。
「…これはあくまでも世間的には『レアケース』ですからね」
「それに言っておきますが…」 口ごもる「男」。
「策、なんてものじゃなく、まあ、歩の悪い賭けでしかないんですが?」
「うん?、もちろん乗るに決まっておるではないか!」
熱く言うママ。
「何しろ、愛するお主が立てた策じゃ、この身を賭けずして、何とする?!」
「…ママ!」 感動している「男」。
「じゃが」
「…いざとなればお主を放って、先に逃げ出して…」
冷たく言うママ。
「…後で、涙の一つでも流して、ちゃんと弔ってやるゆえ、安心せい、ほほほっ」
「ママ…」 がっかりしている「男」。
「ナルホド、あーやるのか」
横で納得したようにつぶやくシロン。




