夏休みの会話の続き 「人形結界」編
「ひと通り惚気話も終わったようやのう」
茶をゆっくりと飲み干し、ぼそりと言う翁。
「言っておくが、そんな事は―!」
狐耳を押しとどめる「男」。
「ママ、もう止めましょうよ」
「相手の思うつぼ、ですよ」
まだ何か言いたげだったママは仕方の無いように口を閉じる。
「すんまへんな」軽く頭を下げる。
「今のようにちょっとでも座を和ませんと…」
「とてもこれからの、重い話は続けられんでな」ぎょっとするような言い草。
「言うておくが、わしが知っている事は『京終 冥子』の全てではもちろん、無い」
三人を見回して言う。
「わしはあれを見かけた事もなく、ましてや会った事すら無い、」
「間接の知り合いさえまったく居らん」
少し俯いてしまう翁。
「ただ、あれが話したことのある事、巷の噂話など、世間が知っているより少し…」
「そんなものを知っているに過ぎんのや」
「ありがとうございます、それで十分です」
「男」も軽く頭を下げる。
「翁様の存じ置きをお聞かせください」
「『京終 冥子』のあまりに異常な悪名―」
「なにゆえ、人形遣いの彼女がそんなに恐れられているのやろか?」
笑うしかない、と言いたげな微妙な表情。
「…まず、その『戦歴』を言いまひょか、驚きますで」
「…な、何をやったのです?」身を乗り出す「男」。
「この三十年ほど、分かっているだけで、やが―」ゆっくりと言う。
「『冥子』は、ヤクザの組を四つ、捻りつぶし…」
「暴走族を三つ、全滅させとるのや」
「童人形」が何十人、何百人もの無法者を、打ち倒す?!
…言葉では聞こえても、全くとして想像できない。
居並ぶ三人の口からも、同様な感想が出るしかない。
「―ど、どうやってぇっ?!」
「ちょっと待って、それって、何百人もの人間を地獄送りにしてるって、事ですよ?」
「…一人で、なのかや?!」
翁の言葉。
「…それは『人形 結界』、によると言われとるのや」
顔を見合わせる三人。
無言の見つめ合いの後、おずおずと訊く「男」。
「聞いたこともありませんが、それは体術とか術法、それとも超能力の類なのですか?」
「まことに、非常に、言いにくいが―、無理にまとめて言うとやな…」
腕組みし、考える翁の姿。
「ゲームとかの戦闘に例えると、ちいとは分かりやすいやろか」
「『京終 冥子』は敵に攻められると…」
「何百もの人形を、自分の周囲に何重にも配置する」
皆は、必死に想像する。
「そ、それが『人形 結界』?!」
「何かー、ぜーんぜん大したコト、なさそーなんだケド?」
「言う通り、大したことない構えや」
「数は多いが、あくまで人形や。各々の攻撃はせいぜい棒や刀、弓など…」
「まあ『攻撃力5、HP15』という処か」
「もしや、人形の陣形によっては、特殊な効果が発動するとか、かや?」思いついたように言う狐耳。
「いいや、そんなものは無い」
…なら一体、何がおそろしい?、みんなの疑問は膨らむ一方。
「そして、『冥子』を攻める敵は…、そう『攻撃力100でHP300』が30人としよう」
「敵は次第に、それら何百もの人形を打ち倒していきー」
「遂には彼女本体に迫っていくのや」
「まあ、当然の流れでしょうね」うなづく「男」。
「敵に囲まれ、絶対絶命の『冥子』…」
なぜか額に手を当てる翁。
「その時、それを守るために現れるのが…」
「『攻撃力10000,HP30000のキャラ』、じゃ」
「…え?」
唖然と、するしかない。
「それが敵を全滅させるのや」
「―はああっ?」
ぽかん、とするしかない。
「『京終 冥子』の勝利じゃ」
「ナニソレ?!」
文句をいうしかない。
「それこそが『人形 結界』、なのや」
…言葉では聞こえても、全くとして理解できない。
長い沈黙、その後にシロンが発した言葉が、見事に皆の気持ちを表す。
「き、キモチ悪い、怖い…」




