シロンの夏休みの会話 罠はどこ?編
ばっと、身を躍らせる屋上のフェンスの向こう。すたっ、と着地する。
…はあ、はあ、とさすがのシロンも激しい息が続く。
ふう、と息をつき腰を下ろして、フェンスにもたれ掛かる。
「ああ、いい空…」
見上げる白い雲が、何かの形に思える。
「あー、あの雲、お母さんそっくり…」
しみじみと空を見つめてしまうシロン。
「―お、おおっとぉ、こんな事してるバアイじゃねぇ!」
起き上がり、スマホを取り出す。
「もしもし、姉御?」
言うなりすぐに響くママの声。
『シロン、おぬしまさか古いタワマンの屋上にいるのではないかや?!』
驚くシロン。
「えー、何で分かるのさあっ」
『何でかウチの奴が、そこは罠が仕掛けられてるって、うるさいのじゃ』
『のう、そこら、何か怪しい所がないかや?』
「…ワナ、怪しいトコロ?」
屋上を見渡すシロン。
タワマンの屋上なんてどんなだか知らないが、もう十数年は経っているくすんで汚れた景色。
古びたフェンスや、何かの用具らしいクレーンのような器具、下への出入り口らしい扉…
みんな等しく古びていて、新しく目を引くものはない。
どう見ても、ありきたりの屋上だ。
「べ、別に怪しいトコは見えねー、ケド?」
『分かった、十分もかからぬ、すぐに行くによって待っておりゃ!』
声が途切れる。
「こんな思いついて駆け込んだトコに、ワナなんて?」首を傾げるシロン。
その時…
…ウイィィーン、シロンの鋭い耳は異様な音を認める。
キョロキョロ、と見渡す。
それはクレーンのような二つのアームのような器具の方から響いてくるようだ。
「なんだ、コレ?」
そこに歩み寄り、フェンスの向こうを見やると…
二つのアームから下に延びるワイヤが、モーターで巻き上がっている。
フェンスに取り付き下を見る。
その先には…、おそらく窓拭き用なのだろう。
いかにも古めかしいタイプの、大きな灰色のゴンドラがせり上がってくる。
乗っている男の頭には―
そう明らかな狼耳、『狼牙』だ!
「―これがワナ、かあっ?!」
叫ぶ間に、もうすぐそこまで迫ってきている!
周囲を見回すシロン。クレーンのそばのスイッチ、その赤いボタンをあわてて押す。
―ガクン!
停まるゴンドラ。見上げる狼耳。
1mちょっとの斜め下、フェンス越しに『狼牙』に向かって言う。
「こんなトコに誘い出して、アタシの不意を突こうってか?!」
「ざーんねん、でしたっ」
「アンタの企み、みーんな分かってるって!」
うつむく狼耳、その肩が小刻みに震えている。
「なんだよ、そんなに悔し…」
いや違う、よく見ると…
「…く、くく、くくくくっ」
なんと笑っているのだ!
「ここまでうまく行くとはな、さすが『ご主人様だ!』」
訳は分からないが、シロンは言い返す。
「負けおしみぃっ、すぐにみんなが来るよ!」
「そしたら、アンタ捕まっちゃって―」
「本当に何も分かってないな」
「俺の本当の狙いは―」
ゴンドラの影に隠れていた右手が現れる。
「これだ!」
―そこには銃のようなもの!




