二人組との会話 「最終回、清算編」
次第に息が整ってくるのを優雅に待ってから、「男」はスーツの内ポケットから取り出す。
スマホか何かかと思いきや、それは分厚い汚れた手帳だった。
おまけについているのは短い鉛筆、それも先がナイフで削られたような不格好。
男は手帳を開いて鉛筆の先を、舌先でペロリと舐める。
今どき手帳に鉛筆?、しかもそれを舐めるなんて、ほぼ伝説でしか聞いたことが無い。
呆気にとられる二人組に、浴びせかけられる言葉。
「ご苦労様、では今回の事案の一括清算といきましょうか」
「清算だとおっ?!」
「た、助かってねえっ!!」
男の指先が手帳をめくる。
「まず…」
ゴクリ、二人組の喉が鳴る。
「高級プリン代、4500円」
理解できるまでの必要量、十四秒ほどの沈黙、のあと―
「なんだその明細はっ!」
「ふざけてんのか?」
ちらとナナメに見る男の視線。
「おやあ?、誘拐という犯罪の事実を、この程度で手打ちして収めようという、当事者からの親切心がわかりませんかねえ」
「…う、ぐうっ」
いわゆる『ぐう』の音も出ない二人。しかし実際は出ている矛盾は置いておこう。
「母子の分二つで4500円なのか、高いな」
「三つですよ、私の分も含めてね」
「お前も食うんかい!」
戻ってきた二人のツッコミ。
「そして何よりもプロテクトスーツ代金、15億6千万円」
「げぇえっ」
(ま、このまま回収するんでアンタらの負担はほとんど無いんですが。おまけに大気圏突入データ取得の報酬がありますからね、今回は大黒字ですよ、ふふ)
「つまり今回はあなた方には15億6千万とんで4500円お支払いいただきます」
二人は固まる。いやまだ恥ずかしいポーズのままだった。
「ああ、ちなみにあなた方のこれまでの借金や負債は、だいたい120万程でしたが、はははっ、大幅アップしましたね」
二人にはもう笑う気力もなかった。
「ご心配なく、私なら効率の良い返済方法を紹介できますよ、それも二つも…」
「な、なにっ」
「本当なのか?」
「もちろん!」
胸を叩く男―、しかし二人の脳裏に過る記憶!
…そうだ、コイツ全く信用できないんだった!
しかし目の前のこの男の話を聞く以外の選択肢は、恥ずかしいポーズを続ける二人にはある筈もなかった。
「まず私があなた方を、時給一万円で雇うパターン!」
「じ、時給、いちまんえんん―っ?!」一瞬輝く二人の表情。
「それなら一日16時間労働で…」
「は?」
「どんなブラックだよ!」
「26.7年で返済可能!、スゴイでしょ?!」ビシッと指をさす。
「待てい!、食費に保険、福利厚生モロモロはどうなる?」
「ちぇっ、賢い労働者は嫌いですね」、一瞬顔を背けるが…
「―でも、もう一つのパターンはぁ!」さらにビシッと指をさす。
「懲りねぇなあ、この暗黒経営者!!」
「高収入のモニタリングをご紹介しましょうっ」
一瞬輝く二人の表情、しかしまたもや―
「それってこの『大気圏突入』みたいなことをしろってんじゃ―?」
「おおっ、賢い労働者は大好きですよ」
やっぱりそっちか―!
「えーと、今来ている案件は…」
鉛筆の先をなめ、男の指先が手帳をめくる。
そのギャグ、分かるのは人口の1%以下だぞ、という二人の内心の叫びをよそに…
「火口の中も歩ける対マグマスーツ、と」
「音速を突破できる飛行スーツ」、ですね!
コイツの辞書には「人権」という文字はないのか、二人には乾いた笑いしか浮かばない。
「では、どちらを―」
「なんだよ、どっちか選ばないといけないのか?」
二人の問いに、嬉しそうな男の表情。
「いえ、どちらを先にするのかですよ」
「両方やるんかーい!!!」




