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怪しい客との会話

ママの店。

カウンターに、よく見るあのにやけた顔は、ない。

思い返せば、あの男とて毎日来ているわけではなかった。定休日を考えても、週に三~五回、それ以外は何をしているのかは知らない。

まあ、今までの事から、表に出来ない怪しいことを生業にしているのは陽を見るより明らかだ。


ママは首を振る、居ようがいまいが、なんか心に引っかかるアイツ、

ああ、何だか今日は気が乗らないなあ、時間は早いが店じまい―、

とママが立ち上がりかけた時、カラン、と音がして扉が開く。


入ってきたのはスーツ姿の痩せぎすの老人、いやそう思えたのは顔の輪郭が白ひげで覆われていたから。

ひげに加え、鼻の下が長く、いかにも上唇が前に突き出している印象。いわゆる「猿顔」だ。

赤ら顔が一層その印象を深める。


「いらっしゃいませ」

「サングリアあるかね」

「こちらでいかがかしら」

「ああそれをロックでくれんか」

「…はいどうぞ」


「…お久しぶりね」

「何かの間違いじゃろう、この店は初めて来る」

「会うのが、よ。…アナタ『玃猿(カクエン)』でしょ」


「ほほ、やっぱり古狐じゃな」

「『古』、は余計よ」


「まあ、話したことは無かったけどね。たしか『巫支祁(フシキ)』とかいう猿妖の親玉の部下だったかな?」

「『齊天大聖(せいてんたいせい)』様だ」


「ああ、そうそう…、千年くらい前、天宮いや、ホントは王宮を騒がせたんだっけ?」

「…過ぎた話だ」


カラン、と鳴る赤い酒のロック。


「サングリアは『猿酒』に似ているのかしら?」

「すっきりと甘みがあり香味はかぐわしいが、フン、如何にも軟弱なヒトの酒じゃな」

「厳しいのね」

「生木の匂いと僅かな程よい腐臭、それが無ければ猿酒とは言えぬ」

「まあ、好みはそれぞれだけど、マニアックすぎ…」


「あの時は、本当に『猿』の国が作れるものと、信じ熱狂していたが…」

ドン、と音を立ててグラスを置く毛深い手。

「…結局その後、人以外のモノや妖は、駆逐され、あの国は、あの大陸は『人だけのモノ』に成り下がった!」


一瞬うつむく猿顔、しかし顔を上げるその眼が、妖しい光を帯びる。


「だが、やっと人の世をくつがえせる時が、来ようとしている」

「我々は、人を超える力を持ち、人を支配するのだ!」


「やめときなよ、大陸の、あの国はもう神も霊も必要としない…、乾ききった土地じゃないの」


「…だが、だがっ! 我らはまだ生きている、生きているんだあっ!」

立ち上がる姿、しかし叫んだことを恥じるように、ストンと腰を下ろす。


「…済まない、愚痴だったな」

「はは、いいよそういう事もあるって」


白ひげの老人とおぼしき彼は、スーツの内ポケットから、豪華で派手な純金らしい首飾りを出して示す。

「なあママ、愚痴のお礼だ、このネックレス受け取ってくれないか」

「ええ、いいの?」

「もちろん、さあ首に掛けてあげるから、後ろを向いてくれないか」


後ろを向くママ、老人はそのネックレスを首にかける―、その前に、さっと右ポケットから何かを取り出しそれをその首に掛ける。

それはボロボロの鎖を継ぎ合わせたような円環だったが、いきなりママの動きがぴたりと止まる。

「…ち、ちょ、何よ、コレッ!、首から下の、力が―」

がくり、とママの膝が落ちその場にへたりこむ。


「『顕聖二郎真君(けんせいじろうしんくん)』の『縛妖鎖(ばくようさ)』だ」

かの孫悟空さえも捕らえたという、伝説の武神―『二郎真君』

「…ば、馬鹿な、そんなもの今のこの世に在る筈が―」


「ああ、本物の欠片を探すだけで、数百年、そして何十億いや何百億の金がかかったさ」

「そのために、そのためだけに非道を続けてきた」

「絶滅寸前の希少動物、いや他の妖や、同胞ですら―、密漁し密売し裏世界と繋がり、顔を売って来た」


「おかしいんじゃないアンタ、もう何のために何をやってんのかも、分からないの?!」

「そんな裏との繋がりだけで、国を支配できるはずが―」


「いいや、我々の切り札は、あんたさ、ママ!」


「な―?!」


「さてと、一緒に来てもらおうか、我々の勢力拡大の力に、いや『生贄いけにえ』になってもらおう!」

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