獣王襲来 【亜人種強制収容所編】 その14
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身体に風をうけて、艶やかな長毛をなびかせているカサンドラ姫。
目をつむりながら、うっとりと宮殿の中庭に吹き込んでくる風の感触を楽しんでいる。
思わず獣王はカサンドラ姫の美しい姿に見とれて、自分の本来の目的を完全に忘れそうになった。
「なぜ、条件の良い縁談を断り続けるのだ」
そう問いただすために姫に謁見したのだ。
「国益のために、国の安定のために、条件の良い相手を選び取るのがあなたの務めでは無いのか?」と。
自分で言いながら、胸糞が悪くて吐きそうになりながらも、獣王はその苦役を果たした。
顔色を長期療養中の病人なみに悪くしながらも、
死後の裁判所で地獄行きが確定した魂魄くらい気分を落ち込ませながらも。
ちゃんと言うべきことを言ったのだ。
獣王の苦々しい忠言の数々
それら全てを何も耳に入らないかのようにスルーしながら風を受けているカサンドラ姫
不意に、こちらを振り向いたかと思うと……………
息がかかるほどの距離まで近づいて来て、真剣な眼差しでこちらを見つめてきた。
自然と上目遣いになる至近距離から、ジィーッとこちらの瞳を覗き込んでくる。
「……………本気で、そう思っているのですか?」
「む……………ぅ……………」
プロレスの世界王者みたいな逞しい巨体が、
小柄なカサンドラ姫に気圧されて思わず一歩後ずさる。
カサンドラ姫は、一歩引いた獣王の懐に二歩踏み込んでさらに近接してくる。
「わたしが、チュエルブの地方武官との縁談を承諾して、あの品性下劣な輩の妻になっても、レオニダス様は耐えられるのですか?」
顔に血液がものすごい勢いで昇っていくのが自分でも分かった。
顔が熱くて仕方がない。
獣王は顔を真っ赤にしながら
「べ、べ、別に…………チュエルブの地方武官などという破廉恥漢を相手にせんでも……………そなたなら良い条件の縁談先など引手あまただろ!!!
亜人種の大公爵や、この国に迫る勢力を誇る東岸の亜人種国の王子など……………そなたに相応しい男はいくらでも他にいる……………」
真剣な眼差しで獣王の顔を覗き込んでいたカサンドラ姫が、
不意に、プッと噴き出して笑いだした。
「分かりやすい人…………ほんっとに分かりやす過ぎ……………
阿保みたいに本音が駄々洩れ……………ぷくくく」
「どういう意味だ!!!?」
カサンドラ姫は、顔を真っ赤にしてる獣王の胸に抱きついた。
そのまま、獣王の胸板に、愛おしげに頬ずりをする。
「…………こ、こんなところを誰かに見られたらどうする?
あらぬ疑いをかけられるぞ?」
カサンドラ姫は、目の座った怖い瞳になりながら顔をあげて
「あらぬ……………?
それ、本気で言っているのですか?」
「いや、その……………」
獣王はこの小柄な獣人族の女性に終始圧倒されっぱなしだった。
《恋においては白帯童貞ヤローだったんですね》
口が悪すぎませんか?SIRI姉。
ただの同盟国の1つであり、
優秀な傭兵集団として派遣されているに過ぎない、東の小国タルパカスの王レオニダス。
世界最大級の亜人種国家カルタゴスの王女であるカサンドラ姫、
同じ王族といっても、この2人の間には天と地ほどの身分差があったのだ。
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後日、レオニダス王の耳にある一報が舞い込んできた。
「カサンドラ姫の結婚相手を決める、亜人種統一武闘大会が開催されるらしいぞ!!!
この大会の優勝者は、晴れて王女様の婿殿として正式に認定されるそうだ。
なんでも、結婚適齢期にあるカルタゴス、その他周辺国家の亜人種男子は、全員、大会への参加を義務付けられているらしい」
いったい……………何を考えているんだカサンドラ姫は……………
獣王がカルタゴスの老家臣たちにそそのかされて忠言に赴いたことによって、
事態は逆に、あらぬ方向に進展してしまったようだ。




