雪の女王の脳内 その34
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びゅぅうううううううううう………………………
猛烈な風の音。
ようやくたどり着いた、【雪の女王の脳内】
そこには、
黒い、黒い、夜の闇を雪にしたような黒い吹雪が吹き荒れている。
覚醒状態のミヤコのシールドに、全開の炎熱結界、二重の強大なシールドの内部にいてさえなお、凍りつきそうな寒さがヒタヒタ侵食してくる。
この寒さは、ただの物理現象とは思えない。
なんとかしてこちらを凍死させようと、陰湿な悪意をもって侵入してくる。人の悪意を黒い氷雪として具現化しているような、壮絶な極寒だった。
「これが、雪の女王の脳内……………?」
《心臓のなかはあんなに温かくて可愛らしい風景だったのに。
頭の中がこれだと、すごく性格の悪そうな感じですね》
いや、性格が悪いヤツのことを『腹黒い』って呼ぶのは聞いた事があるけど、『ド頭が黒い』ってのはあんまり聞かないフレーズだな。
「違うニャ……………これは、本来の【雪の女王の脳内】じゃないニャ。
文献に描かれている景色とあまりに違いすぎるニャ」
ロゼッタはあたりを注意深く見回しながら、首を横に振る。
「どういう事?本来の【雪の女王の脳内】じゃないって」
緊張したリトさんの問いに
「これじゃ…………まるで雪の女王が暗黒面に闇堕ちしてるみたいだニャ。
本来は厳しくも清らかで、高潔な存在のはずなのに」
………………闇堕ち?雪の女王が?
《マサムネさんが体内でさんざん大暴れしたせいかも》
何も言えねぇ。
「もしくは………【病変】……………」
リザリザさんがそうつぶやく。
修道女だけあって、多少の看護経験があるのかも知れない。
妙に説得力があった。
《病変………………なるほど。そういうことですか》
SIRI姉はそう言って1人納得すると
《これは、この黒い雪景色は、もしかすると【癌細胞】》
……………なんだって?
《【雪の女王の脳内】は癌細胞に侵されていると思われます》
ガン…………脳腫瘍ってやつか!!!?
め…………………きょ……………………
めりめり…………めり
不気味な音をたてて、真っ黒い雪原、宇宙の深淵みたいに黒い脳細胞の雪原のあたりから、なにかが立ち上がろうとしていた。
黒い、癌化した脳細胞の一部分、そこが独りでに隆起してくる。
黒い猛吹雪が、その猛烈な勢いをさらに増していく。
ぬぅ………………たぁあああ……………………
脳細胞のなかから立ち上がって来たドス黒い肉腫。
《あれが、癌細胞の本体ですね》
今の俺たちから見ればエベレストみたいな大きさで起立したその肉腫は、
若い女のシルエットをしていた。
黒い粘り気の糸を脳細胞の土壌から引きながら、
上半身だけ身を起こした形の黒い女。
下半身は無い。
上半身だけ、黒い脳細胞の中から生え出ている形だ。
まさしく、女のカタチをした肉腫。
女の姿をした、エベレスト級のサイズをした肉腫が、ハッキリとこちらを振り向いた。
すぅううううう……………………
肉腫の頭部の中で、ゆっくりと瞼が開いていく。
そして、黒い湖面みたいな真っ黒い瞳が現れた。
ばっちり目が合ってしまった。
不気味な肉腫と。
《イエス。フォーリンラブ》




