第十八話
『灯篭流し』それは、死者や先祖様を弔うために行われる、灯篭を海や川に流す日本伝統のお祭りである。
晃明が企画考案し、人間と妖怪が共に楽しめるお祭りとして、このお祭りを開催することに決めたのだった。
「この町も、あれから随分変わったよな。もう何年経ったんだ?」
「妖怪になると、時間の経過を忘れてしまいがちになってしまいますね。約五十年程だと思いますよ。でもこれも、春馬さんも含め、僕らが皆で頑張って来た成果ですから」
川沿いには沢山の屋台が並び、広い河川敷のスペースに建てられたステージには、アンビバレントが激しい音をかき鳴らし、ステージに集まっていたお客さんを大いに楽しませていた。
皆が、思い思いに祭りを楽しんでおり、妖怪も人間も関係なく、沢山の人が笑い合っていた。
「灯篭の準備出来たけど?」
「ありがとう。じゃあ皆も、灯篭を持って川に移動しようか」
細かな作業が得意な河井と雲外が主体となって作ってくれたのは、小さな四角い灯篭。
晃明も灯篭を一つ手に取ると、ペンでメッセージを書き記す。
「それは、一体何を?」
「亡くなった人へのメッセージを書いているんですよ」
「この灯篭があの世に届くのですか?」
「そう言い伝えられているんです」
晃明の隣へとしゃがんだ久門はペンを手に取ると、達筆な字で想いを綴り始めた。
「燈さんに向けて、ですか?」
「はい。あちらでも、変わらぬ笑顔で楽しく過ごして居て欲しいと」
「まさか百目鬼さんが彼女を説得させて成仏させたと聞いた時は、本当にびっくりしましたね」
「急にどうしたのでしょうか?」
晃明は口を噤むと、橋の上で煙草の煙を吐き出しながらサボっていた百目鬼へと、視線を向けた。
愛した人の最後を、ちゃんと見届けることが出来なかった百目鬼は、次こそはきちんと見届けたかったのだと。永遠に生き続けるという辛さを、何百年間も味わって来た彼だからこそ、生まれ変われるチャンスを持っている彼女に対しての、最後の優しさだったのだと、晃明は感じていた。
「今の質問は、無かったことにしておきますね」
察した久門は柔らかな笑みを浮かべると、その場を立ち去って行った。
それと入れ違うように晃明の隣に腰を下ろしたのは、神林であった。
「晃明君のお陰で、この町は変わることが出来た。ありがとう」
「僕の力だけでは無理でした。冬馬さんのこの力があったからこそ、皆さんが協力してくれたからこそ、この町がこんなにも明るくなれたのだと思います」
沈みゆく夕日を見つめながら、晃明は背中から伸びた黒い羽根を大きく広げた。
「妖怪が妖怪として過ごせる町を。人間と妖怪が共に手を取り合い、互いに協力し合える町を。僕は、まだまだこれからも目指し続けます」
「その灯篭に書かれているメッセージが、私宛であると期待して待っているよ」
「届けるよりも先にこちらに来ては、意味が無いじゃないですか」
「あぁ、そうだね。晃明君。これからも、この町を。安全制作部妖怪課をよろしく頼むよ」
神林の声は優しい風に流され、姿と共に消え去ってしまった。
永遠の命を手にした妖怪がやるべき事とは一体何なのだろうか。
それは、いずれ死を迎える人間が、必死にこの世でやろうとしている事の、お手伝いではないのだろうか。
妖怪は邪悪な存在。
そんな古い考えを持つ人間は、この町には居ない。
「晃明! そろそろ時間だぞ!」
「今行くよ!」
僕は、人間の為に生きると決めた妖怪。
僕は、泉晃明。人間と妖怪の懸け橋となる妖怪だ。




