前作主人公の姿か?これが… 前
「……なるほど。光くんの力の源はじんぞーしんの欠片だったんだね」
「梨華さん梨華さん。分かってませんよね?」
「いやだって正直、ピンと来ないし。何かママやオジサン、んで私にもめっちゃ関係あるらしいけど」
今も因縁が続いているのならもう少し違ったかもしれないが既に終わったこと。
何より、
「どんな厄ネタでも規模が世界レベルになったらオジサンが全部どうにかするんでしょ?」
これに尽きる。
一回宇宙ごと地球が消し飛ばされても時間を巻き戻してなかったことにしてみせたのだ。
そんな佐藤がいるのなら危険はどう足掻いても生じない。
実質、光の身に宿る人造神の欠片は無害と言えよう。
であるなら何を心配することがあろうか。へえ、そうなんだーで済ませる。
「他力本願な気もしますが……」
「まあでも間違ってないね。というか話を聞くに厄ネタになる可能性自体を潰したみたいだし」
そこまで気負う必要はないんじゃないかな?
緊張した面持ちで話を切り出し今も顔を強張らせている光に朔夜は笑いかける。
それに梨華とサーナも乗っかり、ようやく光は肩の力が抜けたようだ。
「……ありがとう」
「お礼言うのも違うくない? まあどうしてもっていうなら受け取っておくけど」
「はは、じゃあどうしてもってことで」
「では私たちはどういたしましてと答えておきましょうか」
「だね」
互いに笑い合う。
青い春の風が子供たちの間に吹いていた。
佐藤がこの光景を見ていれば二度と戻らない青き日々を思い出して凹んでいただろう。
「それにしても」
「どったのサーナちゃん?」
「いえ、暁くんと梨華さんの出会いは運命的だなと」
「「?」」
「英雄さんは必要がないからと省いたのでしょうが私はある程度、過去の事件についても把握しています」
星の巫女の存在は人造神を完成させる最後のピースだった。
しかし佐藤と千佳によって完成は阻まれ未熟児のまま死んでいった。
「だけど二十年近い時を経て、重なった」
人造神の欠片の多くを宿す光と星の巫女の力を受け継ぐ梨華。
二人は同時に裏の世界へと巻き込まれた。運命的なものを感じてしまうのは当然だろう。
「かつては悪いことに使われようとしていた力が今は正しい人間の中に。
そしてその正しい人間が力を完全なものにできる女の子と出会った……なるほど確かに運命的だ」
朔夜の言葉で二人も得心がいったようでなるほどと頷く。
「確かに第二部とか次世代の続編の始まりみたいなシチュエーションだね」
「完全に光くん主人公で私、メインヒロインじゃん」
少年漫画が好きな二人は若干、興奮していた。
「参ったな。光くんてば私のことそんな目で」
「見てないよ?」
「エロ帽子にお勧めされてたのも年上ものだったしねえ」
「そこには触れるな」
朔夜の呟きに光は彼にしては珍しい語気の強さを見せた。
あの一件はそれなりにトラウマのようだ。
さもあらん。思春期男子が女子の前で性癖を晒されたのだから。
「ゴホン! しかしそうなると佐藤さんは前作主人公?」
「ごめんちょっとこの前作主人公強過ぎない?」
「敵に求められるハードルが高過ぎますね」
「お約束なら出し抜かれて封印されたり力を発揮できない状況に陥るんだろうけど英雄おじさんだしねえ」
子供たちが少年漫画談義をしていると休日出勤から帰って来た千佳が姿を現す。
「あ、ママおかえり~。お仕事お疲れさーん」
「ただいま。その様子を見るに光くんのお話は終わったのかしら?」
「はい。お陰様で」
「ふふ。大丈夫だとは思ってたけど皆、受け入れてくれたみたいね」
自分の娘を含めて皆、良い子ばかりなのは分かっている。
しかし事が事だけに心配していたのだが杞憂に終わり千佳は胸を撫でおろす。
「光くん」
「はい」
「託すとは言ったけれどあなたはまだまだ子供。何かあったら遠慮なんてせずに私たちを頼るのよ?」
「はい。その時はお願いします」
「よろしい。まあ、ヒロくんが居れば大体のことは何とかなるから気楽にいきましょ気楽に」
とりあえず言うべきことは言ったし心配事もなくなった。
千佳はぐっと伸びをしてから立ち上がり梨華に語り掛ける。
「さて。梨華、今日は晩御飯は?」
「んー、皆と外で食べるからだいじょぶ」
「そ。じゃあ作り置きしなくて良いわね」
「あれ? どっか出かけるの?」
「ええ。互助会から地脈の調整を依頼されたの。遅くなるけどあんまり夜更かししちゃ駄目よ?」
と、そこで朔夜が小さく手を挙げる。
どうしたと千佳が話を聞いてみると依頼内容に興味があるらしい。
「ヒロくん風に言うならフィールド効果の調整、かしら?
私たちが踏みしめるこの大地は物理的にも霊的にも多くの恵みを私たちに与えてくれているの」
悪い気が溜まる場所ではフィールドバフがデバフに変じて事故や自殺など悪いことが起きてしまう。
そうならないように澱みを排出させたり傷ついた部分を修復するのが地脈の調整だ。
「私の専売特許ってわけじゃないけど力の性質的に向いてるからちょこちょこ依頼が来るのよ」
そこまで説明したところで千佳はふむと顎を撫でる。
「どう? 折角だし夕飯までの間、見学してみる? 梨華以外は将来的にその手の依頼が回って来るでしょうし」
「ちょっと待って何で私除いたの?」
力の性質というなら千佳と同じ自分が省かれる意味が分からない。
そう抗議する梨華に千佳はふぅ、と溜息を吐く。
「だってあなた大雑把じゃない」
地脈の調整は繊細さを要求される仕事なのだ。
「例えば料理する時、光くんたちはキッチリ分量を計るタイプだけど梨華は目分量でしょ」
「う゛……いや、まあ、そう、ではあるけど……」
「調理実習の時とかも『まあ大体こんなもんでええやろ』でドバりますからね梨華さんは」
「ちょっとサーナちゃん! いやでも能力が向いてるなら多少の雑さぐらい」
「そういう考えがもう向いてないの。丁寧な仕事をしなきゃ後々しっぺ返しが来るから慎重にやらなきゃいけないの」
バッサリ切り捨て千佳は改めて子供たちに見学の誘いをかける。
梨華はぶーたれていたものの他三人は是非にと頷いた。
サーナは仕事自体は知っていても実際にやったこともなければ見たこともないので興味があるらしい。
とまあそういうわけで見学決定。一行は最初の目的地である裏新宿へ向かったのだが……。
≪……≫
裏新宿に踏み入りその光景を目にした瞬間、全員の表情が無になった。
「色モン、ゲットだぜ!!」
赤キャップにジャケット、ジーンズ姿で道行く人に何かボールをぶつけている佐藤。
「キャー! 素敵よサトウ!!」
それを見てケラケラ笑っているへそ出しショーパンのルシファー。
「まだまださ! 行くぜクズミ! 次の仲間を探しに!!」
「ええ!!」
馬鹿笑いしながらアニメソングを熱唱しつつ二人はチャリ(二ケツ)で去って行った。
それを見送り千佳は無の顔のまま子供らに問う。
「あれ、知ってる人?」
「しらなーい」
「ご存じありませんね」
「俺の知り合いにはとんと」
「私の身内にもあんな人は」
うんうんと頷き一行は恥ずかしい大人を記憶から消し去った。




