前作主人公の姿か?これが… 後
「だからね。もう良いのよ」
佐藤が色モンマスターを目指している頃、鬼咲と柳は新たに所在を確認したかつての同胞の下を訪れていた。
佐藤と同年代の彼もまた以前、佐藤が捕らえた者らのように昔日の妄執に囚われている。
再会を果たした夜に命乞いをしたのは彼らに対する責任を果たすためだ。
ゆえに鬼咲は恥辱に塗れて逃げ出したあの日からのことを語った。
失意の中で生きていく中で見つけた答えを誠心誠意伝えた。
しかし、
「――――良いわけないでしょうが!!」
かつての同胞は憤懣やるかたないといった顔で否定した。
「世界も人も何も変わっちゃいない! 変わらず愚行の石を積み上げ続けている!!
あなたの危惧は潰えちゃいない! これから先、世界も人も更に豊かになるでしょう。
だが物的な充足は心的な充足には成り得ない。もっともっととその愚かさを加速させるだけだ」
衣食住足りて礼節を知るなんて出鱈目だ。
人はそこまで賢くはなれない。本質的に満ち足りることなんてあり得ない。
だから進む。欲望のままに。そしてその歩みは夥しい屍が転がる地獄道だと彼は吐き捨てる。
「表の人間でさえ既に幾度も世界を焼ける炎を手にしてしまっている。
一発二発ならともかく現存する全てともなれば超人や神でさえ核の炎に対抗できるのはほんの一握り。
愚行の果てに待ち受ける虚無の荒野を否定したいからこそ、我らは絶対の秩序を求めたのではなかったのですか!?
あなたが語る希望はただの楽観だ! 何一つとして根拠はないふわふわした幻想に何故、寄りかかれる!?」
血を吐くような叫び。それは彼が心底、鬼咲の掲げた思想に共鳴していた証左だ。
「理想を捨て剰えかつての仇敵、柳と手を組んで……酷い裏切りだ」
項垂れる男を見て柳は思った。
(……オカマになったことには触れないんだな)
まずそこを触れろよ。そう言いたいがこの空気で発言するわけにもいかんと柳は口を噤んだ。
「甘い理想論。その指摘も正しくはあるわ。けれど、そんな不確かさが繋いだ未来もあるのよ」
「何を」
「佐藤英雄。彼がその証明よ」
「さとう、ひでお? あの腐れ外道が何だと言うのです!!」
その怒りには大儀を阻まれた以外の理由が混ざっていた。
(……ああ、そう言えば彼は真世界への報復の一環で一家を離散させられたのだったか)
佐藤と敵対していた時分、その攻略法を見つけるためどんな些細な足跡であろうと探っていた。
その最中で佐藤の嫌がらせを受けた者らのことも調べていたのだ。
(“前向き”な家族解散。つくづく惨いことをする男だ)
男はかつて父母姉の四人家族だった。
一見すれば平和な家庭に思えるがその実、小さな歪みを抱えている家庭でもあった。
その歪みは別に無視しても問題ない程度のものではあったが佐藤はそれを利用した。
超常の力は姿を変える以外は使っていない。
偽りの姿で近付きこそしたがその舌禍だけで歪みを決定的なものにしてのけた。
『今からでも人生をやり直せる』
『本当に好きな人と一緒に』
父母は本当に愛する人との第二の人生を。
姉は父母がいれば成立し得ない愛を追って。
彼らは前向きに家族との別れを選んだ。
損をしたのは“カルトにドハマり”しているという烙印を押された男だけ。
父母と姉は互いの幸せを祈りながら別れたが男に対してだけは“癌”を切り捨てるように別れを告げた。
今でも恨み骨髄なのは当然だろう。
「仮にあたしたちの願いが成就していたとして悪役令嬢の襲来をあたしたちだけで凌げた?」
「それ、は……で、では! 私たちが勝利し理想を叶えても待ち受けているのは破滅であったと!?」
「ああ、勘違いしないでね? 真世界が勝利し佐藤英雄が負けたらってことじゃないの」
その仮定に意味はないと鬼咲は苦笑する。
「この場合の理想成就というのは佐藤英雄があたしたちと関わらなかったらって前提だから」
関わりぶつかり合えばどう足掻いても負ける。それは決定事項だ。
「……佐藤英雄が裏の世界に足を踏み入れ力に目覚めたから悪役令嬢による破滅を避けられたと?」
「それも少し違うわね。仮にあの子が裏の世界に入らず一般人のまま育ち悪役令嬢が襲来したとしましょう」
それでも悪役令嬢は佐藤英雄の手によって敗れると鬼咲は断言する。
「あれはもうそういう存在なのよ」
つまりはこうだ。
佐藤に関わらず真世界の理想である絶対の秩序が成立した世界。
そこに悪役令嬢が現れて認識する間もなく佐藤以外の全てが消し飛ばされても佐藤は勝利する。
「問題は勝利した後よ。今あたしたちが生きているのはあの子が世界を巻き戻してくれたから」
佐藤は悪役令嬢との初めて交戦して直ぐに世界を巻き戻した。
仮に自分が相打ちになった場合を考えてのことだ。
だが“もしも”の世界ではどうだろう?
相打ちになった場合を考えて先にというのはない。そこまで世界に愛着を持ってないから。
そして勝利した後でも同じだ。世界は巻き戻されるかもしれないが真世界の理想が成就した世界に巻き戻す理由はない。
「佐藤ちゃんにも常識や道徳はあるけれどそれは人並みのもの」
世界をどうこうなどという熱量は断じて持ち得ない。
「あたしたちが腹の底から叫んでいた理想だってあの子にとっては日曜の昼間に外から聞こえる選挙カーの演説みたいなものよ」
鬱陶しくはあるが、だからとて棒を片手にうるせえと止めに行くことはない。
「敵対していたのだって西園寺千景を狙っていたのと親友二人を誑かしたからだし」
だから佐藤に関わらず真世界の望む理想を成立させてしまえば何が何でも否定することはない。
しかし一度全部壊れてしまえば、絶対の秩序が生まれる前まで巻き戻して真世界を滅ぼすぐらいはするだろう。
「でもこれはあくまで良い方に考えればよ。
あたしたちが望んだ世界で過ごす内にあの子が大切に思う人たちとの間に心の距離ができてしまったら?
もう面倒だと巻き戻しをせずそのまま別の世界に行ってしまう可能性も十分にあるわ」
そうなればこの世界の歴史はそこで断絶してしまう。
まがりなりにも今に繋がったのは真世界と混沌の軍勢が敗れ不確かな世界と人が続いたからだ。
「嫌いではないと思えるぐらいの世界でそこに好ましいと思える人が住んでいたから未来は繋がった」
「……わ、我らにはどの道未来などなかったと、そう言いたいのですか!?」
「答えを知った後で問題に答えているようなものだけど事実を並べるとそう言わざるを得ないわね」
ねえ、と鬼咲は男の名を呼ぶ。
「あなたが昔日の理想を追っているのは本当に世界をより良くするため?」
「な、なにを」
「怖いから、じゃないの?」
不確かな世界が。何をしでかすか分からない人間が。
先の見えない未来が恐ろしいから型に嵌めてしまいたいのではないか。
男は悪さが露見した子供のような顔をして俯いてしまう。
そんな彼を鬼咲は優しく抱きしめた。
「後ろめたく思う必要はないわ。誰だってそう。皆、不確かで不安定な未来が怖いもの」
それはあたしも同じ。
だけども人は進む。それを愚かと呼ぶか勇気と呼ぶのかは分からない。
それでも人は歩んだ道の先に何かがあると信じて歩き続ける。
「怖いなら立ち止まっても良い。蹲って泣いたって良い。けど素敵な明日を望む心だけは忘れないで」
「きざき、さん」
「怖いならあたしも力を貸すわ。負けて泥に塗れてしまったけれど」
これでも昔よりずっとずっと強くなったつもりだから。
そう微笑む鬼咲に男はついに耐え切れなくなったのか子供のように泣き出す。
(……もう大丈夫だな)
柳はそっと音を立てずに男の住居を出た。
それから十五分ほどで鬼咲が合流。その顔は実に晴れやかなものだった。
「次はあなたね。あたしもフォローするから頑張りましょ」
「ああ」
肩を並べ歩き出す。
「あたしたちが黄昏を照らす輝きで在れと願ったものは潰えた」
「……」
「でも代わりに暁を告げる輝きが舞い降りた」
新たな希望を前途ある若者に繋げたのは旧き妄執を潰した男だった。
「交錯したかつてといつかに報いるためにも頑張らないとね」
「そうだな」
何か良い雰囲気になった正にその時である。
突如、凄まじい速度でソフトボール大の何かが二人の頭部目掛けて飛来した。
慌てず騒がず猛者二人はそれを受け止め振り返り――地蔵のような表情になる。
「お、流石は推定伝説色モンや! いきなし捕獲は難しいみたいだな!!」
「サトウ、色モンをゲットするには弱らせてからじゃないと駄目よ!!」
コスプレ馬鹿二人を見て旧ラスボスコンビは思った。
後悔はない。今を愛しているのは揺るぎない事実だ。それでも、
「「……アレに負けたのか」」
あ、ちょっと泣く♥
真実を知った光くんの後日談と
過去の清算をしている元ラスボス二人の話そういや書いてなかったなと思い出したので投稿しました
読んでくださりありがとうございます
またネタ思いつけば投稿するのでその時はよろしくお願いします




