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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第一部 邂逅
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24.のーさんきゅー


「ど、奴隷」


「そう」


 ひっそりと生きていくしかない現状に対し、隊長が提案したのはミレスを奴隷とすることだった。

 いきなりすぎてついていけないんですが。


「何も本当に奴隷のように扱うことはない。専用の首輪をつけるだけだよ」


 隊長のご丁寧な説明を要約するとこうだ。


 この国には奴隷がいて、懲罰や奉公のためだったり、貧困で労働と報酬のためだったりとそれぞれの理由がある。

 奴隷に首輪をすることが当たり前で、その首輪には文字や記号、印などが刻まれることがある。貴族など身分のあるものの従属であれば宝石などもその主の証となると。それを見れば誰の奴隷かが一目瞭然というわけだ。


 逆に言えば、明らかに奴隷と判る首輪をミレスにつけるということ。

 抵抗がないわけがない。可愛いこの子の首に枷をつけて、この子を支配していると周知させるなんて。


 個人的な感情が勝る。それと同時にこのイケメンの言葉も理解していた。忌み子と恐れられるミレスと行動を共にすれば必ず面倒なことが起こる。悪意が向けられる。いつ強大な力の矛先が自分たちに向けられるか分からないから。

 でも、奴隷の首輪があれば話は違う。


「どのような奴隷でも、霊術による隷属の首輪をすればその主には逆らえない」


 奴隷の首輪には大きく二種類あり、霊術という霊力を用いた術を使ったものとそうでないものに分けられる。隷属の術というもので、対象者を従わせることができる。

 隷属の術にも段階があり、強いものは反逆の意思すら喪失するほどで、どの段階でも主には絶対に手を上げられないようになっているらしい。

 境遇や待遇ゆえの反意を阻止するため術をかけることが一般的で、あまり事例はないものの、対象の数が多かったり金銭的な問題があったりして形だけの首輪をすることもあるんだとか。

 主側の問題としては術を複数に使うことの煩わしさや霊力の消費、そもそも術を使えない、など。主自身が術を使えなくても、隷属の術をかけられる術士がいるらしい。


 ずっと聞くこともできず置いてけぼりだった霊力やらの話をいきなりぶち込んでくるものだから、ちょっと怯んだ。

 霊力というものを当たり前のように話すので、今さらそれは何ですかとは言い出せなかった。記憶喪失設定にしているとはいえ、今のところ日常生活は難なく送れているので、ここのグローバルスタンダードらしい霊力について改めて聞いて怪しまれるのは避けたい。

 だったらミレスのあの力は何なんだと問い詰められても答えられないし。私に霊力はほとんどないらしいし、今は深く知らなくてもいいや。


 ミレスにはすでに外れない特殊な首輪がついている件については、外せる可能性がないわけではないこと、そして外せなくてもその上から新たな首輪をつければいいと隊長は言った。

 これ以上可愛くないどころかごつくなるのは嫌なので、できれば外せる可能性を探りたいところではある。


「あの力は強大だけれど、国が持つ軍事力を考えても危険すぎる。面倒なことに巻き込まれる前に対処したほうがいい」


 ダズウェルさんも同じようなことを言っていた。ミレスの力は危険すぎる、制御できなかったらどうするのかと。

 だから隷属の首輪をすることで、私がこの子の手綱を握っている、ミレスが安全だと周囲に示せと言っているわけだ。


「もしかしたら、忌み子として備わった呪いの力も抑えられるかもしれないしね」


「そ──っ」


 そうですね? そうなれば、いいですよね?

 顎に手を当てて考えるような仕草も似合うなイケメン!

 いきなりぶち込んでくるの本当に何なの。もしや誘導か? 試されてるのか?


「アサヒ?」


 あまりペラペラと人の事情を話すタイプに見えないダズウェルさんが、他人の、まして親しい人間のセンシティブな事情を話したのは、私たちを忠告する意図がほとんどだったと思う。

 何となくだけど、あの人なら他人のそういう事情を話したことを本人に報告しそう。罪悪感からとかではなく、単に事実報告として。

 もしかしたらミレスがローイン隊長の両親の敵かもしれないと、私が聞いたと知っているんじゃないだろうか。知っていて、話題を出すことで情報を引き出そうとしていたら? 私が持っている情報がミレスを忌み子と余計に裏づけることになりでもしたら。迂闊なことは言えない。

 いきなり斬りかかっては来ないだろうけど、いつも表情が乏しくて何考えているか分からないし。もしかしたら、クールぶってるだけでその仮面の下は復讐に燃えていた、なんてこともあるかもしれないし。


「いや、その……首輪、って、どんなのでもいいんですよね」


 私は知らない。忌み子の呪いなんて知らないし、関係ない。だから反応しなくていい。


「そうだね。一般的な奴隷は簡素なものが多いけれど、貴族や王族の寵児であれば華美なものも珍しくはないかな。専用の店があるから紹介しよう」


「…………そう、ですか」


 私の反応に特に不審がる様子はないものの、当初の問題に頭を抱えそうになった。

 ミレスのためを考えるとどうすることが一番なんだろう。

 身体的に縛られることに本当に自由はあるのか。枷を外して明るい道を歩いてはいけないのか。

 ミレスの幸せって何だろう。


 当の本人は、ダズウェルさんに人殺しの疑いをかけられてもローイン隊長に奴隷とか首輪とか物騒な話をされても何の反応もない。


「もっと考えてることが分かればなぁ」


 腕の中の幼女に尋ねてみたところで、きっと返事はない。


「お話中失礼致します、ローイン隊長」


 ミレスのことで悶々としていると、一人の部下がやってきた。ローイン隊長に耳打ちをしている。


 何かあったのだろうか。あの異形の危獣たちと戦った場所からは離れ、安全圏に入ったと言っていたのに。

 比較的安全とされる第五指定区域であんな化け物が出たのは想定外すぎたらしい。今腰を落ち着けているのは一般領地との中間地点くらいの位置であり、危獣自体出ることが珍しいという。あと二日ほどで一般領地に着くようなので、何も起こらないことを祈る。


 部下はローイン隊長に紙のようなものを渡して去っていった。中身をさっと確認したイケメンはすぐに紙を懐に仕舞う。


「さて、行こうか」


 休憩は終わりらしい。隊長との話で全然気が休まらなかったけど仕方ない。


「あっ」


 立ち上がろうとして、足に力が入らずつんのめった。


「大丈夫かい?」


 盛大に転ぶ気しかしなかったところ、隊長が受け止めてくれた。

 休憩を挟んでいたとはいえ、今までの疲労が一気に来たのかもしれない。足が小鹿のように震える。


「すみません、ありがとうございます」


 何とか踏ん張って隊長から身体を離す。

 乙女ゲームのイベントっぽくて嫌だ。好感度システムはともかく、フラグとかルートはいらない。


「もう少し進んだら安全区域がある。そこで長めの休憩を取ろう」


「お気遣いいただいて……」


「本来なら君くらいの子女は保護されて生きている。このような危険な場所にいて弱音を吐かないことがおかしいくらいだ。本当に、よく頑張ってくれている」


 ダズウェルさんと一緒でこの人も私のこと子どもだと思っているな。褒められても嬉しくない。

 でも今までの言動を思い返せば、普通の女の子だったら隊長に落ちてるだろうな。こんな非の打ち所がないようなイケメン、惚れない子いる? もっと表情も豊かで笑顔もあれば男ですら落ちそうですけど。

 まあ私はイケメンより幼女のほうが断然ポイント高いけどね。


「足が辛そうだね。抱えようか」


「結構です」


 真顔で言うのやめて。そういうことは年頃の女の子にでも言ってください。


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