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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第一部 邂逅
22/240

22.安寧などない


「ッおい!」


 負傷していない方の腕を押し退けて、再び男へ跨った。

 黒い靄やら霊力やら知らないけど、止まったばかりの心拍を再開させるにはこれしかない。

 ひたすらに押す。沈めた腕はきちんと元に戻し、瞬時に、ひたすら、絶え間なく押し続ける。


「っはぁっ、っはぁっ」


 きつい、辛い。

 久々だというのもあるけど、今までの疲労が蓄積されてより辛い。


「っはぁっ、っはぁっ」


 しかも人工呼吸のタイミングもないし交代できる人もいない。

 CPRの概念がないの何なの、この世界の医療水準どうなってんの。


「っァア゛ッ」


 変な呻き声くらい許して。


「っはぁっ、っはぁっ、っはぁっ」


 それにしても片腕の男が突っかかってこないのは隊長のお陰だろうか。しんどすぎてそっちを見る余裕はない。


「っはぁっ、っはぁっ、っはぁっ、っはぁっ」


 お願いお願いお願い──!


 祈りながら、力を振り絞り、ただひたすらに心臓を押し続ける。


「──ぅ」


 小さく男が身動ぎした。


「──っ!」


「おぁっ」


 ドンッと衝撃が来たと思ったら視界に飛び込んできたのは片腕の男。

 またも突き飛ばされ、デジャヴだな、と身構えていたものの、思っていた衝撃はなかった。


「あとは任せて」


 やめろ。耳元で囁くように言うな。


 受け止めてくれたらしいイケメンは、私の体勢を正すとすぐに倒れている男へ近づいた。

 小さく何か呟きながら男の身体に手を当てている。相変わらず何と言っているのかは聞き取れない。


「──っぅ……ぁ、れ……?」 


 足を負傷していた男が開眼する。


 薬要らずの治癒術、凄すぎませんか。


「ッまえ、心配かけやがって……!!」


 身体を起こした彼に喜びのあまり片腕で抱きつく男。


 あなたも大分怪我人なんですが。骨、どうなっても知らないからね。どうなっても、私のせいじゃないからね。







 ダズウェルさんが何か言いたげにこちらを見ている。


「……」


 無言の圧力、怖いです。


 あの後、久々の胸骨圧迫で体力の限界を迎え、ふらついていたところを受け止めてくれたのはダズウェルさんだった。後方部隊も含めて指揮を執りながら残党を討伐、ある程度の周囲の安全を確認してから応援に来てくれたらしい。

 すぐに私を追ってこなかったのは正直意外だった。猪突猛進なタイプだと思っていたから。


 ローイン隊長は部隊を指揮するために足早に姿を消し、ダズウェルさんに支えられながら──いや嘘ですごめんなさい、ミレスごと横抱きにされて運ばれました、はい。揺れて気持ち悪かったとか言わないです。

 まあそんなこんなで、調査隊が集合し、前後部隊に挟まれたいつものポジションに戻ってきたのだった。


 負傷者を抱えながらの進行は今までより遅く、休憩時間も長くなった。

 お陰で体力と気力を取り戻し、暇を持て余してしまった。物資の配給の手伝いでもしようかと思ったものの、どこか避けられているというか、怯えられているというか。

 複数人と関わるのは難しいと判断し、一人で細々と川でやっていた皿洗いを手伝うくらいしかできなかった。


 相変わらずの無言。話しかけても返答なし。


 まあ、助かったとはいえあんな力を見せられたんじゃ警戒もするか。

 でもさあ、ミレスのお陰で倒せたところもあるじゃない? そこのところ、納得はできないよね。

 少しくらい会話しろ。


「……お前」


「はい」


「……」


「何ですか」


 やっと口を開いたと思えばまた沈黙するダズウェルさん。


「言いたいことがあるならはっきり言ってください」


「──じゃあ、言うが」


「はい」


「お前、怖くねぇのか?」


 質問の意図がつかめず答えに詰まる。


 怖いとは、何が。


 目の前に座る眼光鋭い男のことか、危獣のことか。思い当たる節がいくつかあってどれのことだか分からない。


「ソイツのことだ」


 ダズウェルさんが顎で示すのは、どう考えてもミレスだった。


「──何でですか?」


 自分でも驚くくらい冷たい声が口を衝いて出た。

 駄目だ、冷静にならないと。今後、どんな人たちとの会話でも平静でいられるよう、努めないと。


「ソイツのお陰で敵の大将を討ち取れたのは聞いてる。濃くなった“気”の原因を対処したのもな」


 あの場にいなかったダズウェルさんは他の兵に──多分ほとんどの状況を知っているローイン隊長に聞いたんだろう。


「だがな──それほどまでの力、扱いを間違えたり暴走でもすりゃお前自身も巻き込まれる。……戦争の火種にだってなる」


 最後少し言い淀んだのは、優しいからだろうなあ。

 最初は私たちを保護すると言った隊長にあんなに突っかかっていたのに。


「それに、忌み子だとしたら……」


「だとしたら?」


 再び口を噤むダズウェルさん。


「私、本当に知らないんです。この子が何者か、どこからやってきたのか」


「……」


「忌み子だったとしても、関係ありません」


「………………よ」


「何ですか?」


「……関係、あんだよ。アイツには」


 珍しく言いにくそうに、視線を逸らす。


「アイツは、両親を……忌み子に殺されてんだよ」


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