12.怪物、危機一髪
評価とブクマありがとうございます!(さっきその機能に気づきました)
背中を見せれば殺されるかもしれない。もしかしたら、視線を合わせて後退れば逃げれるかも。
じりじりと後ろに下がるが、何せ相手は複数かつ異種類。たとえ通じた種族がいたとしても、きっと全部ではない。
でかいし気味が悪いし怖い。嬲り殺されるのは嫌だ。
何で私がこんな目に遭わなきゃいけないの。
召喚の類なら恨むべき対象が分かるけど、完全に転移時の状況を把握できていないせいで恨む相手も定まらない。
「グリュリャァァァアアアアアッ」
「ひっ」
見上げるほど大きい触手の生えたエリマキトカゲが、痺れを切らしたかのように突撃してくる。
──死ぬ。
思わず目を閉じてミレスを抱きしめた。
ぐらりと、身体が揺れる。目を閉じているのに眩暈がした。
「グリャッ」
短い鳴き声のあと、ドスンと何かが倒れた音がしたと同時に、地面が揺れた。
死んでない。痛みも、ない。
目を開けると、そこには頭部と胴体が切断されたエリマキトカゲが倒れていた。暴漢たちと時と同じで、出血はそこそこに、切断面からは黒い靄が溢れ出し、その身体に纏わりついていく。
ホラーやグロ耐性がなければ失神しているレベルで見るに堪えない映像だ。人間のグロいものは苦手だけど、その他は耐性があってよかった。
「……だ」
「ミ、レス」
「……だ、い」
何か言おうとしているものの、口をぱくぱくと動かすだけでなかなか声にならない。
ミレスは諦めたように口を閉じ、服の袖を引っ張った。
「……て」
「あっ」
思い出し、片手を突き出す。
あの時と同じように、ミレスから“何か”が伝わってくる。
そして“何か”は身体を巡り、突き出した片手に駆け抜けた。
「グルゥェッ」
「キャリュッ」
「グギャッ」
複数、大小の鳴き声のあと、その巨体に比例するようにゆっくりと倒れていく奇妙な生き物たち。全部、首と胴体切断。一撃必殺。
凄い。凄すぎる。幼女、強すぎる。
「もうほんとありが──!?」
思わず泣きそうになりながらミレスに頬ずりしようとした、その瞬間だった。
三本足の何かが立ち上がる。熊のような毛に覆われた身体に長い尾。奇妙な死体の集まりの中、唯一立っているそれは、例に漏れず首はない。転がっている頭がどれかすら分からないものの、他と同じように切断面には黒い靄が纏わりついている。
あれか、頭がなくても動くタイプか。
「み、ミレスちゃん」
再び片手を突き出し、幼女に助けを求める。
が、“何か”は伝わってこない。
一歩、二歩。三本足の熊のような何かが近づいてくる。後退る。それでも、ミレスからは何も伝わってこない。
さすがにまずい。そう思ったときだった。
「ギ、ギ、ギ、ゴ」
頭のない身体から濁った低音が聞こえ、歩みが止まった。そして、ぼこり、ぼこり──身体が歪に膨らんでいく。大きな血管のような、大樹の根のようなものが奇妙な身体を這い回る。
「ゲ」
小さな断末魔とともに、その膨れ上がった身体は爆散した。
「わーっ!」
大部分はその場に腐り堕ちるように崩れ、一部は周囲の木々にまで飛んだ。びちゃっという嫌な効果音つきで。
「あっあっあっ、新しいパターンね!」
色々と驚きすぎて吃った。多分、心拍数がえげつないことになっている。
しばらく倒れた奇妙な生物を遠目で眺めるものの、動き出す様子はない。
心底安堵した。
それにしてもミレスの攻撃が凄い。火力とスピードだけでなく、遅発性の効果まであるとは。
「ミレスちゃん、ありがとう……救世主……」
「……あ」
またも何かを言おうとして小さな口を開閉するミレス。やはり、声にならない。
「ゆっくりでいいよ」
「……ん」
きゅっと服を掴む幼女が可愛い。
「あ……あ、り」
「うん」
「……り、がと」
見上げる幼女はそれだけ伝えると口を閉じた。それ以上何か言ってくる様子はない。
「……えっ。いや、何が!? こちらこそありがとうなんですが!?」
何か感謝されるようなことをした覚えはない。むしろこちらが感謝することしかない。
「もー! 強すぎるし謙虚だし可愛いし最強すぎる! 好き!」
ぎゅっとミレスを抱きしめる。それに応えるように袖を掴んでくる幼女に愛しさが込み上げてくる。多分、締まりのない顔をしている。
呪いだの災厄だの好き勝手言ってくれて。むしろこんなに何度もピンチを救ってくれる女神なんですが。ここに来てから酷い目に遭うばかりの中、砂漠のオアシスなんですが。
改めてあの暴漢たちを思い出し沸々と怒りが込み上げてきた。
くそ、もっと痛みつけてやればよかった。




