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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第一部 邂逅
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13.今度こそは


 モンスター襲撃イベントを終えたあと、再び歩き続けて何度目かの昼と夜を繰り返した。休憩を挟みつつも、景色が少しずつ変わってきている。それに、今までは草だらけだったのに道のようにある程度の広さがあることからも、少しは出口に近づいていると思いたい。


 昨日から川が途切れ、食料となる果実もなくなった。数日の内に人里に辿り着けないと終わりだ。


 祈るように歩いていると、ミレスに袖を引かれた。


「こっち?」


 ミレスの指した方角は、せっかくの道からは外れ、また草むらの中を行くことになる。


「まあ、行くけどね」


 これまでミレスに従って悪いようになったことがない。むしろ助けられてきた。

 この子が何を感知してるのか分からないけど、多分何かがあるんでしょ。


 そうしてひたすらミレスが示した方向へ歩みを進めていると、遠くから何か音がしてきた。またも複数のそれは、あの怪物たちの比ではない。ただ、あの時よりも振動は少なく、重量は比較的軽いように思えた。


 ミレスに上着を被せる。一応、あの暴漢たちの仲間である可能性も考えておかないと。


 それでもはやる気持ちを抑えられず、足早になる。ひたすら歩き続けて限界を超えた足が縺れそうになる。

 それでもひたすらその方向へ進む。


 そして、待ち望んだそれはついに現実となった。


 人だ。遠目に見ても、あれは人だ。


「止まれ!」


 あと数メートル、というところで制止がかかり立ち止まる。

 武装し皆同じ服装の男たちは、兵隊のようだった。


 まさか、あの男たちが、私たちに襲われたと通報したとかないよね? 危険人物がいるからと派遣されたわけじゃない、よね?


「ここで何をしている? ここがグルイメア第四指定区域だと知ってのことか?」


 知らない単語が出てきたけど、いきなり攻撃してくるわけではなくてよかった。一応話はできそう。


「あの、道に迷ってしまって」


「もっと考えて嘘をつくんだな。指定区域に入っておいて、迷ったなどと」


 何でよ。

 あれか、指定区域ってことは立ち入り禁止なのか。立ち入るには許可が必要で、普段は監視されているとか、そういうことか。

 突然現れた場合を想定してないんですか、管理としてどうなんですか。


 少しムッとしつつも、こちらとしても異世界転移なんて予想外のことだし、この世界には転移転送なんて魔法のようなものはないのかもしれないし、あっても対策が取られていてのこの状況なのかもしれない。


 せっかく話が通じそうな相手だ、チャンスを逃してはならない。やっとまともな人と出会い助かると思ったのに、と八つ当たりするのはよくない。冷静になろう。


「気がついたら、ここにいたんです。ここがどこかも分からなくて……」


「そんな話、信じられるか」


「そうだ。霊力もまともにないような人間が、ここに入れるわけがない」


 そんなこと言われても事実なんだから仕方ないでしょ。大体霊力って何、オカルト系の話?


「何かあったのか」


 説得できる言葉が思いつかないでいると、兵隊の奥の方から一人の男が出てきた。


 イケメンだ。亜麻色の髪の乙女ならぬ、亜麻色の髪のイケメン。

 年齢は二十代くらい。背も高く、筋肉がつきすぎているわけでもなく細すぎもしない。これが乙女ゲーなら絶対に攻略対象、違うゲームでも絶対にネームドキャラ。


 これは重要イベントなのでは!?


「いえ、この娘がここに迷い込んだなどと言うものですから」


「ふむ」


 周囲の兵士たちは一歩下がり、イケメンに先ほどのやり取りを報告している。

 この対応、もしかして兵隊たちの幹部ですか。


「君はどうやってここに?」


 イケメンが問う。やや低めの通る声。イケメンは声までイケていた。


 記憶喪失ということにしようとも思ったけど、前の世界での知識が通用する部分がある場合、怪しまれるかもしれない。だからといって無知すぎるのも、先ほどのやり取りからして難しい。


「……分からないんです。断片的には覚えていることはあるんですけど。本当に、気がついたらここにいて。何日もずっと歩き続けたらあなたたちと会いました」


 とりあえず曖昧にしておこう。

 怪しいことこの上ないかもしれないけど、ボロが出るよりはマシでしょ。


 イケメンは少し黙ったあと、片腕の服の留め具を外すと、無言でその腕を見せてきた。

 腕、というより腕輪か。銀色に装飾を施されたそれは芸術品のようだった。中央には特徴的な何かのマークと宝石がある。徽章のようなものかもしれない。


 いい筋肉と血管ですね。

 なんて冗談を言えるわけもなく口を閉じる。どういう反応をしたらいいのか分からない。もしかしたら、兵士の言っていた霊力というもので何かを確かめているのかもしれないし。


 三十秒ほど経ったか経たないか。イケメンは腕を下ろし服を整えた。


「本当に知らないらしいね」


 よかった。これは助かったかもしれない。

 もしかしてあれ、時代劇でいう「これが目に入らぬか」的なやつだった?


「霊力が全く感じられない君がこの場所に──しかも数日も歩き回っていたなんて信じがたいことだけれど」


 その霊力ってやつは他者が持っているかも分かる感じなのね。ファンタジー的な要素が増えて嬉しいところだけど、やっぱり私に特別な能力はないんだ。別にいいけどね。私にはミレスがいるしね。


「ここはグルイメア第四指定区域。とても危険な場所だ」


 まあそうでしょうね。危険いっぱいでした。


「私はシーヴェルド・ローイン。タルマレア国より派遣された調査隊の隊長だ。とりあえず君はタルマレアの保護下に置かれるけれど、それでいいかい?」


「はい。よろしくお願いします」


「君の名前を聞いてもいいかな」


「あ、朝……アサヒ、です」


「珍しい名前だね」


 本当の名前は色々と危険かもしれないからと別の名前を答えてしまったけど、決して嘘ではない。小さい頃に呼ばれていたあだ名だし。朝野陽織、略してアサヒ。単純だ。

 ここが苗字を有しているのが貴族やらお偉い様だけという風習があるのかは知らないけど、名前だけで特に怪しまれてはいないみたい。


「君の髪色や……汚れているけれど服装も珍しい。リィリルの出かな」


 あ、やっぱり髪の毛も服装も珍しいんだ。最初の兵士たちに突っ込まれなかったから、そんなに珍しいわけじゃないんだと思ってた。それよりも私たちがこの森にいたことのほうが不審だったんだろうね。

 まあ、服装はともかく、黒髪だからって怖がられなくて済んだかな。結構見かけるよね、不吉だとか凄い魔力を持っているだとかいう設定。


「ど、どこですか? そこに行けば私と同じような外見の人がいますか?」


「どうだろう。リィリルの国々はあまり他国と関わろうとしないから明確な情報が少ないんだよね」


「……そうですか」


「記憶も失くしてこんな場所で一人大変だったね」


 優し気な声と口調だけどどちらかと言えばクールキャラなイケメン。若くして有能。

 ここが乙女ゲーの世界でないことを祈りたい。


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