もう、いらない
父の声で起きたのか
薄暗い部屋でもわかるほど青ざめた兄と目が合った
その後、2階に上がってきたママに連れられて、そのままママの実家に向った
玄関で脱ぎ散らかした自分の靴を拾おうとしたとき見慣れない女性のブーツを見た
あぁ、お父さんはこれを見たから慌てて来てくれたんだなと思った
あの部屋でお父さんと兄とあの人が何を話したのかは知らない
夜、ママの実家にお父さんが迎えに来て、自宅に帰ると兄がリビングで待っていた
寝起きのぐちゃぐちゃの髪のまま、シワシワのシャツを着たまま兄はソファに座りこんでいた
完璧な兄らしくない
私の姿を視界に入れると声をかけてきたが
「ひな、ごめ」
「お父さん、ひなお部屋で寝たくない」
遮るようにお父さんに話しかけた
「どうしてだい?」
「だって、あの人、ひなの服着てた」
あの人か
ひなの服か
どこに反応したのかわからないが
兄は唇を噛み締めた
見慣れた服なのは当たり前
だって自分の服だったんだもん
「ひなのお部屋に泥棒さんが入ったんだよ。ばい菌つけられちゃったんだよ。お部屋に戻れないよ」
大げさなことを言っているのはわかってる
でも、無理なの
「・・・わかった、今日は和室で寝なさい」
お父さんがそう言うと、ママが提案してくれた
「ひなちゃん、久しぶりにママと一緒に寝ましょ?」
「ママと?」
「うん、ママ、ひなちゃんと一緒にいたいな」
ママは私と兄を分け隔てなく愛そうと努力してくれていた
本当はもう1人子どもが欲しいのにきちんと避妊をしてくれていた
血の繋がらない兄がこれ以上、孤独を感じないように
でも
今回は怒っているようだ
「・・・うん」