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第三十七章 勇者(ヒト)それぞれ

なんとか1ヶ月以内に投稿出来ました。

ただ少し粗削り感が否めないので、後日改めて補足を入れたりして梃入れしたいと思います…


「痛たた…あの野郎、本気でやりやがって……」


「大丈夫ですか、おかしら?」



 利道と激戦を繰り広げた村外れから遠く離れた場所で、ヴァンは子飼いの部下数人に囲まれながら一息ついていた。致命傷こそ無いが、彼の身体は明らかに疲労の色を見せている。

 あの後、利道の猛反撃によって圧倒され始めたヴァンだったが、彼はあの戦闘で利道に勝つ気など最初から無かった。利道に勝負を挑んだその時から既に、自分達の居場所を帝国と王国の両軍に自ら暴露し、敢えてその場に追撃部隊を招きよせたのである。長く世間を騒がせてきた『蒼風』と、最近になって有名になってきた『黒騎士』が二人揃って居合わせていたということもあり、派遣されてきた両軍は目の色を変え、凄まじい勢いで襲い掛かってきた。その半ば四つ巴にも等しい状況に陥った中、ヴァンはどさくさに紛れながら逃げてきたのである。

 


「……で、軍の連中はどうしてる…?」


「俺達そっちのけで、血眼になって黒騎士を捜してます。暫くお勤めを自重した甲斐があったようで…」


「そいつは上等…」



 世界に名立たる大悪党、蒼風一味。そんな彼らだったが、黒騎士こと利道の名前が世間に浸透するにつれ、その活動を徐々に沈静化させていった。誰もその事に疑問を抱かず、両国家は逆にどんどん存在感が大きくなっていく利道の対応を優先させていった。



「計画の進行具合はどうだ?」


「帝国の主要な政府高官への根回しは完了してます」


「王国の軍事ネットワーク破壊工作も、粗方終わってるっす」


「空白地帯に存在する蒼風一味傘下の空賊、及び反政府組織の招集も済ませました」




―――それ故に、ヴァンが利道に語った『世界破壊計画』の存在など、知る由も無かった…




「計画自体は開始しようと思えば出来ますが、万全をきす為にもう一週間欲しいですね…」


「そうか……ま、仕方ねぇか。結局トシミチの奴を勧誘するのに失敗したし…」



 やれやれと肩をすくめ、そうボヤいたヴァン。しかし言葉の割には、特に気にした様子は無い。むしろ何かを楽しんでいるかのように、にやりと薄い笑みを浮かべていた。その様子を見て、部下の一人が疑問を口にした。



「あれ、″勧誘は失敗するの前提″とか言ってませんでした?」


「まぁ別に勧誘に成功したら成功したで戦力が増えるし、失敗したら計画通りに進めるだけだ。お前らは気にしなくて良い」


「左様ですか」



 その後、計画に関して幾つかの確認を終わらせ、彼らは各々の持ち場へと帰っていった。先程も言った通り、計画を完璧なものにする為には、まだやることが残っているのだ。時間は少しも無駄には出来ない。

 そしてそれは、ヴァンとて同じである。利道の勧誘を兼ねて"煽り"に行った今、もう後戻りは出来ない。それでも彼は部下達が去った後、自然とある方向に視線をむけていた。



「『恐怖』と『希望』ねぇ……次に会う時は、もっと詳しく教えてくれよ。その時は"隠れ蓑"としてで無く、"仲間"として本気で勧誘するからさ…」



---先程まで利道と戦っていた場所へと目を向けながら、彼は人知れずそう呟いた…




◇◆◇◆◇◆◇




「勇次さん達が居る最前線って、どんな場所なんですか?」


「世界の果てと言われておりますが、実際は我々王国の領土の北の果て…数ある亜人の国々との境界線の役割を担っている、巨大荒地に存在しています。トシミチ様やユウジ様が召喚されるまでは一方的な侵攻を許していましたが、最近はどうにかマシな戦況を維持する事が出来まして、その付近に軍事拠点を設ける事に成功しました。恐らくユウジ様御一行も、まずはそこに一度足を運ぶかと思われます。なにせ、かなりの人数に膨れ上がっていることでしょうから…」 



 買い出しが終わり、それと同時にお仕置き用の呪札を解除して貰ったヴァーディアは、水を得た魚の如く喋り続けた。利道に対する謝罪から始まり、謝ったそばから『折檻が厳しすぎる』とミレイナに愚痴を洩らして再度利道に札を張られそうになり、世間話で強引に話題を変えながらその場をやり過ごした。

 その過程で彼女はふと思い出すように気になったのか、自分達がこの馬車で向かっている場所がどんなところなのかをローグに尋ねたのだった。そして彼が最後に付け加えた一言はヴァーディアだけでなく、利道とミレイナの気を惹いた。



「かなりの人数に膨れ上がってるって、どういうこと…?」


「あれ、御存知ではなかったのですか? てっきり、既に知っているものかと…」



 御者台から振り向きながら発せられた利道の疑問に、ローグは意外そうな表情を見せる。因みにローグは、神官長が国軍に勇次の近況を調べさせた際に彼の上官を使い、その上官が彼を使ったので勇次の最近の状況を少なからず把握していた。

 実際のところ、勇次に仕込んだ盗聴の術式を解除した後も、利道は裏で色々と暗躍する際に少なからず勇次の噂を耳にしていた。その内容は彼が順調に冥軍を蹴散らしていることや、種族に関係なく多くの人々を救っているというもの位だった。更には地下牢で自分が語った教訓を少しは参考にしてくれたようで、身の周りだけでなく、色々な立場から発せられる言葉に耳を貸して、広い視野でしっかりと物事を考えるようになったとも聴いた。その為、神官や一部の貴族たちが二人目の勇者を自分達にとって都合の良いように動かすことが出来ず、地団太を踏む羽目になったと知った時は少し子気味が良かった。

 だがそんな利道でさえ、ローグが『膨れ上がる』と表現するほどに仲間の人数を増やしたという話は聞いていない。王都を出た際は確か巫女のクリスティアと、助けたエルフの少女のルリカだけだった筈。その後も剣士やら魔導師やらを仲間にしたと小耳に挟んだが、いったいどういう事だろうか…



「因みに、現時点で何人くらいに増えてるの?」


「私が最後に王城へ報告した時は確か、巫女のクリスティア様とエルフのルリカ、剣士であるケイティ、魔物の森に住んでたはぐれ魔導師のシャロン、更にこの近辺で有名だった盗賊団の頭のフローラ…」


 

 根は真面目で良い奴だから、きっと多くの仲間が出来るだろうとは思っていたけれど、まさかこの短期間でそこまで増えるとは思わなかった。しかも、心なしか女性の名前ばかり並んでいるような気がするのだが…



「それから、″その他″八十名を合わせまして…ユウジ・オオバ様御一行、総勢八十六名になります」



―――なんか今、色々とおかしい数字が聴こえたのだが…



「……ごめんローグ、もう一度言ってくれないかな? 昨晩はちゃんと睡眠をとった筈なんだけど、まだ寝惚けているみたいでよく聞こえなかった…」


「ユウジ・オオバ様御一行、総勢八十六名になります。最後の報告を受けてから時間もかなり経ってますので、合流する時はもっと増えてるかもしれません…」



 ローグによって唐突に告げられたこの話は、利道だけでなくミレイナとヴァーディアさえも驚愕させた。特に日頃から勇次に対して舐め切った態度を取っていたヴァーディアの狼狽えっぷりは凄い… 



「ちょっとローグさん、どういうことですか!? ていうか″その他″ってなんですか、八十名の″その他″って!? もしかして勇次さん、少し仲良くなっただけの人間を片っ端から冥軍討伐に誘っている訳では無いですよね!?」 


「別にそういう訳では無いのですが……いや、あながち間違って無い気も…」



 ヴァーディアの言葉に、非常に複雑な表情を見せるローグ。取り敢えず利道は、彼に詳細を話すように促すことにした。



「最初に名前を出した五人と八十名の内の数人は、勇次様と直接的な出逢いを果たし、実際に意思の疎通をして心を通わせたりしたので、彼女らは本当の意味で勇次様の仲間と呼ぶに足ると思われます…」


 

 この世界に自分を召喚した本人だったり、初めて城の外で出会った亜人だったり、名声を聞きつけて決闘を申し込まれた挙句意気投合したり、迷子になった際に助けられた縁だったり…風の噂で幾つかは把握していたが、彼は彼なりに様々な出来事に直面していたらしい。



「ただ、その内の一人…盗賊のフローラに少し問題が……」



 その盗賊のフローラも例に違わず、勇次達と出会って色々とあった者の一人である。ただこのフローラという人物、先程ローグが語ったように『盗賊団の頭』という肩書を持っている。つまり彼女には、元から部下や仲間が居たのだ。



「それでフローラを仲間にする際、彼女の部下12名も同行する事になったのです」


「12名? じゃあ、残りは?」


「実はフローラ一味の名は、盗賊達の業界でも結構有名でして…」



 少数精鋭で頭が女ということもあり、その近辺ではそれなりに悪名が轟いていた。そのフローラ一味が王国の勇者の仲間に加わったものだから、やはり盗賊業界に与えた衝撃は半端なものではなかった。フローラ一味の実力に一目置いている者、商売敵として憎んでる者…誰もがことの詳細を知りたがり、全てを調べ上げた。

 その結果、暫く勇次達の元に多くの盗賊団が定期的に訪れるようになってしまった。ただの興味本位による様子見だったり、フローラ一味に対する逆恨み紛いの御礼参りだったり、勇次の実力を聞きつけて腕試しに来たりと様々な目的で色々な奴がやって来て、勇次達はその全てに対応する羽目になった。



「それで…そうこうしている内に、そのフローラ達みたいに仲間になりたい奴が続出したと……」


「はい。流石に来た者全てを連れていってる訳でも無く、ちゃんとユウジ様なりの基準を満たした者だけを選んでいるようですが、それを差し引いても順調過ぎる位のペースで仲間を増やしております。しかもそれに比例して、ユウジ様達が立ち寄った地域は必ず盗賊が減るので、治安が良くなってるみたいですね…」



 基本的に盗賊をやる以外に生きる道が無く、それでも尚、外道に堕ちなかった者達だけを選んでいるらしい。しかも勇次の仲間には特殊な力を持った巫女と魔導師が居るので、例え相手が嘘をついたとしてもすぐに分かるし、そう言った輩はコテンパンにした後に監獄へと送り付けている。因みにフローラ一味は、全員が幼い頃に親に捨てられた者達のみで構成されていたそうで、同業者と魔物以外は殺さないという主義を持ち合わせていた。なので勇次は、彼女たちを仲間に引き入れる事に決めたそうだ。

 ついでに誤解のないように言っておくが、選別の基準に性別は含まれていない。さっきから女の名前ばかりだが、実際は86名の中にもちゃんと男の仲間も居る。



「なんか、ヴァーディアから聞いてたイメージと全然違うわね。初めて話を聴いた時は、もっとダメな奴かと思ってたんだけど…」


「言わないで下さいよミレイナさん、私が一番びっくりしてるんですから……利道様…?」


「……ふふッ…」



 神官や貴族たちの話を鵜呑みにせず、言いなりにならなかった。互いの立場の垣根を越え、その向こうに足を踏み出すことも始めた。目にした物事の表面しか捉えず、根っこの部分には一切意識を向けようとしなった彼が、随分と成長したものである。召喚された当初の彼だったなら、フローラ達が捨て子だったという事実を知ることなく、延々と相手に『お前は悪い事をしたんだ』と繰り返し、監獄へ送り付けるかその場で斬り捨てるだけだったろう。

 そんな勇次の事だ、この盗賊勧誘も彼なりに考え導き出した、″何か″の結論なのだろう。向かい合って話したのは割と短い間だけだったが、やはり自分の知る人間の成長は嬉しいもので、利道は自然と笑みがこぼれた。



「それにしても…そのユウジってのは、どうしてそこまで頑張ってくれるんだろうね……」


 

 そんな折、ミレイナがそんなことをポツリと呟いた。それに真っ先に反応したのは、王国騎士でもあるローグだった。



「それは勿論、ユウジ様が勇者だからですよ。己の身を捧げ、世の為人の為に尽くし、世界に平和をもたらすのが勇者の役目であり義務なのです」



 幼い時から憧れ、自分が騎士を目指す切っ掛けになった、理想の勇者像を誇らしげに語るローグ。声量こそ控えめだが、その言葉にはどことなく熱が籠もっていた。しかし…



「ローグ君、ちょっと質問です」


「はい?」



―――隣に座る現役勇者が、いきなり口を開いた…



「ちょっと試しに想像してみて欲しい。突然なんの前触れも無く、住み慣れた故郷から強引に拉致される時を…」


「…?」


「そして知らない場所に連れて行かれた後、自分を拉致した張本人達に武器を手渡されて、『今日から我々の為に命を懸けて働いて下さい』と言われる。おまけに働き終わるまで帰らせてくれないし、その人たちが約束を守る保証はない。そんな場所で何度も死に掛けながら、君は真面目に頑張れる?」


「……事情によっては善処しますが、長続きする自信がありません。というか何ですかその状況、余りに酷過ぎませんか…?」


「ふぅん?」



 自分の力と根性を踏まえ、真面目に回答したローグだったが、利道の微妙な反応に眉を顰めた。ふと後ろを振り向くと、ヴァーディアは『あ~あ、やっちゃった…』と言いたげな表情を見せ、ミレイナは何かを察したのか気不味そうに目を逸らした。この時点でローグは自分が何かやらかしたと言うのをなんとなく察せたが、具体的に何をやってしまったのかが分からなかった。視線のやり場に困り、取り敢えず利道の方に戻したのだが、それに合わせて彼も再び口を開いた。



「やっぱりローグも、それは流石に酷いと思う?」


「え? それはまぁ……特に自分を呼び出したという人達が、少し勝手が過ぎるのでは、と…」



 なんの関係もない場所から、なんの関係も無い人間に、いきなり命を懸けろとは流石に理不尽ではないだろうか。しかも『用が済んだら返す』と言われても、そもそも自分を拉致した人間をどうやって信じろと言うのだ。そして、そんな輩の為に尽くせとか無理だ…



「ちょっと自分勝手な人達だなぁ、とか思っちゃう?」


「思いますね」


「そんな人達の為に尽くすとか、ふざけんなとか思っちゃう?」


「自分だったら、逃げたくなります」


「だよね~」



 そう言って薄く笑いながら、利道はローグの肩にポンと手を置いた。その行動に若干戸惑うローグだったが、それに構わず利道はそっと顔を近づけ呟いた…



「でも″誰かさん″が言うには、その自分勝手な人達の為に尽くすことが、僕や勇次君の義務・・らしいのだけど、それについてどう思う?」


「ッ!!」



 かなり大雑把な表現だったが、偏った見方をしたら召喚勇者の実態なんてこんなもんである。始めから覚悟も心の準備も出来ている本職の方や物好きならまだしも、勇次達のような元一般人…所謂普通の人にとって勇者の義務など、理不尽以外のなにものでもない。もっとも勇次の場合、召喚当初は特に何も気にしてなかった(深く考えてなかったとも言える)ようだが…



「少なくとも僕は、そんな理不尽な義務の為だけに頑張る気にはなれなって何をしてるのかなローグ君!?」



 それはさて置き、流石に利道が何を言いたかったのか理解出来たローグ。その刹那、顔を青くさせた彼は馬車から飛び降りた。いきなり彼がそんなことをするとは思わなった利道は、慌てて馬車を止める。

ゆっくりと走っていたので大した反動も無く、馬車はすぐにその場で停車した。そして同時にローグが飛び降りた方へと視線を向けると…




---彼は着地したその場で、利道に向かって土下座していた…



利道の言う『恐怖』と『希望』の詳細は、四つ目の世界での決着話に持ち越しです…

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