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第三十八章 四の急変

お待たせしました、ほぼ一年ぶりの続きで御座います。



「落ち着いた?」


「はい、見苦しい姿をお見せしました…」



 乱心したローグを落ち着かせた利道一行は、馬車を再び走らせた。しかし日も本格的に沈み始めたので、今日はそろそろ馬車を止めて野営の準備をしなければならないだろう。今までヴァーディアとミレイナの女子組は狭い馬車の中で、利道とローグの男組は外で寝ていたが、先程立ち寄った街で色々と仕入れたので、今まで直接地面に寝ていた二人も幾分快適に過ごせそうだ。



「……しかし、やはり自分が失言をしたのは事実。煮るなり焼くなり好きにして下さい…」


「じゃ、遠慮なく」


「ヴァーディア、その火打石はしまいなさい…」



 半ば誘導尋問に近かったが勇者の義務を語った直後に、自分自身で勇者の義務を『やってられない』と称してしまったローグ。生真面目な性格が災いして、さっきからずっとこんな調子なのだ。しかも、何故かヴァーディアが勇次を相手にしていた時のように活き活きとしており、利道が止めなければ本当に何かしでかしそうなくらいである。この状況についていけなくなってきたミレイナは勿論のこと、さっきから二人を宥め続けている利道も色々と限界だった…



「まぁ、とにかく僕が言いたかったのは、大分大雑把だけど、勇者の役目の現実ってのは、見方を変えればそんなもんってことだよ。そりゃ世界を救うなんて偉業、そしてそれを為すことによって手に入る名誉や誇り、これらに惹かれるものが全く無いと言ったら、嘘になる。けれど、元の世界では臆病な小市民に過ぎなかった身としては、こんな役目は重荷以外の何にもならないかな…」



 全部の事例がそうであるとは限らないが、少なくとも利道が経験した異世界召喚は、総じてそのようなものであった。ある日、何の前触れも無く身一つで呼び出され、いきなり世界の命運などと言う大き過ぎる存在を、それもその世界とは微塵も繋がりが無かった一般人に背負わせるのだ。

 無論、才能や潜在能力、はたまた人格など、それなりに召喚する相手を選ぶ基準が存在している可能性もある。利道の場合も、これまでの経験や力をそのまま継承しながら召喚されているので、一般人という枠には当てはまらないのかもしれない。実際、元の世界ではただの高校生に過ぎなかった勇次も、今ではすっかりとこの世界の勇者として適応しているようだし、やはり彼にも素質はあったのだろう。

 だが、今までのことを思い返すと、自分を呼び寄せた召喚者達は、そのことを全く把握していないように思える。自分の居た世界がどの様な場所で、そして自分がそこで何をしていたのかを話すと、彼らは決まって驚くし、挙句の果てには『召喚する相手を間違えたのかもしれない』とさえのたまう始末だ。



「……もしかしなくても、トシミチ様は勇者召喚という儀式そのものがお嫌いで…?」


「どうだろね、自分でも良く分からないや」



 死にたくない、滅びたくない、消えたくない。その感情は、まともな人間なら誰もが抱く。たった一人で世界の命運を背負わされた者も、たった一人に世界を背負わせた者達も、それは同じ。もしも避けられない滅びの運命を変えられる方法があるのならば、彼らはそれに縋るだろう。もしもそれで大切な人達を救えると言うのなら、きっと手段は選ばないだろう。人間一人の命で世界が救えると言うのなら、多少の悪しき所業など、躊躇する理由はない。

 だがそれは、召喚された側からすれば理不尽そのものだ。初対面…否、世界全てとなると、直接の面識を持つことになる人間はほんの一握りだろう。そんな者達の為に、命を懸けろと言うのだ。今まで自分の世界で積み上げてきた物を全て捨て、赤の他人の為に身を粉にして働けと言うのだ。この様なふざけた話が、他にあるだろうか。少なくとも普通の人間なら、決して受け入れられるようなものでは無い。



「でもさ、同時に思うんだよ。何も知らないまま、互いの事情も状況も分からないまま、立場だけが逆転した時、その人達は同じ気持ちでいられるのかどうか…」



 きっと、それは無理だろう。彼らの理不尽と、それに対する憤りの理由は過程が違うだけで、その根本は『死にたくない』という点に変わりないのだから。故に彼らは口を揃えてこう言う、『お前のことなど知ったことか』と。そして『さっさと助けろ』と、『勝手に滅べ』と、逆でありながら、全くもって同じことを言い放つ。だからきっと、喚ばれる筈だった人間が喚ぶ側だったとしても、またはその逆だったとしても、また彼らは相手に向かってこう言うのだろう、『お前のことなど知ったことか』と…

 もっとも、そう言った感情を抱かずに、嫌な顔一つしないで躊躇なく世界を救ってしまうのが、物語や伝承に出てくる英雄たちなのだろうが…



「そんなに不満があるのに、どうしてトシミチは世界を救い続けるんだい?」



 ミレイナがふと疑問を口に出しただけなのだが、その言葉は思いのほか空気を張り詰めたものにした。ローグは先程の失言もあり、彼女の疑問に対する利道の返答に対して、一種の緊張感を抱いている。この目の前に居る現役勇者が、勇者召喚に対してあまり良くない感情を抱いているのは確実。もしも彼が世界の救済を今すぐにでも放棄したい等と言い出したら、どうするべきか全く分からなかったのである。先日までの自分なら唖然として、我に返るなり血相を変えて利道を説得しようとしたかもしれない。けれど、半ば誘導尋問に引っ掛かったような形とは言え、先程のやり取りの後にどのツラ下げてそれを止めろと言うのだ。無論、世界の存亡が懸かっている時に何をと思うかもしれないが、それを免罪符にして恥知らずになるような真似だけはしたくなかったのである。



「ぶっちゃけ、聞いたら多分ガッカリするよ?」


「逆に言わせて貰うけど、多分それは杞憂よ。ヴァーディア、あんたもそう思うでしょう?」


「……。」


「ヴァーディア?」


「え…あぁハイ、当然です!! 利道様の世界救済の理由がどんなものであっても、私の利道様に対する愛は永遠です!!」


「ごめん、そう言うの要らないから…」



 そしてどういう訳かローグと同じように、ヴァーディアの様子もおかしくなった。まるで彼以上に緊張しているようで、まるで何かの不安感に苛まれているかのように表情が、そして感情の表れもいつもより非常に固い。その様子にミレイナは怪訝な表情を浮かべ、利道はジッと彼女のことを見つめた。それに対してヴァーディアは咄嗟に彼から目を逸らしたが、逆に彼は視線を向け続けた。そんな状況が少しだけ続いたが、利道は途中で溜め息を一つ漏らし、改めて口を開いた。



「君たちは一度も会ったことが無い、それも名前も知らない人が、知らない場所で死んだと聞かされて、どう思う? そうだね、取り敢えず遠い地で冥軍に襲われてる他人でも思い浮かべてみようか…」



 利道に問われた3人は、想像してみる。自分達が向かう遥か遠くの地で、そして今まで冥軍に襲われ、命を散らしていったであろう人々の惨劇を。

 騎士として冥軍の被害を受けた現場を見たことがあるローグは、悲痛な表情を浮かべている。当時その場に居なかったとは言え、国の守護者として何も出来なかった上に、上司の命令で愚行に走り掛けていたことに対してやりきれない思いを抱いているのだろう。直接冥軍に襲われたことのあるミレイナは、先日の事を思い出したのか顔色が悪い。あの時に感じた恐怖を誰かが同じように味わっているのかと思うと、心の底から同情せざるを得ないようだ。そして、ヴァーディアはどうかと言うと、良く分からなかった。彼女が何を考えているのか分からないのは良くある事だが、今回は何故か無表情を浮かべていた。ただ、流石にいつものようなふざけた様子は無いので、彼女なりに真剣に考えているのかもしれない。

 とにかく、返ってきた反応は三者三様だった。しかし、良い感情を抱かないと言う点に関しては、3人とも同じであると言えるだろう。それを確認した利道は、本題である2つ目の問いを彼らに投げかけた…



「では次に、君達にとって馴染みがあって、とても親しい人が、自分の目の前で冥軍に殺されてしまったとしようか。その時に君たちが抱いた悲しみや怒りの大きさは、赤の他人が死んだ時と同じかな?」



 その問いを耳にした直後、彼らは息を呑んだ。反射的にローグは自分の仲間が全滅させられる光景を、ミレイナは故郷である集落が家族と住人ごと滅ぼされる光景を想像し、先程とは比較にならない負の感情を抱いた。見知った顔を持つ人々が、絶望を振りまく冥軍に切り裂かれ、嬲り殺すかの如く蹂躙されていく光景を鮮明に思い浮かべてしまい、片や言葉に出来ない怒りを覚え、もう片方は限りない恐怖を感じて僅かに身体を震わせていた。

 そして視線を利道に向けると同時に、彼の問いの意味に気付く。1つ目の質問も2つ目の質問も、起こりうる、もしくは起こったであろう惨劇を想像するという、根本的な部分は同じだ。しかし、それにも関わらず、想像する内容の具体性が増しただけで、湧き上がる感情の強さはここまで変わるものなのだ。



「人は漠然としたモノの為には、そこまで本気になれない。でも、それがちゃんとした形をとっている、もしくは自分の中でハッキリと存在を実感出来るのであれば話は別だ。大切なモノが自分の前に在ることの尊さと、失った時の絶望を鮮明にイメージ出来る人は迷わないし、誰よりも必死になれるものだよ」



 ある意味それは、紛うこと無き感情論。実際、如何に気持ちや想いが強くとも、それに見合うだけの力がなければ、何も実現することは叶わないだろう。だが同時に、まともな人間と言うのは、自身の感情に突き動かされながら生きているものだ。故に、どんなに大きな力を持っていても、それを使う理由と意思を自分で見出せない限り、その真価を発揮することは愚か、挙句の果てには最後まで使わずに人生を終える場合もある。



「そして、人はそれぞれ自分の中に優先順位を持っている。生きている間に見つけ、集めていった、自分の心を突き動かし、自身の在り方を決める存在や要素。その中から、誰もが一番大切に思っているものを自然と選び取っている」



 友人、家族、忠誠、正義、我欲、野望、趣味、金、愛、…形と中身、数や大きさに関係なく、人の心を占めうるものは数多く存在する。そして人が人である限り、その中の一つだけでは満足出来ないと同時に、全て平等に大切にすることは出来ないし、全ての人間が同じ基準になることは無い。

 人によっては、他人のそれをくだらないと称し、鼻で笑うことだろう。だが逆もまた然りで、鼻で笑った本人が大切にしているものが、他の人間にとってはゴミ程の価値にもならない時がある。自分にとっては壊されても笑って許せる程の価値しかないものが、他人にとっては命よりも大事で、それの為なら全てを投げ打ってしまう時もあるのだ。



「自分の大切なモノの為に何を懸け、何をするのかは人それぞれだ。命を懸ける者、他人を貶める者、あらゆる存在を巻き込む者。そして、その為に世界を救う者も居れば、世界を滅ぼそうとする者も居たのは、ある意味必然だったろうさ…」





◆◇◆◇◆◇◆





「クソッ、どうしてこんなことに…」



 帝国と王国の二大勢力によって長きに渡り停滞した、ベルフィーアの世界情勢。その沈黙を唐突に打ち破ったのは、帝国側であった。かつて全てを滅ぼしかけた世界大戦の再現を恐れることなく、彼らは必要最低限の数だけ残し、保有する殆どの航空艦隊を動員した総攻撃を躊躇無く実行したのである。

 長く続きすぎた冷戦状態のせいで軽く平和ボケしていたこともあり、王国軍は当初大混乱に陥ったが、すぐに軍備を整えこれを迎え撃った。しかし、予想外なことに戦況は一方的なものとなる。その主な理由は、帝国軍が空白地帯の空賊を片っ端から集め、艦隊に組み込み、その戦力を増強していた点が大きい。明確な勢力も境界も無い空白地帯とは言え、その広さは帝国と王国を合わせたもの等しく、それに比例して空賊の数もそれなりに多い。それに目を付けた帝国は、今回の軍事作戦に彼らを利用することを計画したのである。その結果、今回の軍事作戦の為に金で雇い召集した空賊達の数は、帝国艦隊全体の2割を占めるまでに膨れ上がっていた。

 この圧倒的な戦力差に加え、空賊経由で漏れた王国軍の重要拠点の所在や、機密の補給ルートが悉く発見されてしまい、最終的に空白地帯における王国軍の勢力は、開戦から数日でほぼ呆気ないまでに壊滅してしまったのである。



「我々は決して負けていなかった。なのにどうして、どこで間違えたと言うのだ…」



 空白地帯から王国勢力を一掃した帝国艦隊は、そのまま王国本土まで進撃し、ついに空白地帯との境界でもある国境…彼らの絶対防衛線へと辿り着いた。ここまで破竹の勢いで進んできた帝国艦隊は、勢いのままに本格的な侵攻を開始。ここを突破されれば後が無いということもあって、王国軍の抵抗も激しく、戦闘はこれまで異常に激化し、長く続いた。そして…



「司令、間もなく中間地点です。そろそろ、本国に報告を…」


「……あぁ分かっている、分かっている。クソ、忌々しい…」



 結果から言うと、本土侵攻は失敗に終わった。王国軍の激しい徹底抗戦によって、予想よりも艦隊に大きな被害が出てしまい、やむなく作戦を断念することになってしまったのだ。まだまだ戦闘の継続は可能だったが、この部隊が帝国軍の保有する艦隊の殆であることを考えると、無闇に戦い続けることを躊躇してしまったのである。

 これまでの空白地帯における獅子奮迅ぶりを加えて考えれば、帝国史上最大の大戦果であることは確かだろう。現に何か起きない限り、今の空白地帯は実質帝国の勢力下にあると言っても過言では無い。しかし逆に、これまで順調だったからこそ、彼はこの結果を素直に受け入れることが出来ないでいた。不本意な帰路につく艦隊を艦橋で見やりながら、部下の前であるにも関わらず彼は喚き続ける…



「私はもう少しで、長きに渡る忌々しい歴史に終止符を打つ英雄になれたんだ。なのに今は、まるで負け犬のように尻尾を巻いて逃げている。こんなの、話が違うじゃないか。何が空賊、所詮は…」



 憎々しげに何かを吐き捨てようとした時、突如として艦内が騒がしくなった。何事かと副官に目で尋ねるが、彼も分かっていないようなので、直接近くに居た管制官を問いかける。



「何が起きた?」


「あ、いえ。どうやら誰かが、通常回線を使って何かを繰り返しているみたいなんです…」


「通常回線で?」


「えぇ、これです」



 そう言って管制官は司令に聴こえるように回線を調整した。すると、艦内に件の通信が流れる…



『……繰り返す。時は来た、総員、旗を掲げよ。繰り返す、時は…』



 流れたのは、意味不明な言葉。しかし、その言葉に何か嫌な予感を覚えた提督は、この通信の発信源を特定させる指示を出すべく、口を開こうとしたのだが…



「おい、オライオン号が信号弾を上げたぞ」


「青い信号弾? あんなものあったか?」


「待て、オライオン号だけじゃない。ニーズヘッグ、ドレッドノート、空賊達もだ…」


「なんだ、あいつら何のつもりだ?」



 突如として、帝国艦隊の至る所で青い信号弾が打ち上げられた。所属部隊や艦種を問わず、空賊部隊に至っては一隻残らず青い光を空に上らせていた。そんな彼らの謎の行動に、一隻も信号弾を上げなかった第一艦隊は勿論のこと、それぞれの部隊も僚艦の奇行に戸惑っていた。だが、次の瞬間…



「ッ!? オライオン号より砲撃を確認、目標は当艦です!!」


「いかん、急速回避ッ!!」


「ま、間に合いません!! うわああああぁぁぁ!?」



 突如、信号弾を打ち上げた全ての艦が、自らの手で帝国艦隊を攻撃し始めたのだ…



ここまで来てエタりたくないのも本音ですけど、改めて書いてみて実感しましたが、正直もう限界かもしれません;

いっそ最初から書き直すか、それともこの半年で構想し続けた新作を書くか……あるいは、その両方か…

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