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第二十八章 四の兵士

この話、ぶっちゃけ要らなかったかもしれません…;



 空賊の勧誘を蹴り、挨拶もそこそこに彼ら3人と別れた利道。何をするにしても、もう少しこの世界の情報が欲しかった為、まだ何かしら役立つものが残っているかもしれない、自分が召喚された例の遺跡へと足を運んだ。ところが…



「……何がどうなってる…?」



 出発した時には人っ子一人居なかった筈なのに、戻ってみると先ほど出会った少女と似たような装備で身を固めた数人の装甲兵が、遺跡の周りを包囲していた。人数は目に見える範囲だけで10人前後、全員SFチックな近代兵器で身を固めており、それなりの手錬なのか僅かな身のこなしにさえ隙がない。

 あそこに居る者達が全員さっきの3人と同等の実力者であるならば、正直言って堪ったものじゃない。とりあえず身を隠し、彼らが去るのを待とうも考えたのだが、全く持って帰る気配が無い。やはり彼らの目的は遺跡、もしくは自分なのだろう。だとしたら、いつまでもここに居る訳にはいかない… 



「とにかくここから離れ……ッ…!?」



 そこまで言って言葉を切り、その場から慌てて飛び退いた。それとほぼ同時に、自分が居た場所に数発の弾丸…それも青白い稲妻を纏った、電磁銃の弾丸が飛来し、地面を大きく抉った。



「居たぞ!!」


「殺すな!!生け捕りにするんだ!!」



 そんな言葉が聞こえてきたと思ったら、兵士達が居た方から怒号と嵐のような銃撃と砲撃が飛んできた。次々と襲い来る弾幕は、本当に生け捕りにする気があるのか疑いたくなる程濃密で、周囲に佇む森の木々が一瞬にして跡形も無く吹き飛んでいく。そしてほんの数秒で、利道がさっきまで隠れていた場所は何も無い更地へと変わり果ててしまった…



「逃がさん…!!」


「おわッ!?」



 悪夢のような破壊の嵐に追われ、全力で森の中を駆け抜ける利道だったが、殺気を感じて上を振り向くと、良く切れそうなナイフを手に、飛び掛るようにして自分に襲い来る装甲兵の姿を捉えた。こんな近くに接近されるまで気付けなかった事にも驚いたが、すぐさま夜羽を抜き放ち、相手のナイフを持ち主ごと弾き飛ばした。



「ぬ!?」



 勢い良く弾き飛ばされた装甲兵は少し驚いたかの様な声を出したが、空中で姿勢を難なく整えて綺麗に着地した。そして殆ど動揺することも無く、丁度追いついてきた部下達に野太くて大きな声を響かせた…



「油断するな!! 情報通り、コイツは魔衛騎並の実力を持ってる!!」


「1人で突っ込むな!! 連携して確実に攻めろ!!」


「了解!!」



 指示を受けた彼らは即座に従い、二人一組になって利道を包囲するように陣取り、一斉に襲い掛かってくる。身に纏う装甲に秘密があるのかどうかは知らないが、彼らのその動きはとっくに人間を凌駕していた。目にも留まらぬ速さで動き、進行ルートにある障害物には掠りもしない。その上、動きながらにも関わらず射撃も的確で、何発か避け切れず夜羽で叩き落す羽目になった。

 


(厄介な…!!)



 この状況に対し、利道は思わず舌打ちをしたくなった。敵方の個々の実力は確かに凄まじいが、自分や魔王を撃退した3人と比べると数段劣るものであるようだ。だが気が抜けない強敵である事に変わりなく、そんなのが何人も居るとなると話は別である。こんなのを10人も同時に相手にしていたら、最終的に追い詰められるのは確実に自分の方だ。どうにかこの状況を打破するべく、利道が策を練ろうとした、その時だった…



「ッ!?」


「ぐあッ…!!」


「な…!?」

 


 距離を詰め、今まさに利道に襲い掛かろうとした二人の機兵が、どこからか飛んできた赤い閃光に吹き飛ばされた。二人の兵士はそのまま地面に叩き付けられ、ゴロゴロ転がった後、やがて動かなくなってしまった。その赤い閃光に魔力の気配を感じた利道は、反射的に光が飛んできた方向へと視線を向ける。



「魔導砲!? 王国軍かッ!!」



 利道の視界に中世ヨーロッパ風の騎士達が映り込んできたのと、帝国の機兵が叫んだのほぼ同時だった。王国の騎士達は魔方陣を展開し、魔法を放ちながら機兵に勝るとも劣らないスピードで此方へと迫ってくる。 



「レーダーに反応!! 砲激魔導兵10、近接魔導兵4、魔衛騎2!!」


「軍曹、お前はニクソン達と共に標的を仕留めろ!! 残りは俺に続け、奴らを迎え撃つ!!」


「了解!!」



 この王国軍の乱入により、状況は更に混沌としたものへと変わった。先程まで利道の事を追い詰めていた機兵の大半は、迫りくる王国の騎士達へと向き直った。そして両陣営の戦士達は、大きな轟音を響かせながら派手に衝突した。

 尋常じゃない威力を持つ銃撃と魔法が飛び交い、目まぐるしいスピードで何度もぶつかり合う。機兵と騎士一人一人がすれ違う度に衝撃と爆音が森を駆け抜け、近くにあった木々は薙ぎ倒され、巻き込まれたモノは全て消し飛んでいく。

 この様な激しい戦場は、己の師匠である雨之宮天牙の居たソーサレイドでも中々お目にかかれない代物である。命の危険を感じるほどに苛烈な戦場は随分と久々である…そんな風に感じた利道は、このベルフィーアとう世界では日常茶飯事であるこの光景に、思わず目を奪われてしまった。



「死ね…」


「うおッ!?」



 その為、またもや不意を突かれて冷や汗を掻く羽目になった。一人の騎士が双剣を構え、飛び交う弾幕を潜り抜けながら一気に距離を詰めてきたのだ。魔法で速度を極限まで高め、振り下ろされた魔剣を利道は夜羽でいなし、そのまま流れるような動きで突きを放ち反撃する。割と本気で放たれた一撃は、余波だけで刃の軌道上にあった木々を吹き飛ばした。しかし双剣の騎士は殆どゼロ距離で放たれたその攻撃を空へと跳躍し、紙一重で避けた。利道は思わず苦い表情を浮かべ、逆に利道の実力の一端を目にした騎士は、空中で顔に驚愕と称賛の色を浮かべながら彼を見下ろす…



「……やるではないか、異世界人…」


(…強いなぁ……)



 ほんの少し手を抜き、魔法を使わなかったにしろ今の攻撃は相手を仕留める気で放ったものだ。それをギリギリでとは言え、完全に躱されたとなっては心中穏やかではいられなかった。これまで自分と互角、もしくは格上の相手というのは、自分の師匠である天牙をおいて他に存在しなかったのである。

 今までこの様な可能性を全く考えてなかった訳でも無いが、いざ状況に直面してみるとやはり冷静でいるのは難しい。かつてのゼルデにさえ、勇者としての自分が本気を出さねばならなかった相手など、殆ど居なかったのだから…



「では、これならどうだ…!!」



 魔法で空に佇む騎士が叫ぶと彼の周囲に突如、握り拳ほどのサイズを持つ火の玉が複数現れた。やがてその火の玉は一か所に集まり、瞬時にして人間一人分の大きさに変化した。そして更に…



「我が障害を燃やし尽くし、我に灰塵の導きを!!」



 騎士がそう唱えると、火の玉の集合体は一瞬で50メートル程にまで巨大化し、竜の姿を形とって利道を睨みつけた。利道は思わず呆気にとられてしまったが、炎竜が猛スピードでこっちに迫って来たのを見て我に返り、腰を深くしながら居合のを構えを取る。そして炎竜が間合いに入った瞬間…



「断界絶空ッ!!」



 半径数十メートルに渡り隙間なく放たれた斬撃の結界は、利道に迫りつつあった炎竜を一瞬にして消滅させた。魔法を防がれた騎士は、さっきの利道と同様に今の技には自信があったのか、あからさまに動揺していた…



「チッ、なら次は……ッ!?」



 忌々しそうに舌打ちし、次の攻撃に移ろうとした騎士だったが、そんな彼目掛けて青白い閃光が放たれた。彼は咄嗟に身を捩って躱し、閃光…電磁銃の弾丸が飛んできた方向を睨みつけながら怒声を上げた。



「邪魔をするな、猿共ッ!!」


「抜かせ化け物風情がッ!!」



 騎士は利道から狙いを変え、魔法を放ちながら横槍を入れてきた機兵の方へと突撃していった。対する機兵の方も銃弾を放ちながら、近接用装備を構えて相手を迎え撃つ。そして両者は大きな音を立て、正面からぶつかり合った。力量は互角のようで、互いに一歩も退かず、激しい攻防を繰り広げていた。その最中、2人の意識が利道に向けられる事は一切無かった。

 他の者達も似たようなもので、全員目の前の相手に手一杯なのか利道に向かって来る事はおろか、視線を向けて来る者さえ居なかった



(い、今の内に…!!)



  逃げるチャンスが来たと知るや否や、利道はゼルデで授かった黒い翼を展開した。奥の手として魔法と一緒に使うのを躊躇っていたが、今はやむを得ない…



(何の方針も決めてないのに介入する訳にもいかないし、今は兎に角この場から離れるのが先決ッ…!!)



 この両陣営の戦いを止めるべきなのかもしれないが、世界の情勢も事情も碌に知らないまま首を突っ込んで失敗するのは前回ので懲りた。ましてや、今まさに目の前で戦ってる連中は両方とも自分の事を狙ってる。故に今回は、とにかく逃げに徹する。

 即座にそう決断した利道は翼を羽ばたかせ、この戦場から飛び去った。その時、去って行く彼の姿を見ていた者は、誰も居なかった…











「初見で空白地帯の戦場、それもベルフィーアにおいて最強の名を冠する、『対魔装兵』と『魔衛騎』に遭遇して無傷か……ククッ、コレは本気で欲しくなってきやがったぞ…」



---遠くからずっと戦場の様子を窺っていた、1人の空賊を除いて…




◇ベルフィーアの基準(↓)

世界戦争>>(超えられない壁)>>通常の戦闘>>魔王の活動



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