第二十七章 四の現実
タイトルを『七界勇者の回想録』に変えようかと思ってるんですが、皆様どう思いますか…?
『グオオオオオオオオォォォォォッ!!』
「おわッ、まだ生きてやがったか!!」
青いコートを纏った金髪に踏み付けられていた魔王は、雄叫びと共に彼を押し退ける様にして勢いよく立ち上がった。そして彼が背中から退いた途端に己の腕を刃に変形させ、目にも留まらぬスピードで紅い装甲機兵の少女に向かっていく。ところが、殺意と怒りの矛先を向けられた当の本人は…
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォ!!』
「うるっさいッ!!」
『オオオオオオオオぎょぼあッ!?』
刃が振り下ろされる直前、カウンター気味に魔王の顔面へ拳を叩き込んでいた。魔力を纏っていないにも関わらず、彼女の放った拳は衝撃の余波だけで周囲の木々を揺らすほどの、洒落にならない威力を持っていた。予想外の攻撃と威力に魔王はよろめいてしまったが、目の前の紅戦士は動きを止めない。魔王を殴った勢いをそのままに彼女は体を回転させ、人間が受けたら即死しそうな回し蹴りを放った。そんな蹴りを受けてしまった魔王は先ほどより大きな轟音を響かせ、あらゆる障害物を薙ぎ倒しながら吹っ飛んでいった。その時のスピードは、少女に斬りかかった時の倍はあったかもしれない…
『ゴ、ゴァ…ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
そのまま地の果てにまで飛んでいきそうな勢いだった魔王だったが、数百メートルほど進んだあたりでどうにか止まることが出来たみたいだ。そして接近戦では勝てないと思ったのか、今度は魔法で攻撃を仕掛けるつもりのようである。湖どころか川すら無かったこの場所に、魔王が立っている場所を中心に山のように大きな水柱が立ち上ったのだ。
「面倒ね…」
「じゃあ、僕がやろうかな?」
少女がナイフと拳銃を取り出しながら、本当に面倒臭そうに呟いた途端、黒髪の猫耳騎士が魔力が篭められた槍を手に前へ出た。それと同時に魔王が生み出した巨大な水柱は崩れ落ち、大洪水という形に姿を変えて彼らに襲い掛かった。小さな街位なら簡単に沈めてしまいそうな規模で、森を飲み込みながら襲い来る水の大群。それに向かって彼は手を翳し、一言呟いた…
「凍てつけ」
『ごッ!?』
たった一言…たった一言呟いただけで、天災そのものを再現して生み出された魔法の大洪水を一滴残らず全て、瞬時に凍りつかせてしまった。緑で溢れる大森林地帯の一角が、彼らを中心にして氷河時代へと変わり果てていた…
「砕けよ、我が刃となりて悪鬼を滅ぼせ…!!」
彼が一言発するだけで氷河が全て無数の破片となり、その欠片が一つ残らず氷の剣へと姿を変えた。全ての氷剣に魔力が篭められているようで、数百はあろうかという氷剣の一つ一つから計り知れないプレッシャーが発せられていた。そんな物騒な代物を一本残らず向けられたとあって、流石に魔王も自身の命の危機を感じたみたいだ。感情も理性も持っていないにも関わらず、黒い顔と赤い目に恐怖の色を浮かべ、踵を返して飛び去ろうとする……だが…
「やっと思い出したぜ…お前、魔王だろ?」
『…!?』
「おっと、今更逃がすと思うか…?」
魔王が振り向くとそこには、さっき自分を踏み付けていた金髪の男が立っていた。慌てて刃に形を変えた腕を振るって斬り殺そうとするが、彼の方が早かった。気付いた時にはサーベルで腕を斬り飛ばされ、地面へと蹴り倒されてしまう。失った腕を回復させ、すぐに起き上がろうとするが、その前に再び男に踏み付けられ、身動きが取れなくなってしまう。
『…!?…ッ!?』
「なんか最近、亡霊達が騒がしいと思ったら今年がそうだったのか。どれほどのモノか気になってはいたが、正直言って期待外れだな。お前程度の実力者、少ないのは確かだけど珍しい訳でも無い…」
魔王は混乱していた。二千年前の自分は無敵であり、この世界のあらゆる存在を蹂躙した。千年前は一部の者に抵抗されてしまい、全てを破壊するより先に己の活動期間が終了してしまった。魔王である己は魔力も生命力も、他の存在よりも桁違いな程に優れている。
---だが、この状況は何だ?
----千年前の連中とは比べ物にもならない実力を持った、この者達は何だ?
---魔王である己を圧倒する、この者達は何だ?
---この己を足蹴にし、その黒い剣で我が首を刎ねようとする、貴様は…
「じゃあな。俺が地獄へ落ちた時にでも、また会おうや…」
その日、ベルフィーアに二度の絶望を齎した魔王は、人知れず消滅した…
◆◇◆◇◆◇◆◇
「魔王のせいで滅びかけた千年前のベルフィーアの人達は、来たるべき千年後の魔王襲来に備えて異世界から戦士を呼ぶ事に決めた。けど、やっぱり千年ってのは長いものでね…」
千年間という長い期間を経て、ベルフィーアという世界は大きく変わっていた。かつて大陸を埋め尽くしていた小国の数々は、とっくに無くなっており、利道が訪れた当時のベルフィーアに国家というものは二つしか存在しておらず、亜人や盗賊達が住処とする地図上の空白地帯があるだけだった。
その空白地帯が大陸の半分を占めており、残りの半分を大陸の最南端と最北端に位置する二大国家が更に半分ずつ所有している…それが、あの時のベルフィーアという世界である。
「おまけに、その二大国家は八百年程前から戦争中でね。そのせいか、千年前の人々の予想を遥かに上回る形で、あらゆる技術を発展させていたよ…」
魔法主義国家『マルディウス王国』、科学主義国家『キルミアナ帝国』。この二大国家の戦争は苛烈を極め、気が遠くなるほどに長く続いていた。ゼルデの時と違い、両者の総合的な力が互角である事が要因になったのか、ベルフィーアの魔法と科学の進歩は留まる事を知らなかった。特に戦闘面に関しては、それこそ世界を破滅に追い遣る存在を3人で撃破出来る程だ。
王国には、利道が幼い頃に読んだ絵本に出てくるような…魔力に形と性質を持たせて発射するだけのゼルデの魔法では、到底真似できないような高度な技術が溢れていた。そして帝国には地球よりも進んだ、自分の世界の百年先を見たかのような気分になった。
---そして、そんな世界で生きる人達も当然ながら、とんでもない猛者ばかりだった…
半人前の魔法使いでさえ自然を操れるし、上級者なら天変地異そのものを起こせる。その様な化け物染みた連中に、魔法以外のあらゆる手段を用いて渡り合う者達も居る。それが王国と帝国の兵士達であり、当時のベルフィーアの民の常識である。その現在の人々にとっての常識的な強さとは、千年前の人々が想像だにしなかった領域であり…
「早い話、千年前の人々が未来を見誤った…というか、ベルフィーアの人達が強くなり過ぎたせいで、僕の召喚は全くの無意味になったんだよね。あははは……」
「………」
「……何てリアクションすりゃ良いのよ…」
軽く笑って見せる利道だが、話を聞いたヴァーディアとミレイナは微妙な表情を浮かべた。気合を入れて魔王退治に赴いた結果、こんな予想外な事態に直面した時の彼の心情は、いったいどんなモノだったのだろうか…?
「それよりも利道様、魔王が討たれた後はどうなさったので…?」
魔王を討つ為に召喚された利道だが、肝心の魔王は剣を一度も交えること無く消滅してしまった。完全に用無しの身になった彼だったが、果たして…
「あぁ…とりあえず、魔王が消えた後も草むらに隠れて様子を伺ってたんだけどね……」
---ヴァーディアの疑問に答え始めた彼は、ベルフィーアの事を語り始めた時と同じような遠い目をしていた…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「異世界召喚ねぇ…そういえば帝国のアニメに、似たような話が幾つかあったな……」
「アニメって何?」
「何って…あぁ、王国の方にはテレビも漫画も無いのよね」
大航海時代の船乗りの様な格好をした金髪に、中世ヨーロッパの騎士の様な姿をした猫耳に、SF映画に出て来そうな装甲兵士(女性)と見た目に殆ど統一性の無いこの者達は、自分が直感的に脅威と感じた魔王を一蹴してしまった。利道の見立てに間違いがなければ、一人一人は魔王と互角の実力者。そんなのが自分以外に三人も居ることにも驚きだが、それよりもまずは…
「あの…」
「ん?」
「そろそろ、この鎖を解いてくれると嬉しいんだけど…」
現在、利道は光り輝く鎖にグルグル巻きにされた状態で、正座しながら三人を見上げるような状態になっていた。夜羽は金髪に取り上げられ、現在は彼の手でクルクル回されながら遊ばれている。
草むらに隠れながら、魔王の最後を見届けた利道だったが、そのまま迂闊に三人の前に出る気にはなれなかった。ましてや装甲兵の少女の方は未だに機嫌が悪いようで、魔王が居なくなった後も仲間(?)の金髪に当り散らして、それを猫耳の少年に宥められていた。今後の事も考えなければならないので、取りあえずコッソリ逃げようとしたのだが、気づいた時には自分の身体に光のロープが巻きついていて…
「別に良いけどその前にアンタ、この後はどうするつもりなんだ…?」
「へ…?」
「いや、アンタの目的である通り魔…もとい、魔王退治は俺達がやっちまった。だけどアンタを信じるなら、どういう訳か帰れないんだろ?」
「……うん…」
一応、自分の事は全て話した。与太話と笑われるかと思ったが、どう言う訳か伝承やら言い伝えに詳しかった金髪の男…『ヴァン・リーガロッド』という空賊のお陰で、一応は信用して貰えた。そして彼の言うとおり、魔王が消滅してしまったにも関わらず、未だ元居た世界に送り戻される兆しが一切無いのだ…
「となると、どの道アンタは暫くはこの世界に留まる事になるだろう。だが、アンタの身元と体質が少し厄介でなぁ…」
自分が現れた例の遺跡には、帰る為の手掛かりになりそうな物は殆ど残っていない。そうなると、必然と頼りになりそうな場所は限られてくるのだが…
「先に言っとくけど、キルミアナ帝国はやめときなさい。確実に解剖されてホルマリン漬けにされるわよ?」
「マルディウス王国も、やめといた方が賢明だよ。死ぬまで利用されるのは間違いないし、場合によっては異端者として処刑台に直行かも…」
異世界の技と力を持った、異世界人…それがベルフィーアにおける自分。装甲機兵の彼女…『フィノーラ』曰く、打倒魔法国家の帝国は未知の力を解明するべく、利道を実験動物として扱う可能性があるということ。そして黒猫の方、『アスト・フランデレン』が言うには、魔力を持っている事に変わりは無いのだが、異世界の魔法は邪教として扱われ、どっちにせよ碌でも無い未来を辿る事になるそうだ。
見た感じこのフィノーラとアストは、件の帝国と王国の兵士の様に見える。そんな二人が何で自分にこうも親切にしてくれるのか気にはなったが、この忠告によってある事実に気付かされ、それどころでは無くなった…
「いや…確かこの世界って基本的に、その二大国家しか無いんだよね?ということは、もしかして…」
「そう、だね…」
「当分は…」
利道の言葉にフィノーラとアストは、気不味そうに視線を横に向けた。利道もつられて横を向くとそこには、腹が立つほど良い笑顔を浮かべた空賊が居て…
「ようこそ、地図上の空白地帯『イトリア無法区域』へ!! 現状身寄りも後ろ盾も無い無職で文無しな異世界勇者様に早速相談だ…俺が暫くテメェの生活の面倒を見てやる。代わりに、その未知の力とやらを俺に貸してくれ!!」
「お断りします」
盗賊に身を堕とすくらいなら、サバイバルでも何でもした方がマシである。それに、自分にはゼルデでの放浪生活の経験があるにで、特に不自由はしない筈だ。そう思い、この時は即座に断った。だが、どういう訳か自身の申し出を断られた空賊は笑みを消さなかった。あの時の笑みの意味を、もっとちゃんと考えていればと、後に心から後悔した……何故なら…
「ねぇ、フィノ…」
「なに?」
「彼、3日保つかな…?」
「……無理でしょ…」
---この翌日、利道は前言撤回して空賊の仲間入りを果たすことになる…




