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第二十六章 四の三人

1ヶ月以上振りの更新で御座います。


しかし昨日、突然お気に入り登録数が50以上も増えて驚いたのですが……いったい何が起きた…;


 最初は森の中、次は山奥で、その次は空の上。ゼルデの時の様に死に掛けない限り、もうどこに召喚されようが驚かないつもりだった。しかし、その決意は早速崩れてしまった。



「……今度は棺桶かい…」



 目を開けても視界は真っ暗な上に、何だか狭くて身動きが取れない。自分が何かに閉じ込められているというのは分かったのだが、いつまで経っても何も起こらないので、とりあえず目の前を本気で蹴りつけてみた。すると案の定、今回もこれまでの世界で習得した能力は健在のようで、視界を遮っていた暗闇…棺桶の蓋は凄まじい勢いで吹き飛んで行った。



「ゼルデの件が終わってから、まだそんなに経ってないと思ったんだけどなぁ…」



 棺桶から出て周囲を見渡すと、自分が現れたのはどこかの遺跡のような場所の一室であった。何と書いてあるのか一切理解出来ない文字や、祭壇やら彫像がところ狭しと並んでいる。そして自分が召喚された棺桶は、そんな割と不気味な場所の中央に置かれていた。あからさまに今回も、自分は何かをする為に呼ばれたようである…



「これ見よがしに聖剣…しかも日本刀なんて置いてあるし、ほぼ確定だね、これは……」



 棺桶の隣には、騎士の銅像が跪きながら自分に刀を捧げていた。短くない異世界召喚生活で身に着けた力と勘が、その刀がただの鉄の塊では無い事を物語っている。どうやら今回の旅の相棒は、やたら魔力が溢れているこの黒い日本刀のようだ。



「……今度は、もっと上手く出来るかな…」



 ゼルデでの失敗を思い出して苦い表情を浮かべながらも、利道は躊躇うことなく聖剣を手に取った…





◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「か、棺桶って…」


「それは…一応、意味があるんでしょうか……?」


「いや、後で調べて分かったことだけど、勇者伝説を作った人の趣味らしい」



 はた迷惑な王国騎士団を蹴散らした後、自分の事を追いかけてきたヴァーディア達と合流した利道。まだ色々とやる事が残ってるのでこの場を離れられず、二人には先に集落へ戻るように言ったのだが、彼女たちは首を縦には振ってくれなかった。しかも道中にヴァーディアがまた余計な事を口走ったらしく、今度はミレイナまでもが自分の昔話を聞きたいと言い出す始末だ。

 暫く『帰れ』と『だが断る』の応酬を繰り広げていたのだが、気付いたら既に夕方になってしまい、女の子二人だけで帰らすには危険であり、けれども自分が送り届けるということも出来ない状況に陥ってしまった。なので帰らすことは諦め、彼女たちを守りながら用事を済ませるという選択をとる羽目になったのである。今は適当に集めた薪を燃やし、三人で焚き火を囲みながら、利道が四回目の異世界召喚の際に訪れた世界、『ベルフィーア』での記憶を語っていたところである。

 

 

「それで『夜羽よはね』…あ、置いてあった聖剣の事ね。それを手に取った瞬間、その世界の知識と僕が担わされた役目の内容が、一気に頭の中に流れ込んできたんだ」  



 聖剣『夜羽』が教えてくれたベルフィーアという世界は、かつてのゼルデの様に多種多様な種族が存在しているようだった。それぞれが世界に一つしかない大陸の中に幾つもの小国を作り上げ、独特の文化を築き上げており、この世界は至って平和である。

 

 しかしそんな世界の平和は千年に一度、『魔王』という名の大いなる災厄によって脅かされる…



「魔王は千年に一度の周期で世界に出現し、世界に対して破壊の限りを尽くす。魔王に理性は無く、魔王は己の闘争本能の従い、ただひたすらに暴れるだけ…」



 遥か昔からベルフィーアに存在し、二度も世界に崩壊の危機をもたらした破滅の権化。聖剣曰く、魔王は世界に溜まった『負の感情』やら『魔力』やらが集まって形になったモノだそうで、その全てを発散させるか直接消滅させるまで暴れ続けるそうだ。世界千年分のストレスの力は絶大であり、2千年前の人々では全く歯が立たず、千年前に現れた時も多くの犠牲を出した。今回利道を召喚したのは千年前のベルフィーアの民のようで、魔王が千年後に再度現れることを見越して古代遺跡に召喚の術式を施したようだ。ご丁寧に魔王が出現する時期に合わせて…

 もう四度目の召喚な上に、ゼルデでの濃い経験をした後なので、『魔王』の存在を知ったところで特に思うことも無く、当時の利道は準備を整えてさっさと遺跡を後にした。魔王がどれほど強いのかは知らないが、倒すべき存在がハッキリしているというのは気が楽である。ゼルデの時のように、この聖剣に誑かされている可能性もゼロでは無いが、それも自分の目で直接確かめれば良い事だ。魔王が夜羽の言う通りに破壊の権化ならば戦うし、違うのであれば最善の道を模索すれば良いだけの話なのだから…



「でも、アレは流石に予想の斜め上を行き過ぎていたよ…」



 言いながら利道は、当時を思い出して苦い表情を見せた。そんな彼の姿にミレイナは怪訝な表情を見せ、ヴァーディアは思わず不安になった。けれど焚き火に照らされる利道の顔を良く見ると、ゼルデでの経験を語った時の暗い表情とは違い、心なしか本当の苦笑いを浮かべている様にも見える。思わずヴァーディアは、話の続きを促す意味合いも込めて彼に尋ねた。



「……何があったのですか…?」


「う~ん、また考えればすぐに気付けた事なんだけど…時が経てば世界っていうのは、すっかり様変わりするもんなんだよね。僕の世界だって二百年も経てば別世界の様に変わるし、千年もあったら尚の事だと思うけど…」





 人間が世界を変える速度は、時が経てば経つほど早くなる。文化も、技術も、習慣も、時代の流れに合わせて進化の速度を恐ろしいまでに加速させていく。それは人が進歩をそのものをやめない限り、不変の理である。



---そしてその理とやらは、ベルフィーアとて例外では無かった…



「取りあえず遺跡を後にした僕は、夜羽に導かれながら魔王を探しに行ったんだ。そしたら運が良いのか悪いのか、その翌日にいきなり魔王本人と邂逅したよ…」




 利道がそう言った途端、ヴァーディアとミレイナは息を呑んだ。幾ら利道が昔から強かったとは言え、よもや世界を滅ぼしかねない存在と唐突に遭遇したと聞いては気が気では無くなりそうである。そんな彼女達の表情を見た当の本人は、『取りあえず最後まで聞いて』と断りを入れてから話を続けた。



「大陸の半分を覆う、どこまでも続く深くて広い森…その中心に位置する、遺跡からあまり離れていない場所で魔王には遭遇したんだ。けれど偶然に居合わせたのか、そこには三人の先客が居た…」



 魔王を探し、魔王と同時に出くわした三人の人物。自分を補佐してくれる夜羽は、遺跡で知識を授けてくれた時と同じ方法で、彼らが純粋なベルフィーアの民であると教えてくれた。それでも当時の利道は、その事を素直に信じることが出来なかった…

 



「三人の内一人は、ミレイナと同じ様に猫型獸人族だった」



 その獸人族は騎士を思わせる全身真っ黒な軽鎧を身に付け、黒髪に黄色い瞳をしており、当時の自分と同い年の少年だった。彼の様な外見の持ち主はゼルデで見慣れていたので、その風貌自体には特に驚きはしなかったが…



「へぇ~、異世界にも私達みたいのって居るんだ…」


「……二つの意味で別次元な存在だったけどね…」


「ん、何か言った…?」


「いや、何でもない。それで二人目は、一人目と色々と正反対な女の子だった…」


「女の子!? 恋ですか!? ついに恋バナの時間ですか!?」

 

「生憎、彼女には既に相思相愛な彼氏さんが居ましたとさ……ちょっとヴァーディア、露骨に残念そうな顔しないでよ…」



 二人目の特徴は、本当に一人目とは真逆的であったと言える。紅い鎧…それも、SFものに出てきそうなパワードスーツの様なモノを身につけ、明らかに近代的な銃火器を装備していたのだ。そのせいで利道は、一瞬彼女が自分と同じ様に異世界から跳ばされて来た存在なのかと思ってしまった位だ。後にベルフィーアには魔法と科学が両方とも存在し、繁栄しているという事実を知ったので、どうにか納得はしたが…



「さて、騎士と兵士と来て最後の三人目だけど……彼は空賊だった…」


「……空賊…?」


「海賊は知ってますが、空賊って…」


「あぁ…この世界には、空を飛ぶ手段が殆ど無いのか。ま、そんなに重要な事でもないから良いか…」



 狐色の様な金髪に、船乗りの三角帽。そしていつも、青いコートを好んで着ていた。そんな彼は人々に『蒼風』という異名で呼ばれ、それなりに有名な男だったが、詳しくは後々語るとしよう…



「まぁ、取りあえず先客の三人はそんな感じ。で、肝心の魔王なんだけど…」



 自分がベルフィーアに召喚される理由にもなった、世界の災厄である『魔王』。黒猫獣人の髪よりも黒い闇を身に纏い、濃くて黒い煙みたいなモノが無理やり人の形を取っていたかのような存在だった。怪しげに輝く赤い目が奴の不気味さに一層の拍車を掛けており、形を一定に保ちきれないその体からは、半端無いプレッシャーが放たれていた事を、今でも良く覚えている…



「あの魔王を見た時は、直感的にヤバいと感じたよ。勝てないとは思わなかったけど、簡単に勝てるとも思えなかった。多分、状況によっては不意打ちや騙し討ちとか、卑怯な手段を使ったかもね……永遠にその機会は来なかったけど…」



 今でも目を閉じれば、あの時の光景は鮮明に思い出す事が出来る。幾つもの修羅場を経験し、四度目の異世界冒険を経験しようとする当時の自分でさえ、あの出来事は衝撃的過ぎる…




---何せ自分が喚ばれる原因であり、世界を滅ぼしかねない存在たる『魔王』は…



















『ちょ、落ち着いてフィノ!! 気持ちは分かるけど、分かるけど取りあえず落ち着いてッ!!』


『止めないでアスト、私の堪忍袋はもう限界なの。あなたとのデートを邪魔したヴァンも、いきなり襲いかかって来たコイツも、ボコボコにしないと気が済まないわ…!!』


『いや、邪魔するつもりは無かったんだって!!……それにしてもコイツ、結構手間取ったな…』





---例の三人の先客に、完膚無きまでにコテンパンにされていたのだ…




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