第一回:土のついた手と、行き止まりの夢2
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しかし、パラパラとページをめくると、そこには自分と同じ五〇代の、しかも田舎で副業をしているという著者の言葉が並んでいた。
「あなたの武器は、作業効率ではない。その手に宿る『経験』と『知恵』だ。AIは、あなたの言葉にならない想いを、世界に届けるための『翼』になる」
その一節が、美智子の胸を強く打った。
自分のこの土に汚れた手。消えない傷。大根の甘みを引き出すために、極寒の夜に何度毛布をかけ直したか。その「想い」は確かにある。ただ、それをどう伝えていいか分からないだけなのだ。
美智子は、恐る恐るスマホを取り出した。
本に書いてある通りに、青い鳥のようなアイコンのアプリ――Feloを立ち上げる。
画面の向こうには、真っ白な入力欄があった。
彼女は、震える指で、まるで見えない誰かに話しかけるように、一文字ずつ打ち込み始めた。
『私は、長野の山奥で小さな畑をしています。私の育てている「緋色大根」は、見た目は不揃いですが、都会の人にもその価値をわかってもらいたい。でも、どう伝えたらいいかわかりません。助けてください。』
送信ボタンを押すとき、心臓が痛いほど鳴った。
数秒の沈黙。
次の瞬間、スマホの画面が魔法にかかったように動き始めた。
まるで、美智子の隣に、ずっと彼女の苦労を見てきた優しい秘書が座ったかのように。
「緋色大根の魅力を伝えるための、情熱的なプレゼン構成案を作成します」
画面に躍り出たその言葉を見た瞬間、美智子の目から、ぽろりと涙がこぼれた。
五十数年、自分の中に閉じ込めてきた「伝えたいこと」が、今、光り輝く言葉となって溢れ出そうとしていた。




