第八十話 ルルとミル
今正人はミルの記憶の中にいる。前回、原初であり正人の主でもあるミルに邪魔された少し飛んだ続きから始まった。
声も前と変わらず出せない。あくまでも僕は見ているだけというわけか、結局...。
ミルは寝たふりを続けた。もう眠くないというのに、布団を被りわずかにモゾモゾとサナギのようだ。
目を閉じ、少ししたら薄く開けるを繰り返す。ミルもこの動作に意味が無いと内心理解していた。だけど... 少しでも苦しみを忘れるように眠りにつきたいのが感じられた。
目を開けて次は、いつ会えるか分からない人を待っていた。だからか焦りや寂しいといった感情を強く感じられた。
「……お母さん」と小さく掠れて呟く。眠りたい、寝たい。早く会いたい。
「…お母さん。フフ… ミルもやっぱり一緒じゃないか…」
ルルも聞こえるように話す。
「…原初様に早く会いたいんだよね。分かる…。私も一緒だから。私も原初様がいないと… 怖いよ。生きていることが怖くなる」
「…」
「ミルは怖くならない? 私は… いつも怖い。何で私は生きているのか分からなくなる。私達は元は人間で、原初様の血で吸血鬼になった。だから人間だった頃が嘘みたいに幸せで恐くなる。他の皆は受け入れている子や幸せとか考えない子がいる。…ミルと私は違うからここにいるのだけど、いつかここで過ごす内に忘れられると良いね…。皆と同じ普通の幸せを受け入れられるように」
「…うるさい」
「おっと! ごめん。少し自分語りをしてた。けど、ミルは今、幸せ? それとも辛い? だから原初様に会いたい?」
「…」
「また、だんまりかぁ。ミルは寝たふり、私は退屈。少しはかまってよ? 反省部屋仲間として…」
「…だったら。あなたはここに来ないよう努力すれば良い。他の真似をするみたいに、普通を演じれば良い。…私には出来ない。あの中に入れない」
「フフ。ミルは可愛いのにおかしな事を言うんだね! 面白いなぁ。それが出来たら苦労はしない。私も頑張ったよ…。けど… ダメだった。分かるんだ周りの子達は... 私が嘘つきだって… いつもニコニコ笑っていても、いつの間にか距離ができる…。ミルは出来ないというけど、ミルはまだ試したことも無いことを出来ないと決めつけているだけだよね。それは自分から他人と距離を取りたいミルの本心? それとも逃げ?」
「…うるさい」
「…そうだね。私の口はうるさい。ミルは… すごいよ。そうやって誰かと距離を取る勇気があって… 私は原初様に会いたい寂しさを誰かと居ることで埋めようとしたけど… 失敗しちゃった…。その勇気は、はじめから無かった」
「…そう」
ぐるりと布団を巻き込みより繭の形に近づく。
「…あなたに出来ないことを私に出来るわけ無い。それでこの話は終わり、だからいい加減黙ってくれる…?」
「…。ミルの親はどんな人だった?」
「…!」
ビクりとミルの体は動く。
「お母さんって…。人間だった頃はどんな生活をしていたの?」
「…あなたには関係ない」
「…う~ん、そう言われるとそうだけど…」
「それにこの屋敷に来る際に過去はあまり聞かないようビクターさんに言われているはずだけど…」
「そうだけど…。ミルは何も教えてくれないじゃないか? だから… 意地悪だと分かってても、もう少しお話したいなぁって…」
「…。…は?」
ミルは振り替えるように起き上がりルルのいるベットを見る。
「…ごめんなさいミル。話したくないって分かってて聞いた。だから…許してほしいって、言える立場では無いけど、ごめんなさい…」
ミルは呆れた。ルルには興味もなかったが、呆れという感情があった。
「…わかった。許すから、もう私には話しかけないで…」
ミルは再び寝ようとする。部屋に入る日差しから夕方くらいだと分かる。
「…それは出来ない」
「…じゃあ許さない」
「…分かったミル。許さなくて良いから私はミルに話しかけ続けるから!」
「はあ!?」
「だから、ミルは私を許さなくて良いから―」
「待って。繰り返さなくて良いから…。何であなたはそんなに偉そうに出来るの!? 私が決めることをあなたが決めないで」
「…そうだね。ミルが決めてほしい。私はミルと友達になりかったんだと。出会って日が浅くてお互いの事をよく知らないけど私と―!」
「…は? え… ちょっと黙って! これ以上先を言う必要無い。わ、私とあなたが…? ふざけないで…」
ミルは慌てた様子で話を遮る形で叫ぶ。
「あ…」と声に出し、先ほどの叫びか他の何かに驚いたようにミルは一瞬慌て、「ぐっ」と奥歯を噛むように言葉を飲み込む。
「ふざけてないよミル、私は全然本気だから。思いは伝えたい時に言わないと伝わらないと思う。嘘もない。私はミルと友達に―!」
「いやぁぁぁ聞きたくない!! 黙って! 黙れぇ!」
「友達になりたい」
「…あ。ウワァァァァ…!」
ミルは突如泣き出す。
「…え! えぇ!? ど、どうしよう… 泣かせるつもりは… え~と… とりあえず、ビクターさーん!」
ルルは扉を開け、部屋の外に向かってビクターの名を叫ぶ。
「ミルが泣いちゃったぁぁ!!?」
数秒後、慌てた様子のビクターが部屋に入ってくる。部屋に入った頃でもミルは泣くのを止めなかった。着ていた服やベットは涙や鼻水などの透明な体液で濡れていた。
「…! いかん、このままでは脱水症状が! ルル、何をした!?」
「何もしてないよビクターさん!? ただ… 友達になりたいって言っただけで…」
「…うわぁぁぁぁん! ルルのバカァァ! シネェ! キエチャエ… うわぁぁぁぁ!」
「…えぇ」とルルは困惑した様子だった。
「…とりあえず。ルル、ミルが落ち着いたら後で二人に事情を聞くとして、私は水を持ってくる。ルル君も来てくれ、今二人残すのは… 危険なため私の部屋に居るように… はぁ」
ビクターはため息を吐き部屋をルルと共に出る。
「…ぐすん、うっ…」
部屋が暗くなり、始めた夜。ミルは落ち着き始める。ビクターが持ってきたコップに入った水もまともに飲めないほど乱れた様子にビクターも胸に包むように優しく抱きしめ背中をさすり続けた。
赤子をあやす親の様に落ち着かせ続け、ミルは落ち着きを取り戻した。
「…ふぅ。やっと落ち着いたかミル」
ベタベタの服で、ミルの顔色を見て、笑顔で言う。
「…ビクター、さん? あれ… 私なんで泣いて…」
「…覚えてないのか? ルルと話してたら泣いたとルル本人から聞いたが…」
「…! あ、いや… そうでした。…うぐっ」
「…!」
ミルは再び泣き出しそうになり、ビクターは驚いた様子。
「ま、まぁ。ルルは今私の部屋にいる。…落ち着いてから二人に聞こうと思っていたが、ミル、君はなぜ泣いた? ルルが原因かい?」
「…違う。私が嘘つきだから。ビクターさん。やっぱり私はおかしいんです。私を一人にしないと…ビクターさんも傷つけてしまう…」
「…大丈夫ミル。君はおかしくない。だから… 落ち着いたのならルルに会ってくれるかな?」
「…分かった。けど、ルルの事が嫌いなのは本当だから… うるさくて、自己中で… 私の事を探るように聞いてくるあの子は… 嫌い…」
「…そうなんだね。ミル君は昼間に尋ねた子達を追い返したようだね? なぜだい… 君はあの子達も嫌いだからそうしたのかい?」
「…私にも分からない。あの時はつい… あの子達を追い返した。けどビクターさん。私は… 本当は追い返したくは無かったんだと思う。だって... 今もこんなに胸が苦しい気持ちになるはず無い… やっぱり私がおかしいから...」
「おかしくないよミル。それは君があの子達と友達になりたいって気持ちだ。次会う事があったら、ちゃんと謝って、お互い友達になれば良い」
「ビクターさん…これも病?」
「…ううん違うよミル。それは君に元からあるものだ。眷属だからじゃない、大事な君だけの特別だ」
「…そうなんだ。ありがとうビクターさん。少しだけルルに会って良いと思えた… 少しだけだから」
「…うん。じゃ行こうか? ルルのいる私の部屋に」
「…うん」
ミルはビクターと手を繋ぎ、部屋を出る。静かな廊下、辺りは似た扉と部屋を横切り、ビクターの部屋に着く。
「あ! ミル…」
ルルとミルは目が合う。ルルはミルと目が合うなり、視線を反らす。
「…はぁ。ちょっとあなた、目が合うなり反らすなんて卑怯者ね」
「え…?」
バタンと部屋の扉をビクターが閉じる。
「…そんな顔されたら、許さない私の方が悪いみたいじゃない…まったく」
「え… ちょっと待って!? 何で?」
「…今にも泣きそうな顔。反省しているのは顔を見れば分かる…。ルルの事は嫌いだけど… 許すしてあげる...」
「…ル、ルルって! ミルが私の名前… 呼んだぁぁ!!」
ルルはミルに走り飛び付く。
「う~まだちょっとヌルヌルだけど良いか! ミルが名前呼んでくれたんだし…!」
「…ちょっ!? 離れて!」
「あぁごめん。つい嬉しくて… ねぇもう一回名前呼んでミル!」
ルルはミルから離れる。
「…はぁ。ルル」
「やったぁぁ! もう一回!」
「…ルル。何回言わせる気?」
「私の気が済むまで、もう一回!」
「うるさい! もうおしまい」
「…でも何でいきなり」
「そんなの私達が友達になるからにはお互い名前を呼ばないと不自然でしょ?」
「…え? 良いの?! ミル、私と友達になってくれるの!?」
「…けど、あなたはきっと後悔するから、私みたいな子と友達になったこと…」
「…しないと約束しようミル! 私達は友達以上の親友の第一歩を踏み出したんだから! 良かった…ミルが初めてだったんだ。心から友達になりたいと思えた吸血鬼は…」
ルルは手をミルに出す。
「これは?」
「握手、友達になるなら一回しとかないと?」
「…そうなんだ。なら!」
ギュウ!と力強い握手をミルはする。
「ぐっ…! フフ… なら!」
ルルもやり返す。
「…たとえこの手を放しても、私達が友達であることに変わりはないし、継続確定だから!」
「…本当に後悔してからじゃ遅いのに… 分かった。あなたがそう言うのなら、この手が離れても... 絶対に私を離さないでルル」
「…もちろん!」
パッと手を放す。
「…それで仲を深めたのは結構だが、これはもう話し合う必要はないと判断しても...良いのか?」
ビクターはため息を吐き、二人に聞く。
「…ハハハ。そうなってしまいましたねビクターさん…。私とミルは部屋に戻っても?」
「…あぁ、元から原因よりも、お互いの仲を深めてもらうことを目的としていたが… 友となれば言うこともない。戻ってよし!」
「ビクターさんありがとうございました!」
「ビクターさん、ありがとうございます…」
二人は反省部屋に戻る。
どういう事か… 正人には分からないまま終わる。
とても早い決着に、目が見開いた気持ちだった。
その日は、部屋に戻るなり眠り朝を待つ事になったが、朝を迎えた後はどうなるのか… ミルは不安を抱えた気持ちで眠る。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
早く着地させ過ぎかなとも思いますが、ミルは抱えていたものを少し発散出来た状態で、ルルと友達になれました。
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