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第五話 あれからとこれから

 あれから1ヶ月がたった。


 テーブルと椅子も無事届き、ベットは寝室とした広い部屋に移し前よりも人間らしい快適な部屋になった。

 初めはテーブルを置くにはベットは邪魔だと言うとミルは…。


「なら、テーブルなどいらない」と言ってきていたが1日使う長い説得に納得しあった方が良いと理解してくれてかベットを別の部屋に移す事を良しとしてくれた。


 時々以前自衛隊の人だろうか、勝手に思っているが装備をした人が野菜や肉などを届けてくれるようになった。

 テーブルと椅子も組立式のを彼らが届けてくれたものだ。

 そんな彼らに食事を振る舞う時もあり、それなりに楽しい日々を過ごしている。


「ミル、そのソファにもベットにもなるやつ気に入ったんですか?」


「ふむ…! よい座り心地と寝心地だ…。こんなの引きこもりしろと言っているようなものだぞ!」


 ミルは楽しそうな顔でソファーで横になる。


 ミルの最近のお気に入りはこのベットにも変形するソファーとビーズクッションとますます引きこもり度があがる日々だったりもする。

 いや、吸血鬼のモチーフはコウモリで引きこもりなイメージだからそれは正解なのか? 見ているこっちの気持ちが和む。


「おい、掃除機をかけながら何か変な事を考えていないか?」


 ニヤニヤとゆるだ顔のミルが言う。


「いえ、何も…」


 僕はまだ少しミルに対して照れてしまう。こんなにも長く誰かといる時間に慣れていないからだろう。


 ミルと目を合わせるのが... 照れと恥ずかしさがあって相手に不快に思われてないだろうか…。

 それで自分が困っては変な気持ちが込み上げてくる。

 ミルがより特別に思えて… 大事な存在になりつつある。

 きっとなっているのだろうけど、まだ少し距離を僕は置いていたい気持ちもある。


「はぁ…」ため息を吐いては幸せが逃げていく。


 そんな日々を過ごしていたある日、日本の現防衛大臣が部屋に入ってきた。


「はい? あの… どちら様でしょうか?」


 チャイム音が聴こえ玄関の扉を開けると基地の人とは服装の違う久しぶりのスーツ姿の男性が立っていた。


「おっ? 眷属となった正人君だね。はじめまして。この基地の運営を任されている防衛大臣の笹原だ今後ともよろしく」


「ぼぅ! 防衛大臣!? す、すみません! 田中正人ですお世話になってます色々と…!」


「ははは… 今日は原初の姫様に用あって来たんだ… お邪魔するよ」


 靴を脱ぎ部屋の中を進む防衛大臣、挨拶を終え笹原さんをリビングに案内する。


「……」


 防衛大臣と顔を視界に納めた瞬間、先ほどまでニコニコと笑っていたミルの顔はどんどん曇っていく。

 寝転んでいたソファーからも立ち上がり防衛大臣を見上げる。

 ミルに手を伸ばせば届く距離で防衛大臣は止まる。


「お散歩以来ですね姫様」


「…! くっ! なに用だ…」


 ミルの顔は防衛大臣を睨み苦しんでいた。ミルと僕は目が合い僕をミルが見ている。

 防衛大臣もミルの見る先を見て僕と知るとクスリと笑い再びミルに視界を移す。


「ふーん… とりあえずあなたの休暇は終了です姫。正人君共々、場所を移しましょうか?」


 防衛大臣はしゃがみミルに視界を合わせ来た理由を話す。


「…ああ」


 ミルはそれを了承し防衛大臣の後を着いていく。

 

 いつの間にか着替えていたミルに軽くビックリしながらも笹原と名乗った防衛大臣に着いていく。


 「今更ながら正人君」と歩く基地の廊下で笹原防衛大臣は言う。


「吸血鬼の存在を含めた、そこの少女の存在は我々が隠さねばならない僕らと君との秘密っての分かっているね?」


 僕の腕をミルが掴んで離さない。けど掴む手から腕を通して震えを感じる。こんなにも震えているミルは初めてで... 防衛大臣とあってから変になったミルを見て目の前を歩く男に警戒する。


「はい…。深くは聞かされてはいませんが、喋ることが許されない秘密である事は知っています… それが?」


「…。いや、少し確認してみただけだ。君がどれだけこの先の道を理解しているか…ね?」


「黙れ…」と小さく普段の声とは違い魂に響くほど低い声で聞こえた。

 僕はミルの方を見たが死んだ魚のような血走った目で僕はとても見てはいられず直ぐに視線を前に戻した。


 防衛大臣の後ろを歩いていると扉の前で止まる。


「…じゃあ部屋にも着いたし作戦会議といこうか」


 防衛大臣は扉を開け部屋に入る。僕達も入ると壁と天井、扉まで黒い部屋だった。今までとは違い死角を無くすように部屋の至るところに監視カメラが取り付けら横長のテーブルと椅子が置かれただけの異質な部屋だった。

 ドラマでみる取調室みたいだ。


「さあ二人とも椅子に座って吸血鬼殲滅の作戦会議だ」


 横長に広がるテーブルの向こうで椅子に座る笹原を僕の腕を掴みながら睨み付けるミル…。何かあったのは分かるけど… とても… いや、今聞くべきではない事だと分かる…。


「今回はどうするというのだ…。また火攻めか? それとも効きもしない銃火器の類いか?」


「はは、椅子に座った瞬間饒舌だ姫は…。そんなことをするわけ無いじゃないか今回はもっとシンプルなやつ、姫を使った囮作戦だよ…」


 笹原という男は淡々としながらもニコニコと笑顔を崩さず、身の毛も震えるほど冷たい目をしていた。

 目を会わせたくないがミルと笹原から、目を合わせ瞳の揺らぎ一つ無い瞬きする時が息を飲むほど緊張感が伝わってくる。

 目を会わせ続けるミルがとても頼もしく思えた。


「良いのか? 私が捕まっても…。ここの基地の連中では吸血鬼一人を取り押さえるのに百人用いたと聞いた…」


「そうですね… ですがあの時とは違います。それに… 今回は正人君がいます… それにあなたはそう簡単に捕まってはくれませんし――」


 ダン! と笹原がしゃべる言葉を遮るようにテーブルを叩く音がした。それはいつもは笑顔なミルが出した音だった。ヒビが入るテーブルと宙を舞うその破片。

 怒りからミルの肩は震える。


「ふざけるな… 貴様ふざけるな…!!!」


「おぉ怖い、怒るほど大切なんですかその… 眷属は…?」


 じっとりとこちらを見てくる笹原防衛大臣に恐怖が増す。

 人ではない目をした防衛大臣… 直感ながらそう感じた。人間のする眼では無い... 何か潜んでいそうな吸い込まれんばかりの空気を纏い… 蛇に睨まれるカエルのように動けなくなりそうで声も出せそうにない…。

「ゴクリ…」と喉を鳴らすことで意識を保つ。


「ですが、まずは落ち着いて話し合いましょう… でなければ姫様と正人君を呼んだ僕の時間が無駄になりますので」


 笹原は相手をわざと怒らせているように見えた… 嫌な部分にあえて触れ逆撫でする… そう見えたが、許せはしない…。

 そう思うけど… 会話に入る勇気が僕には無く、見ているだけだった。


「許さないからな私は… マサトを… 私の眷属を道具のように扱うのは!」


「姫様… あなたはお忘れなのかもしれませんが、原初にとって眷属は道具です。血を吸い終えた肉体に気まぐれに自身の血を垂らし生み出し使役する化物… あなたはそれを良く理解し生み出したのでしょう? あなたが彼を眷属として選んだのも自身を護るもの欲しさに手頃で新鮮な生肉があったから利用した… それだけです」


「そんなことは無い!」


 ミルは、ハッキリと否定した。吸血鬼の “姫” は毅然と相手を見据える。


「私はこやつに死なれては後味が悪いと思い、属として蘇生後に人間に戻れずとも、人間として暮らせるようにしてから帰そうと考えた」


 その言葉は何をてらうでもない、真っ直ぐな気持ちがあった。


「……だが、貴様らはこやつを帰さぬと言った。記憶を消す手段を持ちながら、そうはしなかった…。なぜだ? 本部にいるアイツの命令か?! 答えろニンゲン!」


「…それは言えませんが。眷属になった以上記憶を消そうがもはや『無関係』ではいられないとご理解をしてから話します? 記憶を消して『はい、さよなら』なんて出来ない事、あなたが一番よくご存じでしょう」


「だけど… 私は…」


 防衛大臣はミルを挑発するように言っている。ミルはその言葉に心を痛めて震えている。


「ち、違う…」


 バンと笹原は机を叩き半分に割れるテーブル。


「いい加減思い出したらどうですか自身がどうしてここに居るか…」


「違う…」


「いいえ違わない。なぜあなたがここに要るか良く思い出してみましょう…」


 肩を今度は僕には分からない感情から怒りか悲しみからかそのどっちもか気持ちから震わせ、今にも「はい」とミルが言いそうになっている。

 僕は手をミルの口をソッと隠すように抑えていた。

 カッコつけてか、そうしてしまった…。

 ミルの口を隠す手にではなく僕の視線は笹原を見ている。


「あの、僕を抜きにして話を進めないでください!」


「君は関係はあるけど… 君の主人である姫様に聞いて何か不満でも正人君?」


 わざとらしくこちらに視線を移した笹原と目が合う気持ちの悪い、最悪な気分だ…。


「…なら君に直接聞く。君は行って死んでくれるか? 分かっているだろうが… 拒否も黙秘する権利も君にはない。ただ姫様の道具(騎士)として守って散れ。そのために君が居ると分かっているのか?」


かけていたメガネのレンズを拭きながら笹原は余裕の笑みだろうかはたまた勝利の笑みかこちらをにこやかにメガネを拭きながら見てくる。


「待て殺させぬと言う()()であったはすだ!? ダメだ私だけが行く!」


「お静かに姫様… それに姫様それは()()()ですから、今は姫は黙ってお座りを…?」


 これ以上ミルに強引に作戦を迫る笹原に我慢が出来ず椅子から立ちあがる。


「ぐっ! 笹原さん… あなたは!」


「おっと正人君、暴力はいけない。仮にも君は半分は吸血鬼だ。殴られては僕は死んでしまうかもしれない」


「……分かりました。行けば良いんでしょう。それがあなた達の考えなら僕は逆らう理由も無い。ですが僕はもう死ぬのは勘弁ですから必ず生きて帰ってきます」


「やめろと言っている…。おまえでは吸血鬼に敵うわけない…!」


 ミルが横に座る正人の腕を掴む。その目には先ほどまであった毅然とした瞳は消えなにかに怯える少女の目をしていた。


「ははは! そう来なくちゃ…。本当に純粋に男の子だ君は… ははは…。本当に君が眷属で良かった…」


 防衛大臣は小粒の涙を流すほど笑っていた。


「ただし笹原さん、あなたに対して条件がある」


「君が僕に? 叶わない願いかもしれないが言ってみろ」


「帰ってきたら一発殴らせろ。もちろん顔面にだ…! 手加減はするから安心しろ… それだけです」


 「ふーん」と言い笹原防衛大臣はその場を去る。最後に「楽しみにしている」と出る際に言って出ていく。


 僕らはそのまま歩いて部屋に戻る。帰り道に色々と感じるものはあれど、今日始めてミルのあんな顔を知った。

 とても怖くて忘れることなんて出来ない顔だった。


「おい、マサト… こっちにこい…」


「? はい、どうしましたか」


 部屋の玄関から靴を脱がずにその場で立ち続けるミル。


「その場でしゃがめ。ん…」


 しゃがんだ瞬間ミルは抱きついてくる。


「あ… あの、これは…!」


 「ん…」と抱き締めろと合図を出し出来る限り優しく抱き締める。


「くすぐったいな…。ふふふ…」


「す、すみません…」


「いや… このままで良いんだ…。今日はありがとうな… 私をあの男から守ってくれて…」


「…。守れてましたかね…。僕はあなたを… ミルをちゃんと守れていましたか。半分以上僕のことで余計に辛い思いさせていませんでしたか。ミルが辛いのは今の僕にも辛いことなので、僕にとってミルは… 星ですから」


「星か、そうか…。うん! お前はちゃんと出来ていて偉いぞ眷属よ。えへへ…。だからって無理は禁物だ… お前は私の眷属だ他の人間に好きには出来ぬ私だけの従者であり家族なんだから... お前だけが私の救いだから無理はし過ぎるな」


 ミルの手がより強さを増して体を締め付ける。


「それは… その、心恥ずかしいですが… とても嬉しいです。家族ですか、ならお母さんと呼んでも良いですか?」


「な! オマエ… 母ではなく今後もミルと呼べぇ!」


 その後、ハグを終えて、リビングに向かい食事にする。

 僕は久しぶりにレトルトカレーを食べ血液パックを飲んでいるミルを見ながらお互い微笑む形で楽しい食事をした。


 ミルに出会う前のあの時から…。

 多少は変わっているのだろうか。

 血液に慣れたという点では変わっているなと感じた。

 最後まで読んでいただきありがとうございます。


 まだ書き慣れてきていませんが読んでくれてありがとうございます。

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