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第四話 涙と星

 お風呂が沸く音が聞こえる。


「む…。沸いたか… お風呂が…。ふわぁ… では入ってくる…」


 よろよろと寝起きの体を起こし風呂場に向かって歩いて行く。

 さて僕は何をするか…。食べ物については風呂上がりにでも聞こうとしていたが…。


 そうだ洗濯だ。

 日はまだあるうちに洗濯を済ませよう。

 洗濯機はさっき風呂場から帰る時に見えたから後は洗濯物は…。

 かなり溜まっている…。

 ミルはどうやら洗濯をしないらしい…。


「はぁ、仕事をくれるのは嬉しいけど… 風呂掃除をしてくれるなら洗濯も終えて乾かすだけにしてほしかった…。欲張りだろうかこれは…」


 まあそう思っても洗濯物は綺麗にならない。

 洗濯用洗剤もある事を確認出来たし、洗う物を洗剤ごとに分けて今日はまとめてあられるやつだけを洗おう。

 ゴォーと音をだしながら回る洗濯機。


 うーん次は…。台所は綺麗だ…。床をと考えはしたが綺麗だし…。食事といきたいが… 吸血鬼であるミルにとって血液以外の食事は考えられないし…。


「そうだ! ベットを天日干ししよう」


 ベットの布団をベランダに持っていきそのまま干す。季節は春だからかちょうど柔らかな風が吹き始める。


「ふ… 気持ちいい風」


 あちこち歩き回ったり布団を干していたから洗濯機の音がする。


 ピッピー!

 

「行くか!」


 洗濯籠に洗ったものを移し洗濯バサミやハンガでベランダに洗濯物を干す。

 毎回自分の洗濯物を洗っていたからか… 慣れたように家政婦じみたことも出来るようになっていた。これも前までは母がやっていたことだと考えるとやはり家が恋しく感じる。


「はぁ…」


 洗濯機で洗っては干すのを繰り返し洗濯物を全部干し終え… 一息を入れる。

 今更ながら僕は都合の良い人間なんだと感じる。その時その時で気持ちが変わり、出来ないと思っていたことも案外出来たりする。天才とか秀才などとは違い… 収まりの良い性格なのだろう。

 郷に入っては郷に従え… その精神性なのかもしれない。

 まあ今はそんなことを気にする暇を与えてはいけない余裕を見せてはいけない。

 余計な考えが囁いてくる事があるから僕は弱いからそれから耳を塞ぐ。


 ガチャとお風呂場の方から聞こえる。どうやらミルがお風呂からあがったらしい。


「はぁー! 良い湯だった…。マサトおまえも今のうちに入ってこい、昼間に入る風呂は気持ちが良いぞ」


「いえ… いえいえ! 僕は後からゆっくりと入りますから…」


「む? そうか… せっかく気持ちが良いのに…」


 先ほどとは違う服に着替えていた。先ほどまでドレスみたいな衣装だったが謎のキャラのTシャツに短パンを履いていた。


「やはりこの服は快適で良いなぁ…。私が日本を好きな理由の一つに引きこもりなるものがある。私はあれに憧れる…。そして私は知ったこの衣装が引きこもりを快適に過ごす服装だとな! 動きやすい服装だ」


 「むふ!」無い胸を張り自慢げに話す彼女に少しドキとかわいらしいと感じてしまう…。


「そうだ…。あのミル僕は… ご飯はどれを食べれば?」


「ん? そんなの… そこのカレーを食べれば良いだろう? そのために用意させたのだ」


 さも当然という態度でベットに座るミルは話す。


「カレーですね。分かりました」


「ん、カレーは嫌いか? 別の物を用意させようか?」


「いえ、今まで自炊でしたのでインスタントは慣れなくて… でも嬉しいですカレー! 大好きなので」


「ふむ… 人間はこれら、いんすたんとを好き好んで食べると聞いていたが…。自炊か…。まあ今日はそれを食べろ」      


 一瞬チラリとこちらをミルは見てきた気がしたが気にする必要は無さそうだ。

 今日の残った暇な時間は世間話をしたり、部屋の確認をしているうちに時間は過ぎていき気づけば夕方に変わっていた。


「では夕食としよう。私はこのパックを飲むが…。大丈夫か顔色が悪いぞ…」

 

「あ… いえ、血が苦手なだけなので気にせず飲んでください」


「……そうか。なら私は外で食事としよう。おまえはそこで食べていろ」


 眷属を置いてミルはばつの悪い顔で部屋を出ようとする。


「あ! 外に出るのなら折り畳みでも良いのでテーブルとそれに合う椅子を基地の人に頼んできてもらえますか?」


「それくらい! …。いや、言っておこう」


 ズシンと鉄の扉を閉じミルは外に出る。


 さすがに図々しかっただろうか…。でも一通り揃った部屋にテーブルが無いのは食事の際に不便だ。

 これも家に帰れない寂しさからだろうかと考えながらレンジにレトルトのご飯とカレーを温め床に座り食べる。

 食べ終えてもミルは帰っては来なかった皿を洗い終える。

 暇になった時間、お風呂に入ることにした。

 何かしてないと落ち着かない。


 そういえば着替えは…。玄関に置かれていた2個の段ボール。どっちかが服だろうか…。

 僕から見て右の段ボールを開けると中血液のパックだった。先程よりは見慣れてか驚きはしなかったが胸がゾワリとした。


「ならこっちが… おっ、合ってた」


 同じサイズの服やズボンなどの着替えが入っていた。箱から一式取り出し風呂場へ向かう。


「ふぅ…」


 髪を洗う。僕は髪から洗う派だ。ちなみに体は右足からだ。

 体まで洗い終え、湯船に浸かり予定もない明日の事を考える。


(まだ…死ねなかったね僕)


 閉じた耳を貫通して頭の中で囁く。声は自分の声でもやはり一人は辛いことを考えてしまう。逃げてしまいたい現実は僕を許さない。


(父と母の事なんてもう忘れて楽になろうぜ? もう良いんだよ、僕よく頑張った。これ以上苦しむ必要もない。だから忘れて生きよう?)


「忘れて良いわけない。そんなこと… でき無いよ…」


 他者から見なくても馬鹿みたいに独り言を繰り返す狂人になっているのだろう。


(馬鹿で弱虫な僕、生きてるよ今もきっと僕の妄想の中で…)


 不出来な僕の心の囁きは僕の孤独から生まれた。友達とかをもっと大事にしていればよかったとか…。病院に行って治せよとか言われてしまいそうなほど僕は弱く脆い大人の姿をした子供なのだろうか…。


 「じゃあね弱い僕また明日」と風呂上がりに言われた気がしたがそれも幻聴だ。

 体の水気をタオルで拭き新しい服に着替え終え髪を乾かし終えたら後は何をしたら良いのだろう。


「何で生きてるだ…僕だけ」


 風呂をあがる頃にはもう夜になっていた。


 ベランダにはミルが立って空を見ていた。


「うむ? お風呂を上がったかでは行くぞ」


「あ、ミル。行くって何処に…」


「それは秘密だ、着いてこい」


「あっ、ちょっ!?」


「良いから着いてこい!」


 強引な力で引っ張られ、姿以上の力で驚いたけど、ミルは吸血鬼であることで納得する。


 部屋から出てかなり歩いた。草木生い茂る道をひたすら進む。


「あの、あとどれくらいかかりますか?」


「もうすぐだ。お! 見えた」


「え?」


 そこに基地の光も届かぬほど高い場所に出た。周りは崖になって踏み外すと危ない場所に1ヵ所シートが敷かれていた。


「ここがおまえに用意した秘密の場所だ。今日はここで星を見よう」


「星ですか?」


 そう言いミルはシートの上で横になる。僕もその横に手招きされ横になる。ミルは空を指差す。


「招いといてなんだが… 私は星にはあまり詳しくなくてな…。でもマサトは今日1日見ていてどこか今の生活に不安に感じているらしい。私なりの不安解消を兼ねたものだ。こうしてただ煌びやかな星を眺めてその不安を一瞬でも忘れさせることが出来ればと、思ってな」


「不安を... 忘れる…」 


 ただ空の星を見る。


 そもそもこんな夜空を見ることなんて始めてだ。町の夜空は街灯とかで見えずらい。小学生の時に図書室の図鑑でしか見たことない。

 だけど、今日の夜空は知らないようで知っている安心感があった。

 心の重荷もスッ~と消えはしなかったが、この時間だけは忘れることが出来るそんな気がした。


「お! 今流れ星が流れたぞ! 人間は願い事をするのだろう? マサトの不安がなくなりますように…!」


「ハハ、口にだしては願いは叶いませんよ?」


「なっ、そうなのか!」


「ハハ、でも… 嬉しいです。ありがとうございます… ハハ…」


「マサト、泣いているのか?」


「え? 泣いてなんか…。あれ… どうして涙なんか…」


 頬を一滴だけ雫が落ちる雨が降っているわけではない僕の目から流れた雫が一滴流れる。


「まぁ、嬉しい時でも人間は泣く。こうした時を嬉しいと言ってもらえて私も嬉しい…」


 そう言うミルはキラキラと瞳を赤く光らせて空をみる。瞳に反射する夜空が瞳と相まってとても綺麗に感じた夜だった。

 その場で寝てしまい、朝日を見て部屋に帰る。

 その日は部屋に戻ってからもベットで二人倒れるように寝てしまい、目が覚めた頃には昼になっていました。

 最後まで読んでいただきありがとうございます。


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