第二話 吸血鬼の眷属?
ピッピッと音がする。
これはあの世からの鳴る音だろうか。
天使の鳴らす楽器にしてはどうも機械的だがきっと天国も機械化が進んでいるのだろう。
死んだことなんて無いから分からないがこんな音が鳴るのがあの世なのだろうか。
だとしたから僕はやはり死んだのだろうと思い重い目蓋を開ける。
「…。ぐ…!」
眩しい光りが出迎えるここは天国か? と思えた一瞬を裏切るように僕はベットの上で目を覚ます。
どうやらここは病室内だったらしい。
あの世ではなく病室とは… どうやら僕はまだこの物語から脱することは出来なかったようだ…。
「ここは…」
どうして? と考えている暇も無く、病室の扉が開く音がする。
「ん? おお! 目が覚めたかね、どうやら回復は順調のようだねハハ」
これは何かの冗談かと思った。だって目の前にはテレビでみるようなスーツ姿の総理大臣が居たのだから。
「え? あ、あの… こ、これはどういう…」
「まあまあ、まずは落ち着いて横になりながら聞きなさい? 君は吸血鬼に襲われていた被害者なんだから…」
「え? あの… えーと冗談ですか? あの吸血鬼? 映画で観るようなフィクションやオカルトの…」
冗談を言う人には見えない。
吸血鬼と言えば何かと題材にされる怪物だけどそんなのは現実にいないはずのオカルトの類いとして知られるあの吸血鬼と総理大臣は言う。
「そうだ。おっと… 自己紹介が遅れたね。テレビとかで知ってくれているとは思うが…一応自己紹介だ。私は桐生勝職業は総理大臣をしています。今後ともよろしく」
「あ! …田中正人です」
ベットから起き上がり、お互いに握手を交わす。まさか総理大臣と握手できる日が来ようとは思いもしなかった。
「あ… あの! 吸血鬼て言いましたが… 実在したんですか?」
「君も見ただろう… あれが真実だ…」
病室の椅子に座りながら質問に軽く答えてくれた。反応から実在していたらしい。
「あれらは元から人間社会にいた。存在が確認されたのはもっと古い時代からだが… 20年前から突如再び姿を確認され始めた。始めは都市伝説や見間違いなどと言われていたが… そうなっていれば良かったが… これが現実だった。安心しろ、君が助けた少女は無事保護した」
重々しい顔で総理大臣は威厳を感じる顎の髭をじょりじょりと撫でながら話す。
「まあ固い話しはここで終わりにして、今は… 君に頼みがあるんだ!」
「…頼み、ですか? 総理大臣から僕に...」
ニコニコとした総理大臣の笑顔に何処か不気味さを感じながらも話を聞く。
「君が助けた少女… 彼女も吸血鬼なんだが… どうやら君は彼女の眷属になってしまったらしい。詳しくは彼女自身も話してくれなくてな… 私では何も理解できない状況なんだ」
「…眷属って、あれですか吸血鬼の従者みたいなやつですか?」
「その考えで正しい。
君のはその程度で自由がある。まあ、自由がないのがほとんどの場合が多いらしいがな。
とまぁ従者になった君は彼女の眷属として彼女と共に暮らしてほしい… 共同生活と言うやつだ」
「な! いきなりそんなことを言われても... 暮らすってどうしてそんなことに…」
「ああ! 家の事は心配するな。君たちが暮らす部屋は既に準備済みだからそこで暮らせば良い」
「そんなことでは、あの… 家に帰ることは?」
「それは無理だ諦めなさい。君には彼女の側にいてもらう。君を通して彼女の居場所や状態を知られるのは困るのでな。もし帰ると言うなら君を消さねばならなくなる…」
淡々と言葉を吐いてくる。背筋はゾワリと撫でられ水バケツが背中に掛けられるが如く冷たさが走る。
「そう警戒するのは正しい事だが、君の生死は既に我々が握っている。この部屋も無数の監視カメラや拘束具や私の指示一つで君を取り押さえる者達を入ってくる。君は分かるよね、これは脅しだ。早く人を従わせる方法の一つの脅しを君にしている…。理解する時間は君には無い」
淡々と口にする総理大臣。
「なっ! どうしてそこまで僕に… あなたは僕に何をしろと言うんです!!! ゴホゴホ…!」
「あんまり興奮しないで、眷属になったばかりで体がまだ安定してないんだから」
心配そうに僕を見ているが話を聞いた後からだとわざとらしく思える。
「始めから言っていることだ…。君を通して彼女の存在を知られるのは困るんだよ… 眷属一人で世は乱れてしまう危ういんだ今の世界は…。別に君一人の命は安い命だ… 彼女を隠すためならね…。今も君を殺さないでいるのは彼女との約束があるから君は生かされている。今の君には法律は適用されない人間ではない君に法律はないのに命があるのは我々の慈悲と思えよ少年…」
「っ…!」
先ほどまでの軽い口調からドスの効いた低い声で話されて体は竦む。総理大臣の本気が伝わる重々しい声で話す。
「分かりました… そうすれば良いんですよね… 拒否権なんて初めから…無かった」
「そんだ、うん! 君なら分かってくれると信じてたよハハハ!」
バシバシと軽く肩を叩かれる。新社会人の僕には知りたくもない重荷が痛くもないはずの肩が重い。
「じゃあ私は帰るよ、まだ仕事があるからね。午後には退院できるはずだから君はそれまで覚悟決めといた方が良いよハハハ!」
「…はい そうしておきます」
あの人も一つの化物だと感じた…。
まだよく知らない実感もない吸血鬼よりも怖い化物は人間という欲まみれの化物だと。
一人の犠牲で多く救うヒーロー像が正しいと押し付ける総理大臣…。
代表としては正しい、一個人でもある僕の考えなんて塵にも等しいものなのだろう…。
ガラガラと病室の扉を閉じる音と共に全身の力が抜けボフとベットに横たわる。
「はぁ… 家に帰りたい…。はっ! てか仕事はどうなったんだ! このままじゃ無断欠勤になってしまう… どうしようか… はぁ…」
病室を飛び出す。病院内なら電話の一つでもあるだろうと考え探しに向かう。
財布は病室に置かれていたからそれを手に電話を探す。
「あれ… ここ何処…」
そして僕は知らない病院内で迷子になる。
手当たり次第ドアを開けては階段を降りたり上ったりしながら道を進んでいく。
だって知らない場所だからしょうがない。
さっきまで寝込んで目が覚めたら病室で知らない病室。これはしょうがないことだと思う。
「あれ… あれ~… ここも違う… あ! あぁ… 違った… 受付くらい見つけられれば… 何処だ…」
病院内をひたすら歩く不審者になってないだろうか。
服装は入院服だから大丈夫だと思うけど… あっちこっち歩いていると喉が乾く。
ちょうどそこに自販機が見えどうしてかトマトジュースを買っていた。
今更ながら僕はトマトが苦手だ。
普段我慢すれば食べられるが自分から決して食べようとはしない物を…
ましてや更に嫌いなトマトジュースを買うとは普段の僕からは想像も出来ない。
「ゴクゴク… 足りない… 喉が乾くなぁ…」
自販機に目もくれず… フラフラと視界は霞み、どうしてか喉と同時に腹も空いた。
ぐぅ~。
お腹も空いてきたな… 何か食べないと死んでしまいそうなほど空いてきた…。
赤い液体… トマトジュース… とも違う… そんな物しか喉を通らず腹を満たせない気がする。
ゴクリ想像しては喉が鳴る。
「ハァハァ…」
喉が痛… 乾いてかとても痛い。フラフラと病院内を歩く。
夢心地とでも言えば良いのか… 地面が無いと錯覚してしまうほどフワフワと気持ちが高ぶり…頭から麻薬を吹き出しているみたいに意識がぼやける。
「もう何処に…。あ! やっと見つけた! 待ちなさいそこの眷属1号!」
人っ子一人の気配すらない病院内で幼い少女の声が響く。
耳に聞こえたその誰かに呼ばれて振り向くとあの時一緒に逃げた少女がいた。
「ハァハァ… 甘い… 匂い… 良いニオイ」
どうしてだろうかあの少女からとても良い匂いがするご馳走を見ている犬とでも言えば良いか。
まるで本能に突き刺すような体が震えるほどの匂いが… 昂るとても…興奮から体が震える。
「はぁ… そんな体で歩いたら空腹になっても仕方ないが…。ふむ… 思ったより眷属化が早い… 私の血だからしょうが無いにしても… ふむ…」
「ぐっ! 僕から… 早く逃げ…て! ハァハァ…。血を… 寄越…せ! ぐぁわぁぁ!」
僕の体は目の前にいる少女に向かって飛び込む。
制御できない謎の衝動が本能から来るものだろう。
じゃなければ僕は今、こんな小さな少女を襲おうなんて考えはしない。
普段の自分なら絶対にしない、常識的に考えて出来ないことだ。
「ふむ私の血を飲みたいか… だが駄目だ…。おまえは… そのまま人の心のまま生きよ。ふっ! 眷属よ! 我が血、原初の血族が命ずる。貴様は今この瞬間から吸血を禁ずる!」
「ぐぁぁ! ぐっ! ハァハァ…」
少女の言葉を聞いてから本能を押さえつけられるような感覚が体の衝動が無くなる喉を刺す強い喉の乾きも治まり、理性が宿る獣ような感覚だけが体を撫でる。
「うん、これで良いかな…」
「ハァ… 君は… 何者なんだ…」
「何って… あの日本人の代表から聞いてないのか… 私は吸血鬼だと?」
「それは聞いた… 理解はまだ出来てないけど… する必要も今はないけど…。それよりも今… 僕に何をした?」
「単純なことでただの躾だ。おまえも見たことくらいはあるだろう? 家畜やペットに対してとは多少違いはあるが躾だ。私の意思とは関係ないことをしたおまえに対してそれをしたまでだが?」
「あの… 衝動が一瞬で消えた。あれは何なんだよ! 僕は何をしようと…」
「単に腹が空いていたから手っ取り早く私を襲って血を吸い取ろうとしたまで、ようは食事だ。あのまま病院外に出ていれば… おまえ… 化物の仲間入りだったけど、良かったな私が始めての相手で」
淡々と話し出す言葉を聞き続ける質問にはちゃんと答えてくれた。
混乱している僕を落ち着かせるようにただそれが必要と思ってか話し続ける。
「どうやら落ち着いたみたいだ。おまえには私の血が流れているんだから体は大事にしろ」
「君の… 血が…?」
「それは家に着いてから話す。今は病室に戻って出る準備するのだろう?」
「いや、それよりも今は会社に連絡を!」
「それなら案ずるな平気だ、あの日本人が色々してくれて今おまえは無職というやつになっている。退職? をして無事無職だ」
「はあ!?」
あれ、どういうことだ。いきなり色々とありすぎてまた混乱する…。
昨日まで勤めていた会社を退職して僕は無職と… 無職…。
いや、もしかしたら今の服装から無色かもしれない…。いや、現実を見よう… 彼女の後ろには総理大臣がいる。
今さら… 何が起こるかも分からない。それでも! あれだけ苦労した高校の就職活動を終えてやっとのやっとで決まった勤め先を今日いきなり退職とは…。
「またどうした? 次は顔色が青くなって… 頭大丈夫か?」
「今君にそれは言われてさっきとは違う意味で襲いたくなるから口閉じて…」
とまぁ今になって考えていれば… 僕は別に旅行が好きでもなく… 働くことも好きではない…。
これはきっと良かったことなのかもしれない、多分あの時男から彼女を逃がすため庇ってしまったのもこの世に未練なく死ぬために格好良く死ぬためのあの場を利用していただけで…。いや、余計な事を考えるのは止めよう。
今はこの現実をそのまま受け止めるだけしか僕には許されていない。
「すみません。まだ混乱する事はありますが落ち着きました。僕はあなたの眷属で合ってますか?」
「え? あぁ、合っているが… おまえ変だな…。気持ちが悪い… 表情がコロコロと変わってやはり頭の方も…」
「酷いですね… これでも最低限あなたに気を付けって作った笑顔を気持ち悪いとは…」
「やめろ、私の前で作り笑いをするな…。普通に笑いたい時に笑え。こんなことまで命令するまでもないが最低限の私の横に立つマナーなので覚えておけ」
「はい… 気を付けます?」
「何で疑問系なんだ…」
「だって普通はそんなことを気にする人はいないと思いまして?」
「はぁ… 私は吸血鬼だ。普通の人と同じで考えているのなら今後おまえとの生活が不安でしかない… だから、いちいち気にするな…」
「はい、気を付けます」
「うん、それで良い」
手を差し出され手を握り元の病室に案内される。
病室に戻ったら用意された服に着替え受付に挨拶し退院して外に出て気づく。
「そういえば吸血鬼さんは太陽光大丈夫何ですか?」
「あぁ…。
あれは昔の人間が信じる迷信だから太陽は別に平気」
嘘みたいな存在が迷信と言っていることにちょっとだけクスと笑ってしまう。
「クス… ふふ…」
「あぁー! 今、私を笑ったな? 良いのか? ご主人である私を笑って眷属であるおまえが笑って…?」
「おまえではなく、田中正人です」
「ふん、記憶の端くらいに覚えておくぞ。マサト! ふふ!」
軽口を許してもらえるご主人様に感謝しながら昼間の病院前で話しながら歩く。
目的地は知らないが吸血鬼さんが知ってるらしい…。
不安は前に進むことが僕に許された行動だと足を前に進める。
「さあ! 行くぞ眷属1号!」
今日、僕の日常は形を無くし崩壊し、変な日常が始まる予感と共に足は前に進む。
最後まで読んでくれてありがとうございます。




